9月15日にAdobeがFigmaを買収したというニュースから、今回の買収によりどのようなシナジーがあったのか?を考察したいと思い、特許情報を中心に分析を行った。
なぜ、Illustratorやphotoshop等、デザインに関するツール・プラットフォームで強者であるAdobeが買収を行ったのか?
本記事は、個人の見解である。本記事の利用者自身の責任において、記事の活用を行って頂くようお願い致します
AdobeがFigmaを約200億ドルで買収
今月15日にAdobeは、Figmaを買収すると発表、業界が騒然していた。
日経の記事によると、
買収額は割高として、なぜAdobeはそれを是としたのだろうか?
Figmaとは
Figmaとは、ブラウザベースでデザインを共有、共同化ツールである製品「Figma」を提供しているベンチャー企業であり、資金調達額総計3.3億ドル、現在、シリーズEのラウンドに位置するユニコーン企業である。
製品のラインナップとして、ブラウザで共有作業できるUIを活かし、ブラウザでリアルタイムにブレインストーミングなどを行うのワークツールや、
直感的に使え、テンプレートや素材の柔軟性の高いデザインツールを「Figma」として提供している。
Adobeとは
Adobeとは、PhotoshopやIllustratorなどのクリエイティブツールをはじめとした製品群を保有している大企業である。
2011年にCreative Cloudに転換し成功を収め、現状ではAdobe Creative Cloud、Adobe Document Cloud、Adobe Experience Cloudというクラウド型のサブスクリプションサービスに移行している。
今日その恩恵を得ているデザイナーは多いだろう。
また、Figmaと似たツールとして、AdobeXDを保有している。
AdobeXDは、Webサイトやアプリを簡単にデザインできるツールであり、 コーディングなしでプロトタイプまで作れ、共同作業も可能である。
似た製品を保有しながら、なぜAdobeはFigmaを買収したのか?
FigmaとAdobeのメリット
Figmaは、若い世代を中心に人気を集めており、乗り換えが多かったそうだ。ネット情報によると、CSS書き出しや共同作業の同期性が優秀であるとのことで、AdobeXDよりも柔軟な作業ができる印象を持った。
また、下記にそれぞれの特徴をまとめた記事があったので、引用させていただく。
やはりFigmaは、ユーザビリティに優れた製品のようだ。
Adobeはデスクトップアプリケーションを使用することになるので、やはりブラウザで行う作業に比べると、柔軟性が落ちるだろうか?
特許情報分析 Figmaは「インターフェース/セッション管理」技術が強い?
ウェブ上でのデザインを柔軟に、ユーザビリティ高く行えるFigmaを買収することは、Adobeの技術強化につながることがわかったが、もう少し踏み込んで特許分析を行った。
本分析母集団の検索式は、出願人を各会社名(Adobe,Figma)としたものを使用した。
Adobe の特許分類 IPC
特許分類からもわかるように、画像、動画の技術がポートフォリオの中核をになっている。また、ビジネス特許の分類(G06Q 30)もあるが、思ったよりもH04(電気通信技術)が上位にしかも、豊富に存在していない印象を受けた。インターフェースに関するものがもう少しあるものばかりと予想していた。
Figma の特許分類 IPC
Figmaはデザインツールがメインだが、Adobeとは異なり、インターフェースと通信に関する分類が付与された特許の割合が高い(特許件数が少ないので、比較するのは悩ましいが、)。これは、下記のCPCでのランキングからも同じ傾向が伺える。
Figma の特許分類 CPC
Figma保有の特許分類を軸としたAdobeの技術
Figmaの特許に付与された特許分類においての、Adobeが保有している特許の件数をランキングマップ化した。
このマップをみると、ランキング下位に、インターフェース関連の分類が多くあり、また、H04L 67/14:・セッション管理用に関する特許はAdobeが保有していないことがわかった。
Adobeは、保有特許が多いのにも関わらず、インターフェースやセッション管理に関する技術が弱いことが推察できる。
両社の出願推移 時系列マップ
さて、両社の出願推移を見ながら、細かな特許の中身を見ていきたい。
Figmaの出願推移
発明の名称を出願推移とともに記載しているが、発明の名称の中心は、やはりインターフェースについてであり、2019年からコンスタントに出願をしている。Adobeと異なり、画像・動画技術が中心ではない。
Adobeの出願推移
次に、Figmaの特許に付与された特許分類においての、Adobeが保有している特許の件数を時系列的にマップ化した。
・G06F 3/04845 :・・・・ドラッグ、回転、拡大、色の変更などの画像操作用に関してAdobeは最近出願が増加をしている
・H04L 67/14:・セッション管理用 は出願なし
上記に関係するFigmaの特許に着目する。
G06F 3/04845 とH04L 67/14を分類付与されたFigmaの特許
公報番号:US11269501B2
発明の名称:制約の競合のプレビューを提供する設計システムのシステムおよび実装方法
また、セッション管理に関して、下記のように記載されている。
ウェブブラウザを使用することが前提の発明であり、作業同期性を持たせるという記載がしっかりとある発明であった。
その他技術
初期は、純粋な画像処理技術をメインにした特許を出願していることも確認した。
公報番号:US8890885B1(2014年度出願特許)
発明の名称:ソース領域をターゲット領域に効率的にコピーしてブレンドする
Figmaの発明者
Figmaの特許の発明者をランキングマップ化し、彼らのプロフィールを確認した。その結果が下のマップである。
デザイナー、プロマネ、エンジニアで構成されており、その中には、日本人の名前もある。当初から日本に進出していたのは、これが理由だろう。
桑本氏は、元Adobeであり、製品戦略、ユーザーインターフェースに強い方のようだ。
また、発明の中心は、コンピューターサイエンスを専攻しているデザイナーであり、インターフェースに注力しているところは頷けるが、セッション管理(共同作業などの同期性)についてはどうだろうか?
セッション管理に関する特許の発明者はランキング一位二位の、
Marcin Wichary 、Nikolas Kleinとなっている。
この2人と桑本氏がFigmaの中核であることは間違いなさそうである。
現に、Nikolas Kleinは、設立者の一人である。
(この方が書いたデザインコンポーネントのインタラクションについてのブログ記事が何本かあった。)
また、注目すべき点として、現Adobeで、Brandee Evansという人である。
https://www.linkedin.com/in/bradee
Figmaにいる形跡がないのにもかかわらず、特許はFigmaが出願した2019年の特許に発明者とされている。(間違っていたようです。)
鈴木さんありがとうございました。
桑本氏が元Adobeであることから、繋がりが強い面もあるだろう。
共同研究ないし、買収は2,3年前から計画されていたのかもしれない。
まとめ
まとめをさせていただく。
・Adobeは前々から注目していたFigmaを買収した
・Figmaはデザイナーが中心の企業であり、ブラウザベースのデザインツールで、インターフェースとセンション管理が優秀である製品、技術を保有していた
・Adobeは、FigmaからAdobeXDで獲得していたシェアを奪われていた
・Figmaを買収することにより、その技術を活用し、Adobe XDの拡張が可能である
・ユーザーの視点では、Adobe各製品との互換性が増し、ブラウザ上でユーザビリティ、同期性に優れたインターフェース(セッション管理)で、Adobeの優れた画像・動画技術を反映したプロダクトを共有できる
シェア減とセッション管理の点において、200億ドルの買収は安かったのか、高かったのか。資金調達額からは高いように見えるが、将来のことを考えると、安い買い物かもしれない。
以上
参考
アドビの強みは「コンテンツ」と「エクスペリエンス」の両面戦略、日本法人新社長に訊く https://enterprisezine.jp/article/detail/14760