種 ~究極の機能美~
こんにちは。
ここ八ヶ岳は朝晩はすっかり寒くなり、朝起きると窓に結露ができるようになりました。
植物たちは花の盛りを過ぎ、種を結ぶ季節となりました。
今日は種についてのお話です。
植物の種には様々な形があるのですが、すべての種に共通して言えるのが、できるだけ親元から遠く離れたところまで飛ぼうとしていること。
親目線でいうと、「かわいい子には旅をさせよ」です。
種をなぜ遠くに飛ばそうとするかというと、自分の近くで発芽した場合、なにか災害や気候変動などがあった時、親も子も生きていけなくなる可能性が高いからです。
もう一つは、自分の近くで子孫がどんどん増えていくと、水や日の光や栄養を奪い合うようになるからです。
なので、親としては、子供に、自分の知らない、見たこともない環境で生きていってほしいわけです。
そのために、タンポポやガガイモ、ボタンヅルなどの野原の草は風に乗って遠くに飛んでいくために綿毛をつけ、イロハカエデなどの樹木の種は、滞空時間を長くして風に遠くに運んでもらうように翼をつけます。
(綿毛をつけたガガイモの種 Wikipediaより)
(綿毛をつけたボタンヅルの種)
(翼をつけたイロハカエデの種)
アメリカセンダングサやオオオナモミなどの、所謂「ひっつきむし」と呼ばれる植物たちは、種の周りにかぎ針状のものをつけます。
人の腰の高さくらいまで成長して、枯れてもそのまま立っていることで、その種が動物や人などにくっついて遠くまで旅をします。
我が家でも、庭に出て洗濯物を干して家の中に戻ってくると、スカートの裾がアメリカセンダングサの種まみれになっています。
(アメリカセンダングサの種。二股に分かれた先端部分は、よく見ると「カエシ」がついています。)
ちなみに、アメリカセンダングサはどこにでもくっついてチクチクするので山梨長野の方言で「バカ」などと言われていて嫌われ者なのですが、花の少なくなるこの時期に咲いている黄色い花は、虫たちの蜜源となるのでとてもありがたい植物だと思います。
鳥の力を借りて遠くに行く種を包んでいる、サルトリイバラなどの果実は、鳥の口に入る大きさで赤い色が多く、香りが少ないものが多いです。
これは鳥は赤い色を一番認識しやすく、嗅覚はあまり発達していないからです。
鳥の力を借りる果実は、すぐに下に落ちず、樹上に長くとどまっているものが多いので、私たちの目も楽しませてくれます。
(サルトリイバラの実)
私は、装飾性を排した、機能に特化した形=機能美にとても惹かれます。
なので、工具や実験用具の形を見ているのが好きで、とても美しいなあと思います。
今日は種の写真をたくさん載せましたが、種は、「風に乗るため」、「人や動物にくっつくため」、「鳥に食べて運んでもらうため」の姿をしています。
ただ生きていくためだけのシンプルな形。
植物こそ究極の機能美だなと思います。
【 追記 】
先日、「虫展 デザインのお手本」を見に、東京まで行ってきました。
私の講座に参加されたことがある方はよくご存じかと思いますが、私は小さい頃から虫が大好きで、植物の話をするときに、必ずセットで虫の話になってしまいます。
土の上に立っていると、土、植物、虫、鳥、空、自分は全部ひと続きだと、理屈ではなくいつも感じています。
展示は、虫の生き方や、それを分かりやすく魅せる工夫がとても面白かったです。
そしてとても心に残ったのがこの言葉。
ーーー以下引用ーーー
●視点の採集[ゾウムシ編]
ゾウムシは昆虫の中でも最も種が多いと言われています。
~中略~
たとえば私たちは、ゾウムシのことをほとんど知りません。
地球のあらゆる国々に、意外なほどすぐそばに(この施設の周りにも)いる、とても身近な存在なのに。
~中略~
でも、様々な視点から眺めてみると、小さなゾウムシの向こう側に、大きくて広い世界があることがわかってきます。
それはまるで宇宙のように果てしない世界です。
~中略~
それぞれの目を通してみているうちに、目の前にいる生き物が静かに教えてくれるはずです。
日常には未知があふれていることを。そして、視点をちょっと変えるだけで、目に映る世界が変わって見えてくることを。
ーーー引用終わりーーー
とても心に響きました。
これは虫に限った話ではなく植物も同じで、わたしはいつも、植物の向こう側にある、というか、植物も虫も、人も鳥も土も、すべてを内包する大きくて広い世界を感じています。
「虫展~デザインのお手本」は東京六本木で、11/4までの開催です。