[東京] パシフィックフィルハーモニア東京 第152回定期演奏会

■2022年10月4日(火) 開場18:00/開演19:00
東京:サントリーホール 大ホール

出演者
指揮:飯森範親
ピアノ:角野隼斗
合唱:東京混声合唱団
管弦楽:パシフィック フィルハーモニア東京

演奏予定曲目
トーマス・アデス:ピアノと管弦楽のための協奏曲(本邦初演)
ホルスト:組曲「惑星」作品32

はじめに

※今回、書きたいことがいっぱいで、ボリュームありすぎなレポになっております。
適度に飛ばし読み推奨。

チケット購入〜当日までの予習

角野隼斗さんが、本邦初演の協奏曲に挑むと聞いて、これは記念すべき日になるのではと、発売初日にチケットを購入。
指揮の飯森さんとのインタビューや、角野さんのYouTubeのかてぃんラボを見て、当日に向けてのワクワク感が高まった。

YouTubeのかてぃんラボ=メンバーシップ動画は、月額課金制の有料コンテンツではあるが、コンサート前に楽譜の拍子の捉え方や、本人の曲に挑む気持ちを聞けたので、本当に見て良かったなと思う。
興味のある方は、是非チェックしてみて欲しい。

予習で、キリル・ゲルシュタインさんとボストン交響楽団との演奏を聴いた時、第一印象で少しとっつきづらさを感じていたのだが、この動画を見てから、楽しんで聴けるようになった。 

彼のイメージでは、「異世界がワームホールで繋がっていて、それをぐるぐると冒険しているような、そんな情景が思い浮かぶ」のだそう。

飯森さんと「後半のプログラムが惑星なんですよ。だからなんか、宇宙をテーマにしていて、この曲もちょっと宇宙感あるよね」って感じで盛り上がったのだとか。

角野さんと言えば、大学時代は理系の研究者でもあった方で、この曲も、数学的な視点から楽譜の拍子を読み解き、その思考の過程をわかりやすく解説されている。

また、ボーダレスに様々な音楽に取り組まれている方でもあり、多面的な視点を持つ彼の曲の捉え方は、私の中で、とても腑に落ちた。

ああ、そう言うふうに聴いてみたら良いのか、と。

角野(前略)譜面で見るとなんだろうと思うけれど、音にしてみると、ジャズのグルーヴでこういう表現があるなと思うところがたくさんあって。微妙なグルーヴ感を譜面に起こしている印象です。
飯森範親×角野隼斗 トーマス・アデスに挑む!ふたりの歌が重なる奇跡の音楽を体感しよう より

飯森さんも、学生時代は数学がすごく好きで、昔から変拍子の作品にとても興味があったそうなので、日本初演をするのがこの二人なのは、ピッタリだったのではと思う。

飯森 歌うとすごく自然なんだけれど、譜面で見ると複雑という部分が多いんですよね。ジャズのようなノリを楽譜に記すことで、奏者にその拍子感覚を掴んでもらい、体の中に入れて、うまく崩しながら音楽を作ることが求められているのでしょう。それではじめて、音楽の意味が伝わるのだと思います。……そこまでたどりつくのは、とても難しいですが。
飯森範親×角野隼斗 トーマス・アデスに挑む!ふたりの歌が重なる奇跡の音楽を体感しよう より

また、トーマス・アデスさんについて、興味深いインタビューがあったので、こちらもシェアしたい。

曲を書く前から、曲のマスターは存在している」と言う考えを聞いて、運慶とミケランジェロも同じような話をしていたような……と思い出した。

ジャンルの異なる芸術家も、極まると見えてくる世界の景色には、共通点が多いのかもしれない。

開場前

予定時刻の十五分程前に到着。
今まで、サントリーホールには昼間のコンサートしか参加したことがなかったため、夜の風景は新鮮。
ライトアップが綺麗だなと思って見ていたが、これまでより人が沢山いるような気がする。

何かいつもと違う雰囲気。ビラ配ってる人もいる。

聴こえてくるクラシックの音色。
はて、何かイベントをしているのかな?
近付いてみると、でっかいスクリーンで豪華な演奏が!

どうもこの日、ARKクラシックスさんによる無料(!)のスペシャル・ライブ・ビューイングが行われていたらしい。
ほんのちょろっとしか観れなかったので、こんなことなら早く来ても良かったかも……事前にその日ホールで何があるか調べていれば気付けたんだろうけど、目当ての公演以外、そんなに調べないよね。こりゃ盲点だった。

そしていつものように、正面入口の上壁のパイプオルゴールの演奏がスタート。聴き終えたタイミングで開場となったが、ここで、この日は意外なアナウンスが。

ロビーまでの開場となっております。ホールへの入場は今しばらくお待ち下さい」

えっ、すぐ入れないの!?
結構珍しいパターンでは……

今年初めに東京国際フォーラムへ、角野さんのツアーの千秋楽を見に行った時のことを思い出すけれど、あの時とは大分規模が違う。
惑星では、プロジェクションマッピングをすると聞いていたが、その準備に想定以上に時間がかかっているのかしら……?

トイレを済ませたり、辺りをキョロキョロ眺めて時間を潰す。

どれくらい待っただろう。
時計を見ていないので、正確な所はわからないが、体感時間十分程度で、スタッフさんが中から扉を開けて来られて、ホール入場がOKとなった。

中に入ると、カメラや多数のマイクらしき機材がステージ上と空中にもあるのが、目に留まった。
プロジェクションマッピングのためのものだけとは、思えない。
録画とか録音するのかな〜(もしそうだったら、めちゃくちゃ嬉しいのですが)と淡い期待を抱きつつ、座席へ。

この日は一階の、角野さんのお顔を斜めから眺める辺りの座席になったなとピアノを眺めていたら、その横にも、マイクらしきものが存在感たっぷりに設置されていた。(気になる)

トーマス・アデス:ピアノと管弦楽のための協奏曲

オケの皆さんが入場した後、角野さんと飯森さんが登場。
お辞儀の後、コンミスさんと肘タッチし、飯森さんとアイコンタクトを取ってから、あまり間をおかずに演奏開始。

予想よりもパッと始まった感があったので、慌てて演奏に全集中。

ここから先、所々で私の妄想が大爆発しているので、ご注意を。
クラシックの曲だと特にそうなのだけど、私は聴いている時、頭の中に色んなイメージが浮かんで、止まらなくなりがちなのだ。

予習時はそんなに浮かばないのが不思議な所。

また、同じ曲でも、ソリストや指揮者、オケが違えば別のイメージが出て来るし、同じソリストでも、その時々で感じ方は変わる。

第一楽章

ジャジーで明るい雰囲気からスタート。
どこか映画音楽っぽさもある。
事前の予習では、捉えどころのなさを感じていたカオスなメロディだったが、透明感のあるピアノの音色がぐいぐいと意識を引き摺り込む。

音に向いていた意識を切り替えて、ステージを見ると、あの複雑怪奇なリズムをすっかりモノにされたのだろうか、角野さんが全身で拍子を取るように、ノリノリで弾いている。
直前に、死ぬ程大変と呟いていた彼だが、見事に仕上げて来た。男前だ……!
ついこの前まで、ショパンのコンチェルト弾いてたよね……? 凄い人……!

夜の都会の喧騒のイメージが、頭に浮かんだ。

第二楽章

この後の惑星の演奏に出て来る、土星と金星を足して二で割ったような雰囲気。(何だそりゃって感じだけど、他に適切な言葉が見つからなかった)

ピアノの最初の数音を鳴らす際、角野さんが音の響きを確かめるように、顔を上げていたのが印象的だった。

第一楽章とは打って変わり、静けさが広がる。
だが、静かなだけではなく、壮大なドラマを感じる音もあって。
この日、後で惑星を演奏するという事もあってか、SF映画の主人公になった気分に。

以下、出て来たイメージ。
今回は何やらストーリー設定みたいなものまで浮かんでしまった。

荒涼とした星に降り立つ主人公。
昔、戦争があった影響で、辺り一面は砂漠化している。
途中、爆撃の跡と見られるクレーターを発見して、ショックを受ける主人公。(中程で、私的には死の舞踏を想起させるようなメロディがあって、多分そこから連想)

後半は静けさの中にも、感情の激しい発露のようなものをメロディから感じた。

静かなオケの演奏の中で、角野さんの透き通るような美音が響き渡って、ひたすらに美しかった。

第三楽章

何故か浮かんだのは、どこかの街中での抗争。
それに加わっている主人公。
何故かこの楽章は、あまりSF味は感じなかった。
途中でピストルの音みたいなものが何発か聴こえて、それをきっかけに争いは終結。
負けた方のグループの様子が先に描写され、勝った方のグループが凱旋する様を次に眺めて、ラスト……みたいなイメージ。
なんだかんだでハッピーエンドな感じ。

クライマックスは圧巻。
フルスロットルで駆け抜けて行く角野さんに、目は釘付け。
低音はギュン! と唸るような音がビンビンお腹に響いて来る。
ラストは、おもちゃ箱をひっくり返したようなキラキラ音が、オケとピアノの両方から。

何か急にファンタジーな音色が聴こえてきたので、今まで浮かんで来たイメージは、主人公が見ていた夢だったのかも、と言う夢オチ設定がここに来て浮上(笑)。

最後、バシッ! とオケと角野さんが合って、爽快な気分で終了。
気持ち良い! めちゃくちゃ格好良い!

肩を抱き合うように立っていた飯森さんと角野さん、やり切った感のある、穏やかな表情のオケの皆さんが印象に残っている。

アンコール

二回のカーテンコールの後、ピアノに向かった角野さん。
冒頭の数音は、めちゃくちゃアデスで、
「え、まさか今からソロでアデス弾いちゃうの!?」
とギョッとしたが、そこからお馴染みのメロディ。

I got rhythmだ!」
冒頭のアデスの味付けのまま、演奏は進む。
いつもより何だか大人格好良いぞ……!
途中でアデス味のある不協和音を、アクセントみたいに振りかけてみたり。
お洒落すぎる。
即興でこんな演奏されたら、惚れ直すぞ〜!

止まない拍手で、この後もカーテンコール二回あったよ。

ホルスト:組曲「惑星」作品32

事前の予習

こちらの曲について予習していた時に、角野さんのファンの方から素敵な動画を紹介して頂いたので、そのリンクを貼っておく。

また、西洋占星術の視点から見た惑星の解説記事がとても面白かったので、それも貼っておく。

惑星それぞれに纏わる神話の神様のキャラクターイメージが、曲の元になっていると聞いて、一気に親近感が増した。

休憩中

ふと見ると、譜面台全ての上部に電飾が!
今思えば、照明の加減で暗くなった時も読めるようにだろうけど、飾り付け方が、クリスマスツリーの電飾みたいで、星みたいに綺麗だった!

・火星(軍神マース)

→戦争をもたらす者
冒頭、バックに星が流れるような映像が!
今から「太陽系旅行に宇宙船で向かうよ〜!」と言うような演出が素敵。

指揮の飯森さんにスポットライトが当たり、オケの皆さんにはうっすらとカラーのライトが。

ステージ全体は最初は青かったかな?(記憶が曖昧で申し訳ない……!)
途中から全体が赤く染まって、勇ましいリズムと共に、迫力の音色が響き渡る。
スターウォーズが好きな人は、有名なImperial Marchを思い出しそう。
だからか、火星にはすぐに親しみを覚えた。

空中にも紐でぶら下げられた小さな灯りがあって、それが上下にゆっくり動く!
(最初光ってない時は背景と同化してたから、存在に気付いてなくて、ビックリした)
それが、曲に合わせて、たまにギュン!と早く動いて、ゾワゾワした!

この時は赤く光っていたと思うけど、惑星ごとにカラー色々だった。

・金星(愛と美の女神ヴィーナス)

→平和をもたらす者
打って変わって、穏やかな世界へ。
冒頭部、スターウォーズのフォースのテーマとちょっと雰囲気似てるかも。
繊細な音色に、桃源郷のような景色が広がっているイメージが思い浮かんだ。
この時はステージ全体は青色で、空中に金色の電飾が横一列✖︎三で並んでたような……
ステージ全体を上から見た時に、漢字の三の字を書いたように、灯りがセッティングされていて、一列あたり、八個ずつあったように思う。(うろ覚え)


・水星(智神メルクリウス)

→翼のある使者
ローマ神話に出て来るメルクリウス(英語読みではマーキュリーセーラームーンを思い出すのは、私だけじゃないよね!)は、ギリシャ神話ではヘルメスをさす。

日本の商業高校などの校章に翼が付き、蛇が巻き付いた杖がよく見られるのは、商業の神ともされているヘルメスにあやかってのものらしい……と言う話を、聴きながら思い出した。

翼のついた靴であちこち駆け回っている様子を描写した曲のようで、実際に聴いてみると、まさにそんな映像が目に浮かんだ。
剽軽さを感じるメロディで、ディズニー的なイメージが膨らむ。
妖精とか、いっぱい飛んでそうな星と言う印象。

この辺りから、プロジェクションマッピングの記憶が曖昧に……(汗)

・木星(全知全能の神ジュピター)

→喜びをもたらすも者
平原綾香さんのJupiterのヒットによって、親しまれているであろう木星。
ポップスの曲として使われているのは中間部で、始まりと終わりは馴染みがなく、今回、新鮮な気分で聴いた。

ジュピターはローマ神話の主神ユピテル、ギリシャ神話では全知全能の神、ゼウスを示し、雄大な音色。

今日の演奏だと、すごい文明が進んでる星だけど、自然も美しいみたいなイメージが浮かんだ。
宇宙の旅人になった気分で、妄想が膨らむ。

・土星(農業の神サターン)

→老年をもたらす者
サターンはローマ神話のサトゥルヌスに由来する。
父殺しをした際、父親から、お前は自分の子どもに殺されるだろうと予言され、それに怯えたサトゥルヌスが、自分の子どもたちを次々と食べた(!)と言うエピソードを元にした、ゴヤの黒い絵が有名だそう。

私は今回調べてみて、初めて知ったので、それはそれはショックを受けた。(かなりグロい絵なので、食事中の方はググるのは非推奨)

それもあってか冒頭は暗めだけど、途中からシブ格好良い感じに。

農耕神でもあって、イタリアに黄金時代を築いたそう。
演奏を聴いていると、善政がしかれていて、農業で成功してる、景色が美しい星に降り立ったイメージが浮かんだ。

・天王星(天空の神ウラヌス)

→魔術師(マジシャン)
天空の神ウラヌス、創造神プロメテウスをイメージ。

水星と同じく、ディズニー味を感じる不思議なメロディ
ファンタジアのミッキーを思い出した。
魔法が発達してる惑星に迷い込んだようなイメージが浮かんだ。

・海王星(海の神ネプチューン)

→神秘なる者
ローマ神話ではネプチューン、ギリシャ神話のポセイドンをイメージ。

当時は冥王星の存在はまだ知られておらず、太陽系の最果てをイメージして作られたのだろう、不思議な雰囲気のメロディが印象的。

まだ未知の部分が多い星に降り立ったイメージが浮かぶ。
霧が出ている森の中で、洞窟を見つけ、中に入ったら水晶がみつかった! みたいなキラキラ音が中間部に。
合唱の歌声がすごく繊細で、オケの音に完全に溶け込んでいた。
歌っている皆さんは見えなくて、どうも扉の向こう側から歌っていた模様。
混じり合った音は神秘的で幻想的。
とにかく、美しかった。

終わりに

濃密なコンサートだった。
今も余韻で、まだ落ち着いていない。

再演は絶対するべきだと思う。
これ、一回で終わったら、勿体なさすぎる……!

アデスは、まるで角野さんのためにあるような曲だと思うので。

備忘録として書いているレポだけど、体験の一端でも読んだ方とシェア出来れば嬉しい。
(こんなに長いレポを、ここまで読んで下さって、ありがとうございます!)

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