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戴冠式について語りたい【大阪】マリン・オルソップ指揮 ウィーン放送交響楽団 with 角野隼斗

■2024年9月15日(日) 開演 14:00 / 開場 13:00
大阪:ザ・シンフォニーホール

Artist
マリン・オルソップ(指揮)
角野隼斗(ピアノ)
ウィーン放送交響楽団(管弦楽)

Program
モンゴメリー:ストラム
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第26番 「戴冠式」
ベートーヴェン:交響曲 第7番

<ソリストアンコール>
・J.S.バッハ:イタリア協奏曲 第3楽章
<オケ・アンコール>
・アイゼンドレ:『アツィンヘイラ』より「ダークグリーン」
・J.シュトラウスⅡ:シャンパン・ポルカ

はじめに

チケット発売時、カデンツァ有のモーツァルトでソリストは即興演奏にも定評がある角野隼斗さん。
彼が毎公演、ずっと同じ演奏をするとは思えない。
複数公演、もし足を運べたら、より楽しめるのでは……!
そう考えて、名古屋と大阪、二か所チケットを購入することに決めました。
(名古屋公演についても感想を書いているので、よろしければこちらもどうぞ)

と言っても、角野さんは人気沸騰中の方なので、取れるかは運次第。
幸運にも今回、二度聴く機会に恵まれました。

後半が公演によってベートーヴェンの7番と英雄の二パターンあるそうなのですが、名古屋と大阪はどちらもベト7。
正直、英雄も聴きたかったですが、チケットを取れただけラッキーだと思っているので贅沢は言いません。

別公演時に上がっていたX(旧Twitter)の角野さんのポストには、
毎日カデンツァを変えるという目標を自分に課している
とのコメントが!

もしやとは思ってはいましたが、全部変えるなんてすごすぎませんか……!

そして、いざ聴きに行ってみると――やっぱりカデンツァが素晴らしすぎて、もう堪りませんでした……!
名古屋とは別の感動がそこにはありました。

とんでもなくすごいものを味わったと言う感動と感謝の気持ちを込めて、体験を書き残します。

なお、今回は特に戴冠式の角野さんの即興に魅せられたので、そちらに焦点を絞って綴ろうと思います。

戴冠式

第一楽章

冒頭、ウィーン放送響の皆さんのみの演奏がしばらく続きます。

事前に予習として聴いていたいくつかの配信音源より気持ち早いテンポ感ですが、それに音の生きの良さみたいなものを感じて、何だか心地良い。

音の聴こえ方は、座席位置やホールの響き、湿度等色々な要因が重なって変わって来ると思うのですが、この日はとても温かみのある音色に感じました。

ふと角野さんを見ると――膝の上の指がずっと鍵盤を弾くように動いています。

オケのメロディを、一緒に弾いているみたい。

早く一緒に弾きたい!と待ちきれないでうずうずしている様子は、いつかのYouTubeで付けられたあだ名、子鹿を思い起こさせます(笑)

時には膝を手の平でポンポン、リズミカルに叩いてみたり、足でリズムを取ってみたり。
「ああ、なんて美しい音なんだろう……!」と言うような表情で頭を少し揺らす場面も。

そして、いよいよ鍵盤に指を触れた時でした。


満面の笑み。


なんて嬉しそうな顔で弾き始めるんだ、この人は。

弾くのが楽しくて堪らないんだと言う彼の心の声が、ピアノから聴こえて来るような、そんな音がします。

マエストラのオルソップさん、ウィーン放送響の皆さんの演奏に、安心して背中を預けるように演奏する角野さん。
ツアーで日本中を回る内、皆さんとの仲が深まったのかなと思えるような、とてもリラックスした様子。

オルソップさんと視線を交わした後や、ふとした時にふんわりと微笑んでいました。
まるでセッションを楽しんでいるかのようです。

終盤に差しかかると、すっとオケの音が消えて、ソリストのカデンツァタイムに。
この曲の音色も取り込みつつ、モーツァルトの世界観の中で、のびのびと弾く角野さん。

中間部は柔らかい雰囲気に変わり、後半は低音を印象的に響かせた実に粋な演奏であっと言わせて、そこから自然に元の曲調へと帰還。

心の中で思いっきり拍手しました。

第二楽章

ここでも、すごいものを体験しました。

前半、装飾音から妖精が生まれた幻覚が見えた気が……!

いや、何言ってるんだと突っ込まれそうなのは重々承知なんですが、信じられないくらい美しく光り輝く音の粒が、ピアノから魔法みたいにさあっと出て来たんですよ。

音楽素人の私の数少ないクラシック演奏体験から、似た音を上げるとするならば、彼が以前撮影&録音したショパンのピアノ協奏曲1番の第二楽章の中に何度か出て来る、キラキラした演奏が近かったかもしれません。
これにもう少し音数が足されて、虹色に輝く星屑のような細かい音の粒子が、鍵盤から飛んでいました。

この演奏を聴いて、私の頭の中では、鍵盤の音から妖精が生まれて、飛んで行く軌跡にきらきらと輝いている、例えるなら彗星の尾のようなものがイメージされた訳です。

妖精が飛んだ所は、空間の色合いが変わって行きます。
さながら水彩絵の具の筆から、キャンバスに色が滲み出すように、曲に深みを増すカデンツァ。

ピアノの音色でホールに魔法がかかって、世界がきらきら輝き出した
ように感じ、この素晴らしい瞬間に今立ち会えていると言う喜びで、胸が打ち震えました。

第三楽章

オルソップさん、オケの皆さん、角野さん、全員楽しそう。
明るいポジティブな感情が、音に乗っかって聴こえて来るような気がします。

そんな音の波に波乗りするみたいにノリノリで奏でられるピアノ。
弾くのが楽しい!と言う気持ちが、装飾音やカデンツァとして表れていたように思いました。

この時の演奏を聴いていて浮かんだイメージは、前の楽章で出て来た妖精と、皆さんが音でセッションしている場面。

聴いていて幸福感に心が満たされた、そんなひと時となりました。

ソリストアンコール

カーテンコール後、座るや否や演奏を始めた角野さん。
お、これは聞き覚えがあるぞと耳を澄ませます。
確か今年のツアーで弾いていた、バッハのイタリア協奏曲、第三楽章

客席の熱気、ホールに広がる幸せいっぱいな雰囲気の中、ノリノリで演奏されるバッハ。

バッハの曲と言えば、私の場合、演奏を聴いていると多くの場面で教会のイメージが頭に過ぎるのですが、今日はどこか音にモーツァルトの雰囲気が漂っている気がします。

貴族の大きなお屋敷、天井の高く広い部屋でピアノを弾いている、そんな映像が思い浮かびました。

軽やかに踊るように紡がれる音の粒たち。

それ等の響きを全身で浴びるように、音に浸かる時間は至福のひと時でした。

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