「建築のエッセンス」より
何度となく取り出しては読んだり眺めたりする本ってありますよね。
建築家齋藤裕さんの「建築のエッセンス」は私にとってそういう本です。
齋藤さんの素材や空間に対する思いが様々な事例をあげて細かく対談式に綴られています。
元は2476円の本なのですが、現在では古本しか売っていなくて倍以上の価格がついているので、おそらく読みたい方が多い本なのだと思います。
建築を学びたい学生がいたら絶対読んで欲しい一冊です。
どこを切り取っても素晴らしいので、今回は色の話から。
とにかく「るるるる阿房」での墨色は少し意識が違いました。ここで出そうとした色は、墨に限りなく近いグレーで、玄の色です。この家の施主である陶芸家の中村錦平さんは金沢生まれの方で、冬の日本海のどんよりと暗く深い色がほしいと言われ、「その色の中にいたい。全部をそうしたいわけではないけど、自分の家だから、玄関からリビング・ルームまでは黒くしたい」ということだったんです。記憶の中の黒い色に、郷愁ではないけれど、何か心のどこかを駆り立てられる感覚をお持ちだったのでしょう。日本海の冬の空の色というのは、モノトーンではなくて、墨に緑と青が含まれている。雲の向こう側にある太陽の光が海の中を潜って、それが陸側の海面に光とともに色がほのかに現れ出てくる。その時に緑色がふわっと浮いて、空の鈍い青味と溶け合う。その色がほしいということだった。(中略)
他人にとっては暗くて思い色なんですが、そこで生まれ育った人にとっては、活力が出る色なんですね。そこに禅寺のような冴えた光と風が入ってくれば、決して重苦しい陰気な空間にはならないでしょう。
一つの墨色という色に関する表現がものすごく精緻で、想像しながら読むだけでワクワクします。自分が創った空間についてここまで精密に語れるって素晴らしいことです。そして私はいつも住宅の外には「風がある」が室内にはないって言っていましたが、齋藤氏の建築では「冴えた光と風」を計算に入れている。そしてそこに小さく「るるるる阿房」の写真が出ていました。
まさに「静謐」な空間です。尊敬して止まない建築家です。
室内で感じる光と言えば思い出したことがあります。学生時代古建築を尋ねるゼミ旅行にて行った浄土寺浄土堂。
一日の中で入る光の向きと色によって全く違う空間になる。
長時間そこで撮影をしていた教授の背中を見ながら「時間の流れと空間」について初めて考えた時でした。今から思うととても贅沢な時間でした。
いつかそのことも書いてみようと思います。