かつて来た道やがて行く道
朝の通勤時間帯、電車に乗り込むお母さん
お母さんの胸には抱っこひもに包まれた赤ちゃんがいた
込み合う電車の中、しばらくすると赤ちゃんが泣き始めた
大人でもきついのに赤ちゃんはもっと大変だ
自分もこんな時期があったんだなぁとしみじみ
そんな私の気持ちとは裏腹に、お母さんは必死に宥めようとしているが泣き止まない
丁度お母さんが私の正面に後ろ向きに立っていたので赤ちゃんとは対面状態
たまに目が合う
頑張れ頑張れ、心の中で励ます
ふと自分がハクション大魔王の魔法の壺が付いたキーホールダーを持っていることに気が付いた
いそいそと取り出し赤ちゃんの見えるところでふりふりしては隠すを繰り返した
最初はびっくりしたような顔だったが次第に泣き止みニコニコするようになった
傍から見たらちょっと危ないおじさんに見えていたかもしれない(いやきっとそうだ)
すっかり機嫌を直した赤ちゃんとお母さんは次の駅で無事降りて行った
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夕方の帰宅時間帯、電車に乗り込むお婆さん
お婆さんは杖をつきながらもう一方の手には荷物をもっていて足元も覚束ない様子
自分も歳をとれば歩くのも大変になるんだろうなぁとしみじみ
お婆さん、お婆さん、こっちこっち...手招きしながら声をかける
とことことこちらにやってきた
立ち上がり、席を譲るとお婆さんはすまなそうに頭を下げた
暫く乗車した後、とある駅に着き降りる様子のお婆さん
中々立ち上がることができない様子
手を差し伸べ起こしてあげた
お婆さんは降り際にありがとうと頭を下げた
私は何処かにつまずいたりはしまいかと暫く様子を見ていた
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日々の気忙しさのなかで、他人へのやさしさや思いやりを忘れがちになる
けれど、一人で生きてきたわけではないし、これからも一人では生きられない
そんなほんの少しの気遣いでお互いの心が豊かになるのではと思う
人にやさしく
--とある師走の1日より--