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トリノスサーカス⑩『悪意の2人』
小説を書いてからの挿絵、ではなく、
描かれたイラストから発想し小説を書く。
それが『絵de小説』
月1更新。
絵描きの中川貴雄さんのイラストです。
https://www.instagram.com/ekakino_nakagawa/
https://twitter.com/nakagawatakao
○舞台設定○
場所は白百合町。
いろんな動物たちがニンゲンのように暮らす平和な町。
そんな町の中央広場にあるのが、みんなに人気のトリノスサーカス。
トリノスサーカスを舞台に、いろんな動物たちのいろんな物語。
前回まで
前回までのあらすじ
とつじょどこからか現れた鬼達が町を破壊する。
その元凶はトリノスサーカスの団員だった。
そして、ドララさんの様子が少しおかしい。。。
登場キャラクター
ジョーンズ……ブタ。トリノスサーカス団長。
ヒゲ面 ……ニンゲン。暗躍していた謎の男。
ドララ ……ニンゲン。道具係。様子がおかしい。
⑩『悪意の2人』
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⑩『悪意の2人』
バサリッ、っと降り立ち、ドララは翼を閉じました。
そこは、リリィハイツというマンションの屋上でした。
黒い影にゆっくりと近づいて行きます。
「遅かったねぇ」
黒い影――ヒゲ面は笑ってドララを迎えました。
「返しなさい」
ドララは手を差し出します。
「おいおい、久しぶりだってのに、ずいぶん冷たいじゃないか」
「返しなさい」
「返す? こいつをかい?」
ヒゲ面は手に持った黒の4角いカバンを高々とかかげて見せます。
「返したらオレっちをどうする?」
「……」
「殺すか?」
ドララは答えませんでした。
「お前さんにはできないだろうなぁ」
「……」
「楽しんでくれたかい?」
「楽しかったのはあなただけですよ」
「そうかい?」
「こんな高いところで、壊れていく町をながめていて、ずいぶんゆかいだったでしょうね?」
今2人がいるリリィハイツは、この町で1番高い建物で町全体を見わたせました。
がれきの山と化した町。
まだまだ逃げまどう者も多くいます。
そこかしこで火と煙もあがっていました。
「あぁ、これだけゆかいだったのは、久しぶりだよ」
ヒゲ面はドララにイヤな笑みを向けます。
「あんたも同じだろ?」
「……私は……昔とは違うんですよ」
ドララは静かに返しました。
「あなたも、変わったようですね」
「なに?」
「どうして建物を壊すだけにしたんですか?」
「それがあの絵描きの限界さ」
ヒゲ面は鼻で笑って返します。
「確かにそうですね」
「おやおや、余裕じゃないか」
「あの絵の具の弱点は、もうわかってますよ」
「フフ」
それがどうした? と言わんばかりの笑いです。
「何が望みなんですか?」
「やっと見つけたんだ、仲良くしようじゃないか」
ドララは、答えませんでした。
「細かく遊んでも、その時だけさ」
「……」
「やっぱりあんたはオレっちを満たしてくれる」
ヒゲ面は両腕を広げます。
どす黒い影が、その体を包みます。
その影は、どこまでも大きくなっていくようでした。
「お望みなら、続きはオレっちが直接暴れてやんよ」
「いいかげんにしなさい!」
ドララは腹の底から声を出して怒鳴りました。
ドララを包む影も、大きくなりました。
「いいねぇ、それだよ」
「……」
「その殺意すらも喰らってやんよ」
「きさまっ」
「はっははは!」
ヒゲ面はひときわ大きく笑います。
「殺してみろ! 今のお前さんにそれができるのならな!」
ドララの包む影は、うずを巻きはじめます。
「あ?」
「……」
その時でした。
とつぜん、空にむかって大きな何かが飛び上がっていったのです。
町全体を影でおおいつくすのではないだろうか? と思えるほどの大きさです。
ソレは大きく丸い顔に大きな口に大きな鼻、目だけ小さく、全身は白色で、ぶかっこうなカバのようでした。
ただ、翼があり、もうしわけていどのツノもはえています。
「スゥゥゥゥゥ~~~フフフフフフ~~~~~」
謎のソレは、大きく息を吸い込むと、大きな息を町に向かって吐きかけました。
するとどうでしょう、がれきに息がかかったとたん、次々と宙に浮きはじめました。
それだけではなく、ヒュンヒュン飛び回りだしました。
それから、じょじょに重なりだし、くっつきだします。
見ている間に、がれきが壁に、建物に戻っていきます。
火も煙も消えていきました。
ドララは手すりに近づき、それらをマジマジとながめます。
「ジョーンズさん……」
ぽつりつぶやきました。
見下ろしたところにジョーンズがいて、親指を立てこちらに向けていました。
「アニさん!」
ドララが声に振り返ると、ヒゲ面はウマに乗っていました。
「ゆかいだったよ」
「待なさい!」
待てと言って待つヒゲ面ではありません、ウマは走り出します。
ドララも走りだし、素早くその後ろ足をつかみました。
ウマはイヤがって暴れます。
「蹴飛ばせ!」
ヒゲ面が叫びます。
蹴飛ばそうとしてきたもう1本の後ろ足を、ドララはなんの問題もなくつかみました。
「ドララしゃん離してぇよぉ!」
ウマはそう言いながら暴れます。
「ロデム! 振り落とすんです!」
「振り払え!」
ドララとヒゲ面、同時にウマ――ロデムにむかって叫びました。
どちらの言うことも聞けず、ロデムは激しく暴れます。
「ヒヒィィンンン!」
「むうぅぅぅぅん!」
「ぐわぁ」
ドララは全身に力を込め、体ごと、ロデムとヒゲ面をひっくり返しました。
「まて!」
ヒゲ面が立ち上がる、と同時にドララはくみ付きました。
「クっ!」
「は! なせ!」
離して欲しいヒゲ面。
離さないドララ。
2人して転がり回ります。
ボウシは飛び、上着はよごれ、ズボンが破れても、ドララは離さず、ヒゲ面は引き剥がせませんでした。
「いいかげんに……」
ヒゲ面がついにこぶしを握ったときでした。
「ゴオオオォォォォォンンン!!!」
それは鐘の音――いや、釣り鐘の音でした。
「ゴオオオォォォォォンンン!!!」
「ゴオオオォォォォォンンン!!!」
「ゴオオオォォォォォンンン!!!」
鐘の音は、何度も、何度も続きます。
「くきぃぃぃぃ!!!」
ヒゲ面は耳を押さえてうずくまります。
ドララも、ヒゲ面から手をはなし、やはり同じように耳を押さえてうずくまっています。
「ゴオオオォォォォォンンン!!!」
「くきぃきぃぃぃ!!!」
しつこく鳴り止まない釣り鐘に、2人してのたうち回り続けます。
どれだけ耳を押さえても、鐘音をとらえてしまうのです。
「くぅつっつ……」
力の入らない体で、ヒゲ面は手すりをつかんでなんとか立ち上がります。
「あそこか……」
きょろっとすると、すぐに見つけました。
釣り鐘の所にイヌの男がいました。
ヒゲ面はその男に手を向け、力をこめはじめました。
「ゴオオオォォォォォンンン!!!」
「ぐっきぃ!!」
手にこもりはじめていた影闇がはじけて消えます。
「ゴオオオォォォォォンンン!!!」
男は、釣り鐘を鳴らし続けます。
どこかゆかいそうでもありました。
ヒゲ面はなすすべなく、のたうち回ることしかできませんでした。
ドタドタドタ、っと階段を登ってくる足音が聞こえてきました。
それも複数の足音です。
バンッ!!
ドアが勢いよく開くと、ジョーンズを先頭に10匹以上がドカドカと屋上に入ってきました。
「ドララ!」
のたうち回るドララを見つけると、ジョーンズがかけよってきました。
「大丈夫か?」
「……約束……守ってくれたんですね」
「見ての通りさ、でも――」
「うわぁ!!」
1匹の声でかき消されます。
「あ、あ、あ、悪魔だ!」
そう言いながらヒゲ面を指さしました。
みんな、悲鳴を上げます。
彼の頭には、悪魔の特徴のひとつである、黒いツノが2本生えていました。
そして、ドララの頭にも、同じツノが生えていたのです。
――続く