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■序章

シャルル ラポーレ ラズ
作者:Y to Hebrew Z

差し込む光は弱いが、秘密の暗号は満点の夜空の星のようにあふれ出す。
そんな部屋に、二人の若い恋人たちは、今日もしっとりと寄り添っている。

互いお金をかけた遊び方は知らない。
いつもベッドで愛し合い、そのたび一つの枕に頭を並べては、妄想や創造をして楽しんでいる。
中でも…誰にも気づかれない特別な言葉(暗号)を二人で考え、言葉遊びをするのが二人の幸せな時間だった。
甘い言葉を選んで、心地よい響きに変えていく。

「ラズ、今日は『特別』って言葉を、二人だけの言葉に変えてみない?」
「スペシャルをもじって『シャル』とか」

きっかけはいつもレイだ。

「いいわね。でも、シャルだと英語の発音でも使われているし…『シャルル』なんてどうかな?」

ラズもレイが始める言葉遊びの虜になっている。

~特別:シャルル

「愛はそうね、『クレア』!なんか、かわいい響き!」

ラズが弾むようにレイに微笑む。

~愛してる:クレア

~最高:ファリス

~幸せ:ラポーレ

二人だけの暗号が一つ、また一つと積み上げられていく。

そんな他愛のない話をするときは、いつもレイの方がラズの肩にその笑顔とともに乗せている。
シャンプーの香りと温もり、ラズのすべてを感じられるからだ。耳元で愛を囁くのにも都合がいい。

レイは、フレンチレストランでギャルソン(ウェイター)をしていた。
その日は店のオーナーとパートナーが結婚祝いで訪れた日であった。
フレンチのコースの物語は、プロローグからエピローグまでが決められている。
レイは、その章立てを誤って運んでしまった。
品性を保っていた空間が、粗暴の声によって張り付いてしまった。
レイの責任だけではなかった…。
しかし言い訳はできない。自分のギャルソンとしての未熟さが招いた事実は変わらない。
彼の長年使ってきたエプロンと、後悔を詰めたロッカーは二度と開くことはなかった。

レイは決して伝え上手ではなく、少し不器用だった。しかし、ラズへの愛はまっすぐ伝わってくる。
だからこそ、そんな彼をラズはたまらなく愛おしかった。

ラズは未来のシェフを夢見る。
人々におとぎ話のような食事を楽しんでもらいたい。心からそう思っていた。…思っていたはずだった。
街にひっそりとたたずむフレンチレストラン。
シェフの料理は一点の曇りもない。それはわかっている。
どこかの国のお姫様が舞い降りたようにきらびやかに飾られた料理。
ラズには、その豪華絢爛な芸術がただの食事にしか見えなかった。
日々スーシェフ(副料理長)のもとで、建屋より大きいシェフのプライドに付き合わされていたからだ。
目の前の食材を、自分の色で染めたいという夢。
それは少しずつ現実に引き寄せられていた。

「部屋、寒くない?」

「うん。レイがあったかいから」

いつものように愛し合う二人が絶頂を迎えた後、まるで感情や精神までもが重なったかのように、同じ思いが舞い降りてきた。
少しだけ荒い息の中、確認するように向かい合う二人。

この特別な言葉を二人だけの形にしたい。

いつもとは違う静かな時間の中で、二人の夢と愛の形が一致した。

「レストラン シャルル ラポーレ ラズ」。

特別な言葉を使ったフレンチレストランだった。レイが愛するラズの名前を添えて。

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