次世代を生き抜く子どもの教育を提供する、EduVate株式会社、CEO藪花貴子さん
■藪花貴子さんのプロフィール■
神戸市出身
大手医療機器メーカーでの新規事業を担当し、社内ベンチャーを立ち上げる。育休期間中にグロービス経営大学院に入学し、主婦であり、母であり、会社員であり、学生であり、4足の草鞋でMBAを取得。2017年に起業し、EduVate(エデュベート)株式会社を設立。これからの時代を生き抜く力をつけるために、幼児期から自ら考える力をつける習い事事業を展開している。
ママであり、MBAホルダーでもあり、起業家でもある独自の視点から教育事業を展開されている籔花貴子さんにお話をお伺いしました。
記者:どのような夢やビジョンをお持ちですか?
藪花貴子さん(以下敬称略):仲間とともに立ち上げた’EduVate株式会社’の理念は、自ら主体的に考えてやり抜く力をもち、地球規模で通用する人を育てることです。それは、次世代を担う人づくりにつながると考えています。私たちの事業は幼児期の教育に特にフォーカスしているところが特徴で、子供達には、大きくなった時に「自分たちは次世代を担っている」ことを真に理解し、他者のために粘り強く生きてほしいという思いがあります。
企業目標としては、短期的には、子供達が’習い事’を通して意図的に考える習慣ができて、積極的に行動できる子供たちを育てること。長期的には、主体的に考えられる、やり抜く力をもった社会を変革をするリーダーとして、地域貢献活動や地球規模で活躍できる人を育てたいと思っています。
記者:それを具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?
藪花:今は「視考言(しこうげん:視て、考え、それを言葉にする)」というフレームワークを様々な習い事と組み合わせてプログラムをつくっています。後々には、難しいですけど、考えることに特化したプログラムもつくりたいですね。その上で、-全国に講師陣を育て、様々な習い事の講師をサポートできる環境と組織づくりをしたいと思ってます。
他には、金銭的余裕がないと習い事を受けられないというのは、私たちとしては不本意なので、誰でも私たちの習い事が受けられるための資金援助として、企業のCSRと組み合わせたサービス提もを考えています。
事業の根幹は、習い事を通して、考える力と考える習慣を身につけ、自分の考える言葉で発信して、行動できるようになってほしいということ。また、習い事だけでなく、自分の夢を主張できる発表の場をつくってあげ、今の社会の現状を見て問題意識をもって”自分なりにこうします”と提言した子に企業が支援する場も作っていきたいです。現時点では、それが最終目標ですね。
ゆくゆくは、これを海外でも実践していきたいです。海外にも魅力的な習い事がたくさんあるので、それに考える習慣づけをプラスして、逆輸入できたら楽しいですね。
記者:その目標や計画に対して、現在どのような活動指針を持って、どのような(基本)活動をしていますか?
藪花:今、習い事としての活動は、漢習字、演劇などです。漢習字は、幼稚園や保育園にい通っている間に1年生で習う80文字の漢字を成り立ちから学び、それを筆で書いて覚えます。演劇は、キッズシアターという名で、プロの舞台監督と実際に活躍されている俳優・女優の方々から学ぶ習い事を提供しています。
実は幼児期からやる演劇って、あまりないんですね。この演劇で一番重要なことは表現を通して「コミュニケーション能力を育てる」ことなんです。子供達は、二つのグループに分かれて、先生から課題として与えられた様々な生き物の動作、パフォーマンス、ジェスチャー、パントマイムなどを、自分たちで考えて演技します。それをもう片方のグループが、「視考言」のフレームワークで視て・考えて・言葉にするステップに沿って、お互いに、「こうした方がいいんじゃないか」とか、相手の良かったことなどを伝え合います。それを聞いた子供達は、お友達の意見を参考に、また演技に朝鮮するというのを繰り返していきます。こうやって演技という一つの習い事を土台に考える習慣をつけていくんです。そして子供達は、お友達と先生との対話を通じて、コミュニケーション能力を高めて行きます。また、自分がどのように表現するか、言葉を発するってどういうことなのか、さらに集団で表現する時には、どうしたら前の人とぶつからずに間隔、間合いをとってやっていくのかなど、演劇の基礎も学んでいきます。これら全ては、幼児にとっては考える力をつけること、また考える習慣づけとなります。
その集大成として今まで自分たちが考えて表現してきた演技、発してきた言葉をもとに演劇作品をつくり、発表会という晴れの舞台でその成果を発揮できる所にあります。このコミュニケーションを取る事、自分の考えを表現することは、実は子供達が大きくなって社会に出る時にとても大切な練習なんです。
だから海外では、演劇(ドラマクラス)は、学校で当たり前にやっているプログラムで、成長過程において、自分たちがどう考えてどう動くかなど、演劇を通して人生の練習をします。演劇ってやり直しができるじゃないですか。そこがいいんです。自分がどう見えるように相手に話しかけていくか、どうコミュニケーションをとって、どう見せるかなどが何度も練習できる。でも日本ではこういった場が育っていなくて、海外では当たり前なのに日本には入ってきてないんです。
大人になって社会に出たときに、人と協力して、考えて、自分のポジションや役割を見つけて行動することはとても重要なことだと思っています。それを幼児期の時に、子どもたちが興味関心をもてる分野で、考える習慣をつける要素を付加して、習い事化してやろうとしているのが私たちの事業です。そういう意味では、普通の習い事とはちょっと違ってますね。
私は今それらの習い事を、息子を実験台に、実際に習い事に入れてやってます。ちょうど漢習字を息子がやっていて、子どもの可能性も見れるので、結構面白いです。小学1年で習う80文字の漢字の成り立ちの絵を先生が全部用意してくださっていて、こういった形がこの漢字になるっていうのをみんなで見て、筆で書き、自分が書いた文字をお互いに講評し合います。文字を綺麗に書くというよりは、この文字のどこが好き、美しいなど、自分の感性を言葉にしていき、どういう気持ちで書いたのかを対話していくのがポイントです。書いた文字をどう思うかとか、そういった表現はなかなか子供達の口からすぐには出ないんですけど、回を重ねるごとに、段々と言葉が出てくるようになってきます。それに漢字の成り立ちから学んで、それを筆で丁寧に書くと結構文字を覚えるのが早いんです。何度も文字を書いて覚えることもしていないのに、不思議です。例えば、名前の「名」は夕に口って書きますよね。由来は、夕方、夜に真っ暗になったら、相手の名前を口で呼ぶしかない、相手の名前を暗いところで呼ぶから夕方に口ってなる。そういうのを覚えながら書いていく。あとはお互いに書いた文字を見てどう感じるか、見て考えて言葉にして、また行動に移す。(漢習字で言うと、書く行動に移す)「視考言」のあとに「動」があるんですよ、大人で言うとPDCAサイクルを回していくのと似ています。
記者:どのような発見や出会いがあって、今の夢やビジョンをもつようになりましたか?
藪花:一番価値観が変わったのは息子が産まれたときです。この子が将来、成長したときにどんな環境にいるのが一番いいのかを考えたのがきっかけです。幼児期の頃から考える習慣をもてる環境を整えてあげることが、この子の未来に役立つんじゃないかというのが最初にありました。さらに息子の未来を考えたら、このままの日本で本当に大丈夫だろうか、日本が生き残るために何が必要だろうか、と考えたら「教育」にたどり着きました。教育においては、幼児期がゴールデンエイジと言われていて、幼児期の環境を整えてあげるのは、息子だけじゃなく、後に続く後輩たちのためにもいいと思いました。
記者:その発見や出会いの背景には、何があったのですか?
藪花:自分のことを見つめて考えて言葉にするということを、大抵の人が大人になってから、または就活時にようやく自分を見つめ始めるというのが多いんですね。子どもの頃は、親も先生も忙しくて、子供が大人と語り合って自分を見つめる機会が極めて少ないんです。だから「自分が何を考えているのか?どんな気持ちなのか?」を、子どもの興味関心がある分野で、幼児期の時に目一杯考えて言葉にできる環境を作りたかったんです。そして、子供の興味関心ごとであり、かつ考える習慣の環境作りに適していつのは何処か・・・と検討して辿りついたのが「習い事」でした。実は最初、大人の思考を鍛えるプログラムである「クリティカルシンキング」を参考に、子供に考える場面をつくって、考えるだけのプログラムをしようとしたんです。まずテストマーケティングでそれを試したら、そしたら子供達の興味があっちこっちに移ってしまってうまく成り立たなかったんです。大人向けの考える力、クリティカルシンキングは子ども向けには難しいと実感し、考える力を養うには「子供が熱中するものとくっつける」というのが結論として出ました。それが「習い事」×「考える習慣付け」の今の形です。
考える習慣付けとして、「視考言」のフレームワークを使うことにしたのは、ハーバード教育大学院がつくった子供向けの思考学習法「Visible Thinking」の一部である、「See Think Wonder」というものを知ったからです。見て(See)、考えて(Think)、どう思ったか、どう感じたか(Wonder)ということを順を追って考える思考法です。例えば、実際の松ぼっくりを題材に、子供達と先生がコミュニケーションをとりながら、見て、考えて、どう思ったかをまとめあげます。とげとげがあるとか、拳ぐらいの大きさだとか、茶色だとか、松ぼっくりを語るにしても、フレームワークや先生との対話を通して、考えるプロセスをステップにしてあげると、子供でも自然と松ぼっくりの特徴をまとめることができるんですね。
「見て」「考えて」、言葉にして最後には行動に移す。大人のPDCAサイクルのようなものを、幼児期にやってみたら面白いんじゃないかなと思いました。英語のフレームワークは子供達の耳に残りにくいので、「視考言」という新たなフレームワークに置き換えて、より身近にしました。漢字にしているのは、子どもたちにとって英語より漢字は比較的覚えやすいからです。
私たちの事業では、幼児期から自分の考えを見つめる機会を与えて、考えることを習慣化することを習い事を通して提供しましょうっていうのが根底にあります。それを子供の、それも幼児期に反復することで、大きな力を身につけられると考えています。例えば、今注目されているAI時代でも、自ら考えて行動に移す力は、代替されるものではありません。自分たちの人生を決めるための思考能力を幼児期から訓練していくことで、自立して考えて、粘り強くやり抜いていく、どんな困難なことでもやり抜いていく大人になっていけるんじゃないか。そして引いては、次世代を担う子供達になってくれるはずだと、私たちはそう信じています。
記者:素晴らしいですね。習い事をしながら、自然と考える習慣をもってPDCAをまわす力をつけられる、まさに未来のための教育だと感じました。子どもたちの成長が楽しみですね!
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☆藪花貴子さんの情報はこちら☆
①エデュベート株式会社
http://eduvate.jp/
②個人ブログ
https://note.mu/ranko
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【編集後記】
今回、インタビューの記者を担当した泊です。ご自身のお子さんが産まれたことをきっかけに、これからの日本や社会に生きる子どもたちに何が必要なのかを真剣に考え、答えを導き、行動されている理念や精神がとても素敵だと思いました。藪花さんの益々のご活躍を応援しています!