日記2024年7月③

7月8日
晴れ。暑い。妻は産科検診。子供は寝坊。私は上司の代診のため出勤。今日はただ上司の分の仕事をすればいいのだが、明日は私の分と上司の分があるので倍の仕事をしなければならず、今からそれが頭をよぎって気が重い。お腹の赤ん坊の状態はよかったみたいである。私は最近食欲が落ちていて、食べても胃がもたれてしまう。
職場で心理士さんと意見交換をした。私はこうして声に出して患者さんの見立てを話すのが好きだと最近気がついた。病院は主治医制であったとしてもチームでもあるのでいい。ひとりでクリニックをやるのは自分には無理だと思う所以である。
妻と子供を連れてファミレスに向かっていたときに子供が急に目に入ったマクドナルドに行きたいと言うのでマックに入った。控えめにエッグチーズバーガーをサラダセットにした。何がどう控えめなのかわからないが。子供は自分が食べたいと言ったくせにハッピーセットのおもちゃを手に入れたらあとは少ししか食べなかったので、さすがにそれはいかんぞと言って食べさせた。言うとちゃんとがんばって食べるから偉いもんである。
真夏になり、車の後部座席に子供を残したまま出勤してしまってはいないかと不安になるが、幼稚園に迎えにいくとちゃんとそこにいるので安心する。

7月9日
子供のお迎えをした車の中で妻が「出産祝いに何をもらおうかな」と言った。職場の人に何がほしいかと聞かれたらしい。子供が「なんのはなし?」と聞くので妻が「赤ちゃんのプレゼントくれるんだって」と言ったらそれがよくなく、子供が自分もプレゼントがほしいと言って聞かなくなり、騒いだあと大泣きしてしまった。赤ちゃんにいろいろなもの(愛)を奪われてしまうという怖さがあるのだと思う。小さい頃のようにたくさん抱っこしたら泣き止んだ。
今日は仕事中休む暇がなくて疲れた。

7月10日
朝から暑かった。今日も仕事は忙しく、私の通常業務と休養中の上司の代行業務が重なり、休む暇がなかった。こういう日に限ってコンサルテーションの依頼が立て込み、外来と病棟を何度も往復していた。医者には代診だから何もしない医者と、代診だからこそきちんとやる医者がいる。私は後者でそれが必ずしもいいことだとは思っていないが、そういう医者に生まれついたのだからしょうがない。本当は早めにあがって自分のための病院受診をしたかったのだがとても無理だったので受診を土曜日に回した。自分の予定を犠牲にするのはよくないのだが、だからといってどうしろというのか。
これがたぶん7月中は続く。上司からお礼の品をぶんどりたく、何を要求しようかとつぶやいたら「高級家電」という天啓を頂いたので、いい電子レンジがほしいと思った。
夜は妻が気を遣ってご飯を作ってくれた。長谷川あかりさんの出汁カレー。とてもおいしかった。薬味としば漬けが大切である。
尾久先生の『病気であって病気じゃない』の感想をツイッターに書いた。献本していただきました。ありがとうございます。「病気であって病気じゃない」という言葉を用意することによって見え方が変わるということが大事である。そういう「言葉のレンズ」によって多様な現実・臨床に焦点を当てることができる。これが極めて詩的な営みであることは言うまでもない。『偽物論』でも冒頭の詩が重要であったが、医学や臨床の方法を拡張するのに尾久先生は詩的な手段をとる。体験を新たに象るために言葉を使用し、言葉を通過することで読者に新しい体験を喚起する。その言葉の強度を臨床教育でも求めているのだと思う。尾久先生はその際に二元論的表現を経由してその振幅で表現するのが特徴である。スペクトラムではなくカテゴリー間を振動する表現をする。『器質か心因か』にもそれは明らかである。ここでは「心因」というものを「器質」と同じ水準で実体化するストロングスタイルがとられ、これは詩的言語がときに物体的に理解されるのと同型ではないだろうか。二元論には強さがある。概念を対で提示すること自体が強い説明になっており、かつ、概念の運動にくらいついていくことができる。スペクトラムで静的にとらえるのではなく、対概念の間の振動で動的に捉えられる。体験の時間性にくらいつくことができる。それゆえに臨床教育的な強さが生まれる。動的な二元論を使用した詩的な方法を、伝統的な精神医学と精神分析の真ん中で立ち上げるストロングスタイルが尾久先生の特徴である。
子供が生ライチを独り占めして果汁でパジャマをべとべとにした。風呂に入って着替えなさいと言ったが、着替えたくないと言って大泣きした。気に入ったパジャマを脱ぎたくない。たぶんこれがいわゆる赤ちゃん返りなのだと思う。下の子が生まれる前から始まってしまった。私が「だっこしてあげよう!」と子供の前でしゃがんで大きく両手を広げたら今度は少し照れて冷静になったようで、笑いながらこちらに来た。少しだけ赤ちゃんの対応に巻き戻す必要がある。来週幼稚園のお友達の家に遊びに行く予定があるのだが、その子も最近下の子が生まれて、赤ちゃん返りみたいなことが大変らしいと聞いている。親御さんから話を聞いてみたいのだが、上司の代診が続いているといけなくなってしまう。なんとかしないといけない。代診より保護者友達の話を聞くほうが大事なのである。

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