『Ski Heil-シーハイル-』第2話
修学旅行当日
長野県 菅平高原スキー場 天気:快晴
多くの来場者で賑わっている。
スキー教室の全体会。スキー場に大喜びの生徒たち。教員もどこか浮かれている様子だ。
生徒たち「雪だぁ!!」「すげぇ」「ブーツ痛い」「寒い」
教員「各班、インストラクターの方の言うことをしっかり聞くんだぞ」
いつぶりだろ、この感覚…。久しぶりの雪の感覚をブーツ越しに確認する。
一班10人程に分けられ、凌、大、晴太の3人は同じ班になった。
インストラクターは若い男性、やる気に満ちあふれている
相田「今日一日この班を担当する相田弘道だ。よろしく!東京ではなかなかスキーができないだろう。お兄さんが1から丁寧に教えていくからな。じゃあまずは、スキーの板を履くところからだね」
慣れた手つきでスキー板を履く凌と晴太。
大「お前らはやいな…」大は少し苦労している様子だ。
相田「お!君たち準備万端だな!」
晴太「しゅっぱーつ!!」
相田「まぁ焦るでない、少年。まだ始まったばかりだぞ」
ふてくされる晴太。普段は晴太の活発な性格について行くのがやっとだが、今日はそうでもない。
凌「(ひょっとして、わくわくしてる?自分…)」
インストラクターを手本に基礎的な体の動かし方を練習する。
あまりにも基礎的な練習で落ち着かない様子の凌。
凌「(いつまでやんだ、これ)」
ようやくリフトに乗車。リフトの上からバーンを見下ろす。
少し遠くのバーンではアルペンスキーのチームがコースを貸し切って練習している。少し懐かしさを感じる。
あっという間にリフトは終点へ。
相田「はい、降りるぞー。ゆっくりでいいからな」
他の生徒たちは転ばないように注意しながら降車する。
ブーツから板へじわじわと力を伝え、スキー板が自然と滑っていく。
凌は久しぶりに思い出していた。かつて自分が注ぎ込んだ「熱」を。
緩斜面(初級者コース)に到着
相田「最初に僕が滑るから 僕が止まって手を挙げたら滑っておいで 焦らず、ゆっくりでいいからな」
班の雰囲気は戸惑いと緊張に包まれた。
相田「ダイジョーブ!コケても死なないさ」
極端なポジティブ思考。
インストラクターはあっさりスタートを切る。
元気に満ちあふれる性格からは想像もできない繊細な滑り出し。徐々に加速し、滑りに力強さが表れる。
凌「(!!)」ほんの数秒のインストラクターの滑りに衝撃を受ける。
ざわつく他の生徒たち「すげぇ」「さすが」「かっこいい」
緊張した様子の生徒たち「誰からいく?」
晴太「おっしゃ俺から行ったる!」
大「愛してるぜ Bro」
凌「Good luck」
晴太「おれ死ぬんか?」
勢いよく滑り出す晴太。
多少のぎこちなさはあるが、運動神経の良さでカバーしている。
他の生徒「ハルくん上手いね」「うめー」
晴太の勢いに感化され、他の生徒たちが順々に滑り出す。
大「ハルのあの何でも真っ先に飛び込んでいく性格 羨ましいよな」
「俺らはどっちかっていうと慎重派じゃん?たまには素直にさらけ出す。飛び込んでみるっていうのもいいかもな」
初心者ながら思い切りスタートし、精一杯滑る大。経験者の自分よりも初心者のみんなの背中の方が大きく見える。
なぜだろう。
どこか悔しさと寂しさを感じる。
様々な感情が凌の中を渦巻く
なんとか滑りきる大
大「ハル、お前上手くないか?」だいぶ息が上がっている様子の大
晴太「HAHAHA コソ練さ」
大「どうやって?」
晴太「Wii Fit!!」
大「あれスキージャンプだろ…」
凌の心境。
大はそこまで真剣にあの発言をしたわけではない。それはわかっている。なのに、なぜか大の言葉が深く刺さっている。どこか自分を見透かされているような。そんなことを考えていたら、いつの間にか最後の走者になっていた。
コースの端で班のみんながこちらに手を振っている
凌「あ、行かなきゃ」
急かされるように滑り出す。
感情が混乱しつつも、体は素直に下へ滑降する
ターンをする度に加重の度合いを調整してみる。優しく踏み込んだり、強く踏み込んだり。体が覚えている。数年ぶりのスキーにもかかわらず、ちゃんと滑れている自分に驚く。
みんなの元に合流する凌
周りの生徒たち「めっちゃ上手くない?」「プロじゃん」「スキーできたなんて知らなかった」凌のもとに班のみんなが群がる。
お互いのスキー板やストックがカチカチ当たっている。
晴太と大も驚きを我慢したような表情で近づいてくる。
何も言わない彼らに不安が募る。怒られるかも、と思った
親友にすらも自分のことはそこまで多くは語らない性格だった。別に隠していたわけではない。聞かれなかったから言わなかっただけ。なのになぜか彼らに隠し事をしていた気分になる。
罪悪感と親友2人の顔が迫ってくる。
晴太「なぁ…凌」
ようやく晴太の方が口を開いた。さらに緊張感が増す。
晴太「お前もWii Fit勢?」
大「違うだろ」
晴太「じゃあ、広瀬香美聴きまくったろ。でなきゃありえない」
大「あれにそんな効能ないから」
いつも通りだった。
大「リョウって、スキーやってたん?」
凌「あ、あぁ…」小さくうなずく。
晴太「マジか!?」
大「そりゃ、知らなかった…」
相田「よし、君たち次行くぞ」
罪悪感は多少残りつつも、少し肩が軽くなった気がする。
「あの頃」の記憶が蘇る。
スキーで好成績をおさめ、周りから認められていた「あの頃」
ゲレンデに濃淡様々なターンの痕が残っている
空を見上げると、雲の隙間から太陽の光と青い空が覗いている
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