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『局所性ジストニアを見つめる』 2. まずは言葉の整理から

まずは言葉の整理から

『局所性ジストニアを見つめる』と題してこのシリーズを始めたが、そもそも「局所性ジストニアってなんだ?」をまずは整理したい。
私は言葉にこだわるところが結構あり、自分でその言葉を使う際にはこの辺りをすっきりさせないと気持ちが悪い。一応補足すると、普遍的な定義を求めているわけではなく、自分や他の方が「こういうつもりでこの言葉を使っている」というのをわかっておきたいという感じである。

問題をよく知っている方には釈迦に説法な話になってしまうが、私自身の整理のために書いたものなのでご容赦いただきたい。

「ジストニア」とは

まずは「ジストニア」という言葉から。

「ジストニア」の定義はこれまでに専門家の間で何度か議論され、アップデートされている。「ジストニア」という言葉は、1911年にオッペンハイムが発表した症例報告で用いたことから広まった。その後、1984年に専門家が集まりジストニアの定義について初めてコンセンサスをまとめ、それが2013年にアップデートされて、論文として出版されている[1]。これ以降のアップデートがあるかを探し当てることはできていない(識者の方いらっしゃいましたら、ご教授いただけるとありがたいです)。

以下がこの2013年の論文で紹介された「ジストニア」の定義だ。

Dystonia is a movement disorder characterised by sustained or intermittent muscle contractions causing, abnormal, often repetitive, movements, posture, or both.
Dystonia movements are typically patterned, twisting, and may be tremulous.
Dystonia is often initiated or worsened by voluntary action and associated with overflow muscle activation.

[1]

上記のように、ジストニアは3つの文章で定義されている。さて、上の文章を、解きほぐすと以下のようになる。

-----------------------------------------------------------------------------
★ ジストニアは運動障害である。
★ 運動や姿勢、或いはその両方に、多くの場合、反復的な異常が出る。
★ 継続的あるいは断続的な筋肉の収縮により引き起こされる。
★ ジストニアから出現する運動は、多くの場合、パターンがあり、捻転や震えを伴うことが多い。
★ 随意運動によって引き起こされたり、悪くなったりする。
★ 不随意的な収縮による筋肉の活動と結びついている。
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定義を一言でまとめるのも野暮だが、敢えて試みると、ジストニアは「不随意的に起こる筋肉の収縮による運動障害」と理解されている。そう私は理解した。

「局所性」とは

一方、「局所性」というのはジストニアの分類である。

先に引用した論文を改めて参照すると、分類には、臨床的な症状と病気の原因という2つの軸が採用されていることがわかる[1]。こう仕分けておくと診断するのに便利なのだと思う。

「局所性」は、臨床的な症状のうち「体のどこで起こっているか」による分類だ。そのうち、体の部分のどこか1か所で起こっているものが「局所性 (フォーカル focal)」と呼ばれる。

なお、複数箇所で起こっている場合は、その場所が隣接している場合は「文節性 segmental」、隣接していない場合は「多巣性 multi-focal」と呼ばれる。もし、左手小指と右手の小指両方で症状が出現していたら、私のは多巣性と呼ぶべきだったのだろうと思う。

「動作特異性」について

さて、私の左手小指の振る舞いを考える上でもう1つ重要な分類がある。それが「動作特異性」である。

「動作特異性」は同じ臨床的な症状による軸のうち、「出現パターン」に注目した分類だ。英語では、Action-specific 或いは Task-specific と呼ばれ、特定の動作やタスクを行なっている時にだけ起こるものを指す。クラリネットを演奏する場合にだけ起こる私のケースはまさに「動作特異性」を示している。

この「動作特異性」は、同じ精緻な動作を繰り返し行う職業の人間で現出することが多いことから「職業性」という呼び方もあるようだ。だが、この文章では参照している文献に則り、「動作特異性」を使う。音楽家に出現した「音楽家のジストニア musician’s dystonia」もこの「動作特異性ジストニア」の一種と考えられている[2]。

「私の場合」を整理する

というところで、私の問題がどれに当てはまるかを整理する。
私のケースは、「クラリネットを演奏しているときにのみ」「左手小指」にジストニア的な振る舞いが出る。そのため、「動作特異性」と「局所性」が見られる、ということになる。

一つ断っておかなくてはならないことがある。私はこの左手小指の問題について医師の診断を受けたことがない。自分の状況の観察とこれまで読んだ文献の知識から上記のように考えているだけだ。実際、アイルランドに来てそれなりに時間が経ってから「局所性ジストニア」という言葉を初めて知ったくらいには無知だった。起こっている症状を「局所性ジストニア」と確定できるのは医師だけである。

以上を踏まえると、私の問題は「動作特異性・局所性ジストニア”的”症状がクラリネットを演奏する際に左手小指に現れていた」ということのが正確な言い表し方だろうと思う。もちろん、それで起こっている現象が何か変わるわけではないの。とはいえ、ここまで、これ以降も、私の状態についてのべる際は「局所性ジストニア的」という言葉を使うことにしたい。

ここまで、言葉使いを整理し、自分の状況へと当てはめてみた。

最後にちょっとしたメモ。
一般的には、上記の局所性ジストニアと動作特異性ジストニアの2つを含み、まとめて「局所性ジストニア」と呼んでいることが多いのかなァという気がする。どちらの特徴もある場合には「局所性ジストニア」という言葉を優先して使っている感がある。あくまで印象ではあるが。

また、「局所性」という言い方と「フォーカル」という言い方の混在も見られる。実際、noteには「局所性ジストニア」のタグも「フォーカルジストニア 」タグもある。これらは同じでなので、どちらを使うかは好みだろう。

また、「音楽家のジストニア」「ミュージシャンズ・ジストニア」は部位とは無関係な名称である。これは上に書いた「局所性」でひとまとめにするのと逆で、音楽家で起こっていることに重きをおいた言い方である。実際にどこで何が起こっているかはそれぞれのケースで個別に話を聞き、考える必要がある。

それでは、これら「局所性ジストニア」や「動作特異性ジストニア 」はどのように研究され、対処されているのか。
次回は、この問題に関係していると考えられている要因を私なりに整理してみる。

参考文献

[1] A. Albanese et al.: “Phenomenology and classification of dystonia: a consensus update” Mov Disord. (2013), 28(7), 863-873, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23649720/
[2] E. Altenmüller et al.: “Focal Dystonia in Musicians, Phenomenology, Pathophysiology, Triggering Factors, and Treatment”, Med Probl Perform Art, (2010) 25(1), 3-9, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20795373/

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