見出し画像

ウクライナ語文法シリーズその40:動詞の体

動詞の概説でざっくりと不完了体と完了体の違いを述べたあと、ちょいちょいこの二つを分けて説明してきましたが、改めて体の使い分け方を深掘りしましょう。
また、大まかな見分け方もまとめていきます。


体による意味の違い

これまで何度か言及しているように、不完了体の動詞は、動作が継続的、習慣的、連続的、多回的である様子を表し、そこから動作が終わっていない、その途中であるという意味も持ちます。
対して完了体の動詞は、動作が最後まで終わっていることを表し、その次の動作につながっていくことを暗に示します。

理論じみた言い方をすれば、不完了体による動作は線、完了体による動作は点(または短い線分)として表せる、といえるでしょう。

この感覚はスラヴ系言語の母語話者でない学習者が身につけるのには時間がかかり、かなり習熟度が高くなってもとっさに選択を間違えたり迷ったりすることがあります。

具体的な例文で見てみましょう。

① Мишко́ зателефонува́в ма́мі про те, що він споча́тку розв'я́зував зада́чу, вико́нував впра́ву, по́тім підміта́в кімна́ту.
 
② Дми́трик зателефонува́в ма́мі про те, що він споча́тку розв'яза́в зада́чу і ви́конав впра́ву, по́тім підмі́в кімна́ту. 

上記の例文で、Мишко くんと Дмитрик くんはそれぞれお母さんに電話をかけ、自分が「まず課題をやり(解き)、運動をし、そして部屋を掃除した」ことを伝えます。
さて、この二人のうちお母さんに褒められるのはどちらでしょうか?

まず答えから言うと、褒められるのは②の Дмитрик くんです。①の Мишко くんは怒られるかもしれません。
なぜかといえば、①の例文では太字の動詞が全て不完了体であり、②の例文では完了体だからです。

何度も、何度でも強調しますが、完了体動詞は動作が最後まで終わることを意味します。そのため、②の例文で Дмитрик くんは「最初に課題を終わらせ、運動をやりきったあと、部屋の掃除も済ませた」ということになります。

対して①の例文の Мишко くんは、過去の動作なのにあえて不完了体を使っていますので、むしろ動作が最後まで終わっていない、やっている途中であることが強く示唆されます。つまり「まずは課題をやっていたが、終わらないうちに運動をやり始め、これも最後までやりきらないうちに掃除をしてみるが、これも済ませないままである」という状態です。

また、この二つの例文における動作の展開に注目してみましょう。
①では「課題をやる」という動作が終わらないまま途中で「運動する」動作を始め、それも途中で「掃除をする」動作が始まっていますので、電話をしている時点で全ての動作がまだ途中で終わっていない、つまり動作はまだ継続中となります。
図で表すならば、3本の直線が平行に並んでいる状態と言えるでしょう。

対して②では、「課題をやる」という動作を終えた後に次の動作である「運動する」を始め、それが終わってからさらに次の動作として「掃除をする」を行い、それも済ませる、というように順を追って動作が続いていきます。
図で表すならば、点(もしくは動作に一定の時間がかかっていることをあえて表すならば線分)が同一直線状に並んでいる状態と言えます。

この動作の展開に着目して、次の例文を見比べてみてください。

① Та́то сиді́в за столо́м, пив ка́ву, та чита́в газе́ту.
② Та́то поси́дів за столо́м, ви́пив ка́ви, та прочита́в газе́ту.
③ Коли́ та́то сиді́в за столо́м, він ви́пив ка́ви і прочита́в газе́ту. 

3つ全てにおいて、お父さんは、「座る」、「コーヒーを飲む」、「新聞を読む」という3つの動作を行っています。 

①の動詞は全て不完了体です。つまり「座る」、「コーヒーを飲む」、「新聞を読む」という3つの動作が並行して行われていることになります。
訳すならば「お父さんはテーブル(の椅子)に座って、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた」といったところでしょう。平日か休日か分かりませんが、少なくともある程度ゆったりした朝の時間、といったイメージです。 

対して②は全て完了体です。つまり、「座る」動作を終えた後に「コーヒーを飲む」ことを終え、そして「新聞を読む」のも終わらせてしまったということです。
訳すなら、「お父さんはテーブル(の椅子)にちょっと腰掛けたあと、(また立ち上がって)コーヒーを一杯飲み干し、そのあと新聞を最後まで読み切った」といったところでしょう。せかせかとせわしないですね。 

③では、「座る」が不完了体、「コーヒーを飲む」と「新聞を読む」が完了体です。まず腰掛けて、最初にコーヒーを楽しみ、飲み干した後にそのまま新聞を開いて、これを最後まで読んだ、という状況です。
「座りながら」つまり「座っているときに」なので文脈的に коли́ が自然と補われます。

ところで、по- をつけると「少しの間〜する」という意味が付加された完了体動詞になることがあります。
今回は сиді́ти 「座っている」なので、その動作の性質上も完了体にするとこの意味になってしまいます。 

座る、立つ、横たわる

日本語では区別がつけづらいですが、сиді́ти は英語の sit に相当する状態を表す動詞です。立っている状態から「座る」という動作、つまり sit down に相当する動詞は сі́сти (完)と сіда́ти (不完)です。
ちょっと脇道に逸れますが、このタイプの「立つ」、「座る」、「横たわる」という動作のペアについてまとめてみましょう。

左側が英語の stand, sit, lie という状態動詞、右側が stand up, sit down, lie down という動作動詞です。

стоя́ти 「立っている」 ⇔ вста́ти (完)/встава́ти(不完)「立ち上がる」

сиді́ти 「座っている」 ⇔ сі́сти(完)/сіда́ти(不完)「座る、腰を下ろす」

лежа́ти 「横たわっている、寝転んでいる」 ⇔ лягти́(完)/ляга́ти(不完)「横たわる、寝転ぶ」 

Він стоя́в на нога́х. 「彼は自分の足で立っていた」
Він вста́в на но́ги. 「彼は自分の足で立ち上がった」
(※стоя́ти на нога́х/вста́ти на но́ги には「自立する」「しっかりする」の意味もあります)
 
Я сиді́ла за столо́м. 「私はテーブル(の席)に座っていた」
Я сі́ла за стіл. 「私はテーブル(の席)に座った」
 
Я лежа́в у лі́жку. 「私はベッドに寝転んでいた(寝込んでいた)」
Я ліг у лі́жко. 「私はベッドに横になった(床についた)」

動作動詞を使った際には場所を表す部分が方向を表す「前置詞+対格」となっていることに注目してください。

状態動詞のほうを完了体にする際は接頭辞 по- をつけて посто́яти、поси́діти、поле́жати となりますが、この場合は「ちょっとの間立つ/座る/横になる」というような意味になります。

具体的な体の使い分け

話を戻しますが、以上のように、完了体動詞は動作の区切れ目がある程度明確であるのに対して、不完了体動詞はそれが曖昧です。
この体の違いを正しく理解しないと、読んだり聞いたりといったインプットの際も、書いたり話したりするアウトプットの際も、思わぬ誤解を招いてしまう可能性があります。

体の選択をする際は、究極的には「慣れろ」と言うしかないのですが、いくつかポイントを挙げておきます。

完了体

まずは完了体からいきましょう。
完了体の動詞は、「〜してしまう」というニュアンスを持っていますので、明確な区切れ目を以て動作が最後まで終わっていることを表します。また、動作を点(またはせいぜい短い線分)として表しますので、1回きりの動作や、突然の動作などを表します。

Наре́шті Ле́ся дописа́ла кни́жку ві́ршів. 「レーシャはついに詩集を書き上げた」(動作の完了)
Його́ ви́ключили з па́ртії. 「彼は党から除名された」(一度きりの動作)
І ра́птом дале́ко на о́брії він поба́чив корабе́ль. 「そして突然遠く水平線に彼は船を見た」(突然の動作)

さらに、動作が終わった結果が今も残っている、ということも含意します。
こうした性質から、完了体が用いられると別の動作やその結果生じたことに話題が移ることが自然と期待されます。

Окса́на відчини́ла вікно́. Тепе́р хо́лодно. 「オクサナは窓を開けた。(なのでもう)今は寒い」(=窓はまだ開いている)
Марко́ прийшо́в о шо́стій і Вас чека́є. 「マルコは6時に来て、あなたを待っていますよ」(=マルコはまだそこにいる)
Я вже прочита́в прибли́зно дві трети́ни кни́ги, і там з пра́вого бо́ку таки́й гра́фік... 「私はその本の3分の2近くをもう読んでしまったが、右側にはこんな図があった・・・」

不完了体

不完了体の動詞は一定の時間幅を持っているという性質上、習慣的な動作や繰り返された行動を表すときに用いられます。そのため、「いつも」「普段」「〜回」「何度も」といった副詞(句)と共起することも多いです。

Щове́чора пе́ред сном він чита́є кни́жку. 「毎晩彼は寝る前に本を読む」
Я це ба́чив бага́то разі́в у рі́зних ситуа́ціях. 「私はそれを何度も様々な状況で目にしてきた」

また、現在や過去における進行も表せます。

За́раз він гра́є в Іта́лії. 「今彼はイタリアでプレーしている」
Я прийма́ла ва́нну, коли́ він прийшо́в. 「彼が来たとき、私は入浴しているところだった」

さらに、完了体はどうしても「やってしまう」という意味を伴ってしまうので、動作そのものをフラットに表す場合は不完了体となります。そのため、一般的に「〜したい」や「〜できる」と言うような場合は不完了体動詞が目的語になります。

Вона́ бажа́є ма́ти бага́то гро́шей та дорогі́ ре́чі. 「彼女はたくさんのお金と高価なものを持ちたいと願っている」
Спра́вжні лі́дери вмі́ють гі́дно пово́дитися са́мі і підно́сити і́нших одноча́сно. 「真のリーダーは自ら謙りつつ他人を立てることを同時にできるものだ」

特に過去形では差異が顕著で、不完了体は動作の結果には言及しないため、単に「〜していた」、と過去に動作が行われた事実を示すのみです。そのため、文脈によっては「〜したことがある」と経験を表す場合もあります。

Ти чита́ла цю кни́жку? 「この本読んだことある?」
Ти зна́ла, що я коли́сь виклада́в францу́зьку в Бо́стоні? 「僕がボストンでフランス語を教えてたことがあるって知ってた?」

このほか、その意味するところの性質上、目的語として動詞(の不定形)を取る場合に必ず不完了体動詞を要求する動詞もあります。不定形の用法のところで紹介した ста́ти 「なる、~し始める」、почина́ти/поча́ти 「~し始める」、закі́нчувати/закі́нчити (кінча́ти/скінчи́ти) 「~し終える」、перестава́ти/переста́ти 「(途中で)やめる、止める」、продо́вжувати/продо́вжити 「~し続ける」などがこれにあたります。
「〜し続ける」はそのままですが、始める、終えるというのも動作がある程度の時間続けて行われることを見越しているからです。

体の見分け方

残念ながら、不完了体はこういう形、完了体はこういう形、というキッパリ分けられるような全体に通用する法則はありません。
しかしいくつか大まかな傾向はあり、ウクライナ語に触れている間になんとなく感覚的に分かってくるものではありますが、学習の助けとしてまとめたいと思います。
全般的には、不完了体動詞の方が基本形でこれに接頭辞や接尾辞などを加えることで完了体が作られる場合と、完了体動詞の方を基礎として接尾辞や母音などが補われることで不完了体が作られる場合とがあり、非過去形の活用など完了体の方が語の長さが短くなる印象です。

-ити / -ати のペア

接頭辞などをつけないパターンでよく見られるのが、不定形で -ити に終わる完了体動詞と -ати に終わる不完了体動詞のペアです。
不完了体と完了体のどちらが基礎になっているのかはあまり明らかではないのですが、不完了体の方に完了体の非過去形における子音交替後の子音が出ている場合は、完了体から不完了体が派生していると言えるでしょう。

以下、不完了体 ― 完了体の順に示します。

навча́ти ― навчи́ти 「教える」
доставля́ти ― доста́вити 「届ける」
лиша́ти ― лиши́ти 「残す、置いていく」
схиля́ти ― схили́ти 「曲げる、傾ける、導く」
втрача́ти ― втра́тити 「失う」
забороня́ти ― заборони́ти 「禁止する」
звільня́ти ― звільни́ти 「解放する、解任する」

接頭辞の付加による完了体動詞

こちらは不完了体から完了体が作られるときに非常に典型的なパターンです。
ウクライナ語には動詞につく接頭辞が多数ありますので、別の回でこれもまとめたいと思います。
完了体の動詞を作る際にどの接頭辞が選択されるかは動作の性質などによります。ここはネイティブの感覚的な部分に拠るところがあるらしく、日本人的な感覚とは合致しないことが多々ありますので、特に初学者には予測はほぼ不可能です。それぞれで覚えるしかありません。

完了体化するのに典型的によく使われるのは по- です。動詞によっては「ちょっと〜する」という意味に派生します。

зва́ти ― позва́ти 「呼ぶ」
дарува́ти ― подарува́ти 「贈る」
обіця́ти ― пообіця́ти 「約束する」
цілува́ти ― поцілува́ти 「キスをする」
сиді́ти ― поси́діти 「座る(座っている)」

その他の接頭辞による例は以下のとおりです。

писа́ти ― написа́ти 「書く」
ли́ти ― нали́ти 「注ぐ」
чита́ти ― прочита́ти 「読む」
ї́сти ― з’ї́сти 「食べる」
пи́ти ― ви́пити 「飲む」
копіюва́ти ― скопіюва́ти 「コピーする」
сканува́ти ― відсканува́ти 「スキャンする」

ちなみに、接頭辞が何もつかない不完了体動詞に、対応する完了体動詞を作るときと異なる接頭辞がついた場合は、新たな意味が付加された別の完了体動詞に派生することが多いです。
このような完了体動詞からは、次に紹介する接尾辞の付加か母音の挿入によって対応する不完了体動詞が作られます。

接尾辞の付加または母音の挿入による不完了体動詞

接尾辞が付加される場合は、-ува-/-юва- がつきます。その際、アクセントが一つ前の音節にズレることも多いです。
接頭辞がついて派生した完了体動詞から不完了体動詞を作ったりしますが、それ以外の完了体動詞からも不完了体を作ります。

обгово́рювати ― обговори́ти 「議論する」
змі́шувати ― зміша́ти 「混ぜる、混乱させる」
скоро́чувати ― скороти́ти 「短縮する」
запи́сувати ― записа́ти 「書き留める、録画・録音する」
купува́ти ― купи́ти 「買う」

-и や -і の後に接尾辞が付加される場合は -ва- となります。

відпочива́ти ― відпочи́ти 「休む」
нагріва́ти ― нагрі́ти 「温める」
вимива́ти ― ви́мити 「洗ってきれいにする」
вишива́ти ― ви́шити 「刺繍する」

母音が挿入される場合は、語幹の子音連続部分に -и- が入ることが多いです。後ろに伸びる場合は -а- が入ったりします。

вибира́ти ― ви́брати 「選ぶ」
посила́ти ― посла́ти 「送る」
відрива́ти ― відірва́ти 「引き裂く」
почина́ти ―поча́ти 「始める」
сіда́ти ― сі́сти 「座る」
ляга́ти ― лягти́ 「横になる、横たわる」

接尾辞 -ну- による完了体動詞

不定形が -ати に終わる不完了体動詞に -ну- をつけることで完了体動詞が作られます。この -ну- はこれまでも出てきていますが、特に瞬間的な一回の動作を表すことの多い接尾辞です。

зника́ти ― зни́кнути 「消える」
крича́ти ― кри́кнути 「叫ぶ、大声を上げる」
сту́кати ― сту́кнути 「トントン音を立てる、ノックする、ぶっ叩く」
відки́дати ― відки́нути 「投げる、捨てる、押し返す、拒絶する」
огляда́ти ― огля́нути 「調べる、検査する、検討する」

アクセントによる体の区別

このタイプは読むときに厄介です。不定形や過去形ではアクセントの位置でしか判別できず、通常の文章ではアクセント記号はふつう用いられませんので、文脈からどちらかを判断する必要があります。おおかた、完了体の方がアクセントが前の方に置かれます。

なお、このパターンの場合、非過去形の活用は完了体と不完了体とで異なることがありその場合は判別が容易ですが、非過去形も含め見た目上全く同じ形になる動詞もあります。

посипа́ти (посипа́ю, посипа́єш,...) ― поси́пати (поси́плю, поси́плеш,...) 「ばらまく、かける」

склика́ти (склика́ю, склика́єш,...) ― скли́кати (скли́чу, скли́чеш,...) 「招集する」

покида́ти (покида́ю, покида́єш,...) ― поки́дати (поки́даю, поки́даєш,...) 「捨てる、(その場を、人を)後にする」

виміря́ти (виміря́ю, виміря́єш,...) ― ви́міряти (ви́міряю, ви́міряєш,...) 「測る」
(※不完 вимі́рювати、完 ви́мірити という形もあります)

全く別の形の動詞によるペア(補充)

全く別の語根の動詞が、その意味上ペアとして選ばれている場合もあります。以下のような動詞が該当します。

бра́ти ― взя́ти 「取る」
лови́ти ― пійма́ти 「捕まえる」
говори́ти ― сказа́ти 「言う」

ただし、лови́ти の完了体は接頭辞をつけるタイプの злови́ти ともされますし、сказа́ти の不完了体は接頭辞を取った каза́ти でもあります。
この手の別語根のペアはウクライナ語では比較的少ないと言えるでしょう。

また、正確には語根が異なるわけでもないのですが、 -ймати ― -йняти のペアは見た目上現れている子音が違ってちょっと見た目が異なるのでここで紹介しておきます。

займа́ти ― зайня́ти 「占める、取る」
прийма́ти ― прийня́ти 「受け入れる」

次の回で紹介する移動の動詞に接頭辞をつけて派生させたものの一部もこのパターンに含まれると言えます(прихо́дити ― прийти́ 「(歩いて)来る、(歩いて)到着する」など)が、詳細は次回まとめます。

いいなと思ったら応援しよう!