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ウクライナ語文法シリーズその38:仮定法、不定形の用法
今回は仮定法の作り方と、これまで何度も登場してきた動詞の不定形の用法をまとめていきたいと思います。
仮定法
ウクライナ語の仮定法の作り方は非常に簡単です。作り方よりは用法のほうが重要となります。英語でも would や could などが自然と使われていたりするように、ウクライナ語でも仮定法は頻繁に使われます。
これが自然に使えるようになってくると表現の幅がぐっと広がります。
仮定・条件を表す接続詞
ウクライナ語では仮定や条件を表す接続詞に якщо́ と якби́ の2つがあります。
якщо́ は「現実的な」条件を示す接続詞で、仮定法とは組み合わせません。「もし〜」と訳しても日本語的には大丈夫ですが、強いていえば「〜なら、〜たら、〜れば」の部分のみに近いです。
Я залишу́ся, якщо́ піде́ дощ. 「雨が降ったら、私は残ります」
Якщо́ він при́йде завча́сно, ми змо́жемо заверши́ти прое́кт. 「彼が時間どおりに来れば、我々はプロジェクトを完了させられる」
Якщо́ со́нце світи́ть, то пого́да га́рна. 「日が照っているなら、いい天気だ」
これに対して якби́ は仮定法と共に用いられます。「もし〜なら、たら、れば」と仮定の意味となります。それでは仮定法の形を見ていきましょう。
仮定法の構造
仮定法を作るには、仮定の助詞 б/би と動詞の過去形を組み合わせます。
原則として б/би は直前に置かれる語が母音で終わっていれば б、子音で終わっていれば би を用いることになっているようですが、必ずしもそうではないことも多く思われます。
чита́в би 「読んだだろう(男性)」
чита́ла б 「読んだだろう(女性)」
я б зроби́ла 「私ならやっただろう」
він би не прийшо́в 「彼なら来なかっただろう」
б/би は文頭には置かれず、動詞の近くに現れやすいですが、必ずしも動詞にくっついて現れる必要はなく色々な位置に現れ得ます。
接続詞 якби́ には見てのとおりすでに би が含まれていますので、якби́ のある節では動詞を過去形にするだけで大丈夫です。
Якби́ він міг… 「もし彼が~出来たなら・・・」
Якби́ не було́… 「もし〇〇が無かったら・・・」
Якби́ ти знайшла́… 「もし君が〇〇を見つけたなら・・・」
なお、ウクライナ語の仮定法では時制の区別はありません。
仮定法の用法
仮定法は、接続詞 якби́ と共に、非現実的なことや現実に反すること、まだ現実になっていないことを表すのに用いられます。
Якби́ я мав кри́ла, я би леті́в. 「もし私に羽根があったら、飛んだだろう」
Якби́ ти знав пра́вду, ти б не пішо́в. 「もし君が真実を知っていたなら、行かないだろう」
Якби́ вона́ могла́, то прийшла́ б сюди́. 「もし可能なら、彼女はここに来るだろう」
単独で用いられる場合は英語の would や I wish I could などのように、「〜できるといいんだが、できたらよかったんだが」「〜ならこうするだろう、しただろう」といった希望や可能性の意味を表します。こちらは日常の会話ではよく使います。
Я би там залиши́вся з не́ю. 「彼女と一緒にあそこにいられれば(残れれば)よかったんだが」
Він би не нароби́в сті́льки помило́к. 「彼だった`らそんなに多くの間違いをしでかすことはないだろう」
Чи жила́ б Украї́на без ко́бзи-банду́ри? 「コブザやバンドゥーラのないウクライナなどあり得ただろうか?(直訳:〜なしでウクライナは生きられただろうか?)」
単独での仮定法は、英語のそれと同様、婉曲的な表現にも用いられます。これまで何度か触れたように、хоті́ти は「〜がほしい」「〜したい」とかなり直接的ですが、これを仮定法にすることでかなり丁寧な表現になります。
Я хоті́ла б провести́ з ва́ми за́лишок мого́ життя́. 「あなた方と私の残りの人生を送ることができればと思います」
Я хоті́ла б ви́словити свою́ щи́ру подя́ку всім коле́гам. 「すべての同僚たちに大きな感謝を申し上げたいと思います」
Ци́ми слова́ми я хоті́в би заверши́ти свій ви́ступ. 「これで発表を終えたく思います」
さらに хоті́ти を ся 動詞化した上で仮定法を使えば、非常に丁寧で控えめな言い方になります。このときは必ず中性形で、意味上の主語を出す場合は与格で現れます。
Не хоті́лося би працюва́ти з таки́ми людьми́. 「このような人たちとは働きたいと思わない」
Є супе́рник, у я́кого хоті́лося би ви́грати. 「勝てればと思う相手がいるんです」
接続詞 щоб
ここで接続詞の щоб の使い方を紹介しておきます。щоб は「〜するために」または「〇〇が〜するように」という意味になります。
しかし、щоб が使われる節の主語が主節の主語と同じかどうかで構造や動詞の形が変わってきますので注意しましょう。
主節と щоб 節の主語が同じ場合は、щоб 節に動詞の不定形を置きます。
Щоб отри́мати посві́дчення водія́ потрі́бно скла́сти два екза́мени. 「運転免許を手に入れるには、2つの試験を通過しなければならない」
Дити́на ча́сто вибо́вкувала безглу́зді слова́ про́сто щоб розсміши́ти і́нших. 「その子はただ他の人を笑わせるためにバカバカしい言葉をよく言い出していた」
これに対して、主節と щоб 節の主語が異なる場合は、コンマと щоб の後に主語と動詞の過去形を置きます。
「過去形」と言いましたが、щоб の б は仮定法の б/би ですので、正確には動詞が仮定法の形になるのです。先程の主語つまり動作の主体が同じ場合であれば、「〜するために」というのは動作主の意思や意図なので仮定ではないのですが、動作の主体が異なってしまうと主語の意思は及ばず、まだ起こっていない、起こるかわからない動作を期待するということになるため、仮定法になるのでしょう。
для то́го щоб や так, щоб といった形がよく用いられます。
Навча́йте його нови́м ігра́м, щоб він міг показа́ти їх дру́зям. 「彼が友達に見せてやれるように、彼に新しい遊びを教えて下さい」
Ми щодня́ працю́ємо для то́го щоб на́ші се́рвіси були́ для Вас найзручні́шими. 「我々は、我々のサービスがあなたにとって最も便利であるように毎日働いています」
Дівча́та співа́ли так, щоб було́ чу́ти на протиле́жному бе́резі рі́чки. 「女の子たちは、川の反対側まで聞こえるように歌った」
このほか、「~ために」という目的のような意味ではなく、より単純に「〇〇が~することを」という意味を表す場合もあります。
Необхі́дно щоб ти пішо́в з на́ми до на́шого сара́ю. 「君が私達とうちに納屋に行ってもらう必要がある」
Він бої́ться, щоб вона́ не прийшла́. 「彼は、彼女が来ないのではないかと(=来ないことを)心配している」
「〇〇に〜してほしい」と言うときは хотіти と щоб + 仮定法を組み合わせます。
Я хо́чу, щоб ти прийшо́в. 「君に来てほしい」
Мені́ б хоті́лося щоб ви реа́льно оцінюва́ли свої́ ша́нси і можли́вості. 「私としては、あなた方が真に自身の(得た)チャンスと機会を評価してほしいものです」
不定形の用法
これまでの説明ではナチュラルに不定形を使った例文なども紹介してしまっていましたが、ここで一旦その用法を簡単にまとめておきましょう。一部はすでに触れていますし、それほど難しいものではありません。下記のうち無人称文での用法と命令の用法以外は自然体で理解できるのではないかと思います。
主語としての用法
不定詞は動詞の動作そのものを表す名詞として振る舞います。
日本語では「〜すること」というような意味ですね。英語の to 不定詞の用法にも同じようなのがありますのでそれほど違和感はないと思います。
Чита́ти украї́нську літерату́ру – розумі́ти Украї́ну. 「ウクライナ文学を読むことは、ウクライナを理解するということである」
Пе́ршою ду́мкою в Степа́на було́ дові́датися, де вони́. 「ステパンが最初に思いついたのは、彼らがどこにいるか知ることであった」
不定形を要求する動詞
動詞の中には、目的語として不定形を要求するものが多数あります。これも英語に同じような動詞がありますのでわかりやすいのではないでしょうか。
この用法がいちばん使う頻度が高いかもしれません。
例えば以下のような動詞です。英語で言う助動詞と同じ意味の動詞も含まれます。
могти́/змогти́ 「出来る」
Не мо́жемо чека́ти. 「待つことは出来ない」
умі́ти 「出来る」
Умі́єте пла́вати? 「泳げますか?」
устига́ти/усти́гнути (усти́гти) 「出来る、間に合う」
Оле́кса не встиг дописа́ти листа́. 「オレクサは手紙を書き切れなかった」
му́сити 「~しなければならない」
Му́шу дзвони́ти до ньо́го. 「彼に電話をしなければならない」
ма́ти 「~するべきである、しなければならない」
Це ма́є бу́ти зро́блено нега́йно. 「それは直ちに行われなければならない」
дово́диться 「~する義務がある、しなければならないはずだ」※無人称で用いられる
Мені́ дово́диться плати́ти їй. 「私は彼女にお金を払わなければならないと思う」
ста́ти 「なる、~し始める」
Ми ста́ли чита́ти. 「私達は読み始めた」
почина́ти/поча́ти 「~し始める」
Виклада́ч поча́в говори́ти. 「先生は話し始めた」
закі́нчувати/закі́нчити (кінча́ти/скінчи́ти) 「~し終える」
Бори́с закінчи́в писа́ти. 「ボリスは書き終えた」
перестава́ти/переста́ти 「(途中で)やめる、止める」
О́льга переста́ла говори́ти. 「オリハは話すのをやめた」
продо́вжувати/продо́вжити 「~し続ける」
Вони́ продо́вжили спереча́тися. 「彼らは口論をし続けた」
なお、上記のうち могти́/змогти́、умі́ти、устига́ти/усти́гнути (усти́гти) はいずれも日本語で「出来る」と訳し得ますが、どう「出来る」のかについてはそれぞれ異なります。
устига́ти/усти́гнути (усти́гти) は分かりやすいのですが、「間に合う」という意味があることからもわかるように、「時間的に間に合わせる」という意味での「出来る」です。
これに対してмогти́/змогти́ と умі́ти の違いは少しわかりにくいかもしれません。一言で言ってしまうと、могти́/змогти́ は状況や機会、意向としての「出来る」で、умі́ти は能力としての「出来る」です。
つまり、上の例文で紹介した Умі́єте пла́вати? は「泳ぎ方を知っていますか?」つまりあえてまどろっこしく言えば「水に入っても溺れたりせずに浮かんだり自分の行きたい方向に行ったり出来ますか?」と聞いていることになります。
これに対し、Мо́жете пла́вати? とした場合は、文脈の助けが必要ですが、例えば「ちょっと反対側の岸まで行ってきてくれません?」とか、「せっかく海沿いに来たのだから僕は泳ぎに行こうと思うんですが、あなたはどうです?時間作れます?」だとか、「ボートが壊れちゃって多分泳いでいくしかないんですけど、いま服とか来たままでもオッケーですか?」といった状況などを表すことになります。
このほか、以前紹介した法制を表す語との組み合わせもあります。
補語などとしての用法
文の中で動詞や名詞の意味を補うような様々な意味を表します。例えば、名詞を修飾するような形で「〜する(という/ための/べき)〇〇」を表したり、「〇〇が〜するのを/〜するように〜する」といった様々な意味を加えるのに用いられます。
Бажа́ння побува́ти в тих па́м’ятних місця́х покли́кало нас у доро́гу. 「思い出の地を訪れたいという思いが、我々を旅へ誘った(直訳:我々を道へ呼んだ)」
Наста́в час проща́тися. 「別れを言う時が来た」
Агроно́м пора́див переора́ти. 「農学者は耕し直すよう進めた」
特に移動を表す動詞と共に用いられると「〜しに行く」というような目的を表します。
Ми пішли́ поба́чити за́хід со́нця. 「私達は日没を見に(歩いて)出かけた」
無人称文での用法
日常生活では特によく出会う用法です。意味上の主語がある場合は与格の形で置きます。
特段他の動詞やその他の語がなくとも単独でも「〜するべきだ」「〜したほうがよい」「〜するつもりだ」「〜できる」というようなニュアンスを表します。
初めのうちは感覚的に理解したり使ったりするのが難しいと思います。
Тут жи́ти ле́гко. 「ここでは楽に暮らせる」
Тут нам жи́ти ле́гко. 「私達にはここなら楽に暮らせる」
Що мені́ роби́ти? 「私は何をすればよいのか?」
Де схова́тися від во́рога? 「敵からはどこに隠れるとよいか?」
Не говори́ти було́ з не́ю... 「彼女とは話すべきではなかった」
命令
前々回紹介した用法です。
命令形が指示や依頼を表すのに対し、こちらは軍隊すら彷彿とさせる「命令」として用いられます。
Мовча́ти! 「黙れ!静かに!」
Не говори́ти! 「話すな!静かに!」
今回まとめた仮定法と不定形は、形の上では対して難しくはないのですが、日本人には地味に感覚的に使うのが難しいものが含まれています。
ウクライナ語の日常会話を常日頃聞いているとなんとなく感覚が身について来ますが、そんなシチュエーションも限られてくる場合はドラマなどを見るといいかもしれません。
次回は分詞と副動詞の作り方を見ていきます。次回で動詞の形態面に関する説明は最後になります。