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ウクライナ語文法シリーズその22:疑問・関係代名詞
ウクライナ語での疑問代名詞を見ていきましょう。疑問代名詞はいずれも関係代名詞としても用いられます。それぞれの疑問代名詞の意味と変化のほか、関係代名詞としての用法も見ていきます。
最後の方で、疑問「代名詞」ではありませんが、疑問文で使われるいわゆる「疑問詞」も紹介しておきます。
хто 「誰?」, що 「何?」
まずは「誰?」と「何?」を押さえておきましょう。これらも当然のように格変化をしてきます。
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хто も що も主格とそれ以外で子音が変わってきますので注意してください。
хто は意味上、有生しかあり得ず、逆に що は無生しかあり得ませんので、対格形はそれぞれ一つしかありません。
また、人称代名詞と同様、前置詞が前に来た場合はアクセントが一つ前にずれます。
それぞれの格や前置詞とともに用いられるの意味合いは概ね一般名詞と変わりませんので、文中の語を格をそのままに疑問詞に置き換えることで疑問文が作れます。英語のように前置詞だけ文末に取り残されるようなことはありません。
Хто там? 「そこにいるのは誰?」
Кого́ Ви там поба́чили? 「そこで誰を見たのですか?」
До ко́го ти йдеш? 「誰のところへ行くの?」
Кому́ він подарува́в ці квітки́? 「彼は誰にこの花を贈ったんですか?」
З ким вона́ піде́ на ста́нцію? 「彼女は誰と駅へ行くのですか?」
Що це? 「これは何ですか?」
Що ти ро́биш? 「何してるの?」
Для чо́го він сюди́ приїхав? 「彼は何のためにここに来たんですか?」
Чим рі́жуть метал? 「金属は何を使って切るのか?」
чому́ はその意味に少々注意が必要で、与格なので「何に?」という意味を表すこともなくはないのですが、通常は「なぜ?」の意味で使われます。このほか口語では чого́ も「なぜ?」の意味で使われます。
Чому́/Чого́ ти не працю́єш? 「なぜ君は働いていないの?」
なお、文法上 хто は男性単数として、 що は中性単数として扱われます。特に動詞が過去形になるときに注意が必要です。
Хто там стоя́в? 「誰がそこに立っていたの?」
Що впа́ло? 「何が落ちたの?」
日本語や英語と異なり、動物は хто で表されます。
Хто у Вас на фе́рмі? 「あなたの牧場には何がいますか?」
余談になりますが、ロシア語でも同様に動物は「誰?」で表現されます。昔、ある日本語を話せるロシア人と外を歩いていたとき、どこからか嫌な臭いがしたため日本語で「何の臭いだろうね」と言ったら、ロシア人から「誰か死んでる・・・」との答えが返ってきたことがあります。「何か近くに動物の死骸があるんだと思う」という意味だったのでしょうが、いきなりそんなことを言われてかなりぎょっとしてしまいました。
間接疑問文の作り方は、主文にカンマをつけて хто か що もしくはその変化形を置いて疑問文部分を続ければOKです。疑問詞に前置詞が付く場合は хто や що に付いてきてカンマの直後に置かれます。
Я не знаю, хто це. 「私はこの人が誰か知らない」
Вона́ спита́ла мене́, що він ро́бить. 「彼女は私に、彼が何をしているのか尋ねた」
Він не мо́же згада́ти, кого́ запроси́ла ма́ма на вечі́рку. 「彼はお母さんが誰をパーティに招いたのか思い出せない」
Я не розумі́ю, для чо́го ти це зроби́ла. 「何のために君がこれをやったのか理解できない」
また、що は英語の that のように、「~ということ」といういわゆる that 節を導く用法があります。
Він сказа́в мені́, що не піде́ за́втра до шко́ли. 「彼は私に、明日学校へ行かないと言った」
Я зна́ю, що нічо́го не зна́ю. 「私は何も知らないということを知っている(ソクラテスの名言)」
関係代名詞としての用法
хто も що も、関係代名詞として使用できます。
まずは що の使い方から見ていきましょう。що は主格形のまま、人について説明をつける際に用いられます。イメージとしては英語の that に近いのですが、モノではなく人を表すのに使われるのに注意してください。
まず、いわゆる関係節で関係代名詞で表される人物が主格となる場合には、そのまま主語を що に変えて繋げるだけでOKです。
Там сиди́ть ді́вчина, що ме́шкає в Оде́сі. 「あそこにオデーサに住んでいる女の子(若い女性)が座っている」
もし関係節で関係代名詞で表される人物が主格以外もしくは前置詞が付く形で現れる場合は、щоの後に3人称の代名詞の変化形もしくは「前置詞+代名詞の変化形」を置くことで表されます。
Он той чолові́к, що з ним я розмовля́в у це́нтрі. 「ほらあれが、私が中心街で話していた男性ですよ」
Я не зна́ю люди́ни, що їй я дав кни́жку. 「私は自分が本をあげた人のことを知らない」
なお、「注意の必要な女性名詞」で説明したとおり、単語 люди́на は文法上女性名詞ですが、表す意味は純粋に「人」ですので、上の2番目の例文の関係節で女性の代名詞が使われているからといって実際に言及されている人物が女性とは限りませんので、注意してください。重要なのは、主節と関係節が文法上の一致をするということです。
хто と що には、指示代名詞との組み合わせでの関係代名詞の用法があります。これについては次の「指示代名詞」で詳しく説明することにしますが、「~する/した人」や「~する/したもの・こと」、「~する/した者はみな」という意味になります。ここでは例だけ少し挙げておきます。
ті, хто це знають 「そのことを知っている人々」
всі, хто це знають 「そのことを知っている者みな」
те, що я вам сказав 「私があなた方に言ったこと」
また、この用法に少し似た例として、хто を単独で使って一般論としての「~する人は(だれでも)」という文を表すことができます。この場合 хто は英語の whoever に相当します。
Хто не був у Ки́єві, той не зна́є, яке́ це га́рне мі́сто. 「キーウに行ったことのない者は、どれほどこの街が美しいかを知らない」
чий 「誰の?」
疑問代名詞 чий は所有代名詞の疑問詞にあたります。形容詞と似た変化をします。
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хто や що と同様に、直接疑問文にも間接疑問文にもなります。
Чия́ це кімна́та? 「これは誰の部屋ですか?」
Я спита́ла його́, чия́ це кімна́та. 「私は彼に、この部屋が誰のか尋ねた」
関係代名詞としての用法
чий には英語の whose に相当する関係代名詞の用法があります。ただし、修飾する名詞の関係節での格によって形は変化します。
Я поба́чив чолові́ка, чия́ дружи́на працю́є в сусі́дньому мі́сті. 「奥さんが隣町で働いている男性に会った」
Моя́ ма́ма ду́же до́бре зна́є ді́вчину, з чиї́ми ді́тьми ти познайо́милася вчо́ра. 「私の母は、君が昨日知り合った子どもたちの母親である女性をよく知っている」
2番目の例文は日本語に直訳すると若干分かりづらいのですが、構造がお分かりでしょうか。文を切り分けてみると Моя́ ма́ма ду́же до́бре зна́є ді́вчину. 「私の母は(その)(若い)女性をよく知っている」と Ти познайо́милися вчо́ра з її́ ді́тьми. 「君は昨日彼女の子どもたちと知り合った」になります。後半の文の її́ と前半の文の ді́вчину が同じ人を指していますので、з її́ ді́тьми という句が前に出てきて、 її́ が関係代名詞の чий に置き換わることで上の2番目の例文になります。
яки́й 「どの?、どんな?」、котри́й 「どれ?」
この二つは意味上似ています。まずは変化を覚えましょう。形容詞型なので難しくはないはずです。
яки́й 「どの?、どんな?」
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котри́й 「どれ?」
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яки́й は英語で言うならば What kind of に相当します。
Яки́й ко́лір тобі́ подо́бається? 「何色が好き?」
Яко́ю мо́вою він розмовля́є? 「彼は何語で話しているのですか?」
З яко́ї сторони ті́ла знахо́диться се́рце? 「心臓は身体のどちら側にありますか?」
Учи́тель спита́в, які́ профе́сії у на́ших батькі́в. 「先生は我々の親の職業は何か尋ねた」
また、яки́й は感嘆詞としても用いられます。
Бо́же, яка́ краса́! 「何という美しさだろう!」
котри́й は上では訳語を「どれ?」としていますが、実際には疑問詞としての用法は時間について尋ねるときにほぼ限られます。
Я хоті́в би зна́ти, о котрі́й (годи́ні) вони́ бу́дуть у Ки́єві. 「彼らが何時にキーウに到着するか知りたいのですが」
時間の表現については別の回で見ていきましょう。
関係代名詞としての用法
関係代名詞として最もよく用いられるのが яки́й です。また、котри́й はそれに比べると頻度は低くなりますが、яки́й と同様に使用されることがあります。
関係代名詞としての使い方は、修飾する単語の直後に置き、関係節での格によって変化させます。
Там сиди́ть ді́вчина, яка́ ме́шкає в Оде́сі. 「あそこにオデーサに住んでいる女の子(若い女性)が座っている」
Он той чолові́к, з яки́м я розмовля́в у це́нтрі. 「ほらあれが、私が中心街で話していた男性ですよ」
Я не зна́ю люди́ни, які́й я дав кни́жку. 「私は自分が本をあげた人のことを知らない」
また、яки́й (котри́й) の属格を使うことで чий と同じ意味の関係代名詞節を作ることができます。この場合は чий と異なり、関係節での語順は後置修飾になります。
Я поба́чив чолові́ка, дружи́на яко́го працю́є в сусі́дньому мі́сті. 「奥さんが隣町で働いている男性に会った」
Моя́ ма́ма ду́же до́бре зна́є ді́вчину, з ді́тьми яко́ї ти познайо́милася вчо́ра. 「私の母は、君が昨日知り合った子どもたちの母親である女性をよく知っている」
скі́льки 「いくつ?、いくら?、どれくらい?」
最後に挙げる疑問代名詞 скі́льки は英語の How much と How many の両方に相当します。これまでの疑問代名詞と同様、直接疑問文にも間接疑問文にも使用されます。
これも格変化をしますが、性・数の区別はなく、少し異なった形となります。どちらかというと形容詞の複数語尾に近いのですが、おそらくそもそも「いくつ?いくら?」という数量詞なので、複数形的になるのでしょう。
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Скі́льки ко́шту́є жи́ти у Льво́ві? 「リヴィウに住むのにはいくらかかりますか?」
Скі́льки потрі́бно вари́ти я́йця? 「卵はどれくらい茹でなければいけませんか?」
重要な特徴として、主格及び無生名詞の対格のときには скі́льки が修飾する名詞は複数属格(可算名詞のとき)もしくは単数属格(不可算名詞のとき)の形となります。代名詞を使って「何人?」と聞く場合にも複数の代名詞の属格、すなわち нас、вас、їх となります。このとき скі́льки が付く句は文法上は単数中性として扱われます。
Скі́льки украї́нців ме́шкає в Кана́ді? 「カナダにはウクライナ人が何人住んでいますか?」
Скі́льки Вас там було́? 「何名でそこにいましたか?」
Скі́льки води́ тре́ба пи́ти в день? 「一日にどのくらい水を飲まなければなりませんか?」
Скі́льки кві́тів подару́єте на її́ день народже́ння? 「彼女の誕生日には何本の花を贈りますか?」
主格以外のときはскі́лькиと名詞の格は一致します。
З скілько́х ро́ків мо́жна працюва́ти в Украї́ні? 「ウクライナでは何歳から働けますか?」
З скількома́ краї́нами межу́є Фра́нція? 「フランスは何か国と国境を接していますか?」
なお、скі́льки も関係代名詞として使えなくもないのですが、用例がそれほど多くありませんので割愛します。
その他の疑問詞
疑問「代名詞」ではないのですが、その他の主な疑問詞もせっかくなのでここで紹介しておきます。副詞的な疑問詞なので、全て不変化です。
де 「どこ?」
場所を尋ねる疑問詞です。
Де ти ме́шкаєш? 「どこに住んでるの?」
Вона́ спита́ла, де я ме́шкаю. 「彼女は私がどこに住んでいるのか尋ねた」
関係副詞としても用いられます。
Це кімна́та, де я ме́шкала. 「これは私が住んでいた部屋だ」
куди́ 「どこへ?」
方向、目的地を尋ねる疑問詞です。
Куди́ іде́ш? 「どこへ行くの?」
Вона́ спита́ла, куди́ я йшов. 「彼女は私がどこに行くところなのか尋ねた」
関係副詞としても用いられます。
Оце́ бібліоте́ка, куди́ я давно́ хоті́в іти́. 「これが私が長らく行きたいと思っている図書館だ」
зві́дки 「どこから?」
起点を尋ねる疑問詞です。
Зві́дки ти приї́хав сюди́? 「どこからここに来たの?」
Вона́ спита́ла, зві́дки я приї́хав. 「彼女は私がどこから来たのか尋ねた」
この疑問詞の使用例で、よく使うのですが日本語の発想とちょっと違うフレーズとして以下を紹介しておきます。
Зві́дки ти зна́єш? 「なんでわかるの?なんで知ってるの?(直訳:どこから(どんな情報源・根拠から判断して)知っているの?)」
関係副詞としても用いられます。
Це то мі́сто, зві́дки я приї́хав сюди́. 「これが私がここへ来る前にいた(出発元の)街だ」
коли́ 「いつ?」
時間を尋ねる疑問詞です。
Коли́ ти впе́рше приї́хав в Украї́ну? 「初めてウクライナに来たのはいつ?」
Вона́ спита́ла, коли́ я впе́рше приї́хав в Украї́ну. 「彼女は私が初めてウクライナに来たのはいつか尋ねた」
関係副詞としても用いられます。
І наста́ло лі́то 2010 ро́ку, коли́ я впе́рше приї́хав в Украї́ну. 「そして私が初めてウクライナに来た2010年の夏が始まったのだ」
як 「どのように?どう?」
様態を尋ねる疑問詞です。疑問詞としての用法以外にも非常に用途の広い頻出語ですので、ぜひ使いこなしてください。
Як тебе́ зва́ти? 「君の名前は?(直訳:君はなんと呼べばよい?)」
Як ти ду́маєш? 「どう思う?」
Як ва́рять рис на су́ші? 「寿司に使う米はどのように炊くのですか?」
Як украї́нською «курума»? 「『車』はウクライナ語でなんと言いますか?」
最後の例文は非常に便利です。Як украї́нською ~ で「ウクライナ語でなんと言いますか?」になります。
関係副詞としての用法はありませんが、「~が~するのを見た/聞いた」という意味の文を作る際の接続詞として用いられます。
Я ба́чив, як вона́ загляда́ла із-за штор до кімна́ти. 「私は彼女がカーテンの裏から部屋を覗いているのを見た」
その他の用法として、「~のように」や「~として」という意味でも使われます。
І́гор у прису́тності коле́г до́вго пла́кав, як дити́на. 「イーホルは同僚たちのいる前で子どものように長い間泣いていた」
Президе́нт як глава́ держа́ви наділя́ється широ́кими понова́женнями. 「大統領は国家元首として幅広い権限が与えられている」
Як уже́ було́ ска́зано... 「すでに述べたように、・・・」
чи 「~か?」
いわゆる Yes-No 疑問文を作る際に使われます。英語の whether のように間接疑問文で「~かどうか」という意味でも用いられます。
Чи бу́деш працюва́ти за́втра? 「明日は仕事するの?」
Чи Ви япо́нець, чи кита́єць? 「あなたは日本人ですか、それとも中国人ですか?」
Не зна́ю, чи він бу́де вдо́ма сього́дні. 「彼が今日家にいるつもりかどうかわからない」