ウクライナ語文法シリーズその37:命令法
ウクライナ語での命令形には、二人称単数、二人称複数、そして一人称複数の3つの形があります。
二人称単数は1人のタメ口で話す相手に対する命令、二人称複数は複数人に対する命令もしくは1人の敬語で話す相手に対する命令、そして一人称複数は勧誘の意味を表します。
命令形の作り方
ある動詞から命令形を作る際には、三人称単数非過去形をベースとします。ただしその際、一人称単数非過去形のアクセント位置が大きく関わってきます。
語尾にアクセントが置かれる動詞
まず、一人称単数非過去形で人称語尾にアクセントが置かれる動詞は、三人称単数非過去形から人称語尾の -е(ть)/-є(ть) や -ить を外し、二人称単数では -и́、二人称複数では -іть、一人称複数では -імо (-ім) をつけます。
例として、роби́ти 「する、作る」(不完)の一人称単数非過去形は роблю́ で語尾にアクセントがあり、三人称単数非過去形は ро́бить ですので、これから -ить の部分を外した роб- に語尾をつけます。命令形は以下のとおりです。
このタイプの動詞を命令形とともにいくつか紹介しておきます。
なお、接頭辞の ви- がついて派生した動詞はアクセントが ви- の部分に来ることが多いのですが、その場合でも接頭辞のつかない動詞がこのパターンであれば、命令形の作り方はそれに従います。
語幹にアクセントが置かれる動詞
次に、一人称単数非過去形で語幹にアクセントが置かれる動詞は、三人称単数非過去形から人称語尾を外し、二人称単数では何もつけないか軟音記号 -ь をつけ、二人称複数は二人称単数の命令形に -те を、一人称複数は -мо をつけます。
場合を分けて説明します。
非過去形人称語尾の直前が母音の動詞
чита́ти 「読む」(不完)は一人称単数非過去形で чита́ю となり、アクセントが語幹の -а- にあります。これの三人称単数非過去形から人称語尾を取るわけですが、この手の動詞の三人称単数非過去形の -є は й + е と考えてください。つまり、外される人称語尾は -йе のうち -е の部分になりますので、この動詞の命令形は以下のとおりです。
なお、子音が連続することになって発音しづらいので、一人称複数の語尾が *-м となることはありません。このほか、三人称単数非過去形に -їть が出てくる場合は -й + ить と捉えます。
その他の動詞は以下のとおりです。о - і の交替にも注意してください。
非過去形人称語尾の直前が子音の動詞
次に、三人称単数非過去形から人称語尾を取ったときに最後が子音になる動詞として бу́ти 「である、ある」(不完)とви́бачити 「許す」(完)を例に挙げてみましょう。三人称単数非過去形の бу́де と ви́бачить からまず人称語尾の -е と -ить を取ります。それぞれ буд- と вибач- になるのですが、ここで最後の子音に注目してください。最後の子音が歯音(д, т, з, с, ц, л, н)になるときには軟音記号の -ь をつけて対応する軟音とし、それ以外の子音のときは何もつけずに残せば、二人称単数命令形になります。二人称複数と一人称複数の命令形は二人称単数命令形にそれぞれ чита́ти のパターンと同じ語尾をつけます。
пити タイプの動詞
пи́ти 「飲む」(不完)のタイプの動詞はちょっとだけ注意が必要です。
このタイプの動詞は以前説明したとおり、一人称単数非過去形が п’ю、三人称単数非過去形が п’є となり、母音が人称語尾にしかないため必然的にアクセントも人称語尾に置かれるのですが、これも語幹にアクセントがある動詞と同じパターンで命令形が作られます。
しかし、人称語尾を取ってしまうと母音がなくなってしまって発音できませんので、母音が補われて以下のような形になります。
-авати のつく動詞
不定形が -авати に終わる動詞もカテゴリーとしては独特のパターンではありますが、命令形の作り方自体は簡単です。
дава́ти 「与える」の三人称単数非過去形は дає́ ですが、命令形を作る際には非過去形で消えてしまう -ава- の部分も残した上で、чита́ти のパターンと同様に作られます。
語尾の直前に子音が連続する場合
一人称単数非過去形で語幹にアクセントがある場合でも、語尾の直前に子音が連続する場合は、命令形は роби́ти など一人称単数非過去形で語尾にアクセントが来るタイプと同じ語尾になります。
例えば кри́кнути 「叫ぶ」(完)の一人称単数非過去は кри́кну、三人称単数非過去形は кри́кне ですが、語尾を取った крикн- の最後の部分で子音が連続していますので、命令形の語尾は -и、-іть、-імо になります。
不規則動詞
不規則動詞の命令形は個別にそのまま覚えてしまいましょう。非過去形はあまり関係ありません。
да́ти 「与える」(完)は чита́ти と同じパターンです。
ї́сти 「食べる」(不完)はどこからともなく -ж という子音が現れます。
відпові́сти́ 「答える」(完)などの -повісти 系列では、例えば відпові́дж や відпові́ж という命令形が論理的にはあるとされることもあり、方言などでは使われたりするようですが、標準的ではないようです。
代わりに、відповіда́ти など対応する不完了体動詞の命令形 (Відповіда́й!)を用いたり、 Дай ві́дповідь! (直訳で「答えを与えよ!」)とするなど別の言い方を用います。
命令形の用法
指示・依頼
日本語の命令形は「〜しろ」「〜せよ」とかなり強い文字どおりの「命令」で、ダイレクトに使用できるオケージョンはかなり限られるかと思いますが、ウクライナ語での命令形はかなり広く用いられ、用法的には「命令」というよりは「指示」や「依頼」に近いです。
訳すときも、もちろん文脈によりますが、「〜して(ください)」程度の意味になります。
一人称複数形は勧誘の意味になります。
禁止
「〜するな」という禁止を表すときは、単純に не をつけるだけでオッケーです。一人称複数だと「〜しないでおこう、しないようにしよう」の意味です。
不完了体動詞の命令形
不完了体動詞の命令形は、急かす調子が強く、今すぐやってほしいときや、一度もう頼んでいるのにまだ行われていないときなどに使われることが多いです。
そのため相手や状況によっては失礼となるので注意が必要です。
ちなみに日常でもよく使われるであろう「待て!」「止まれ!」は стоя́ти 「立つ、立っている」(不完)の命令形を使います。
丁寧な指示・依頼「~してください」
丁寧にするためにはコンマで区切って будь ла́ска をつけます。英語の please に相当します。
最後の例文は直訳すると「トイレがどこか言ってください」ということですが、Скажі́ть (,будь ла́ска), は知らない人に何かを尋ねるときの決まり文句として覚えてしまいましょう。
不定形による強い命令
なお、指示や依頼ではなくまさに「命令」を与えるときは、不定形が使われることもあります。
勧誘
英語の Let's に相当する勧誘の意味のときは前述のとおり一人称複数の命令形を用いるのですが、ロシア語の影響で дава́ти の命令形である Дава́й(те) を勧誘の助詞として使うこともあります。
ウクライナ語としてはこの用法は誤りとして推奨されない(дава́й(те) は本来の「与える」の命令形としての意味しか持たない)そうですが、ロシア語だと日常的に非常によく使いますので、ウクライナ人も使っています。その点に注意した上で、覚えておいてもいいでしょう。
Дава́й(те) のあとには、ふつう、動詞の不定形を置きます。
なお、Дава́й(те)! は単独でも「さあやろう!」「よしやろう!」「ほらほら!」「いけいけ!」という意味で使われます。
促したりするニュアンスのときは、間投詞の ну́мо を使ったりします。これは口語的ですがウクライナ語的に正しい言い方です。「ほら」「さあ」という促す意味の間投詞 ну に一人称複数の語尾 -мо がついている面白い単語ですね。単独でも「さあ行こう!」という意味を表すようです。
三人称に対する命令
動詞の形としての命令形は二人称単数及び複数、そして一人称複数だけですが、三人称に対する命令もあります。「〇〇に〜させろ、させておけ」という意味合いになります。
この構造を作るには、助詞 хай または неха́й と動詞の三人称非過去形を組み合わせます。この2つは完全にシノニムだそうで、не- がついているからといって否定や禁止を表すかといえば全くそんなことはなく、どちらでも良いようです。
命令形、いかがだったでしょうか。少しパターンが分かれてくるので少々難しい部分もありますが、段々と動詞の不定形を見ただけで感覚的に命令形がわかるようになってくると思います。
次回は仮定法の作り方や用法をまとめてみたいと思います。