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ウクライナ語文法シリーズその24:不定代名詞、配分詞、否定代名詞
代名詞パートの最後に、その他の代名詞を紹介していきます。その他と言っておきながらなんですが、いずれも重要です。
「全て」
まずは、весь 「全て」を見ていきましょう。весьは後につく名詞の性と数、格によって変化します。男性主格形では語頭に в/у が付く形もあります。
весь 「全て」
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こちらも他の代名詞と同様に、前置詞が付くとアクセントの位置がずれます。
всього́ – до всьо́го
「全て」なのに単数形があるのは不思議かもしれませんが、単数形は主に後ろに来る名詞の「全体」を表します。
уве́сь мі́сяць 「丸一月」
зі всіє́ї Украї́ни 「ウクライナ全土から」
また、単数中性形 все/усе́ は、特に指定の無い場合、一般的に「全てのもの・こと」を表したり、何らか列挙したものごとをひとまとめにして「これら全て」を表します。複数形 всі/усі́ は指定や特段の文脈が無ければ一般的に「全ての人々、みんな」を表します。
Все бу́де до́бре 「全てうまくいく」
Всі зна́ють цю пі́сню. 「皆がこの歌を知っている」
ちなみに、«Все буде добре» はウクライナでは誰でも知っている Океан Ельзи の名曲です。
また、複数の人称代名詞と共に用いることで、「我々皆」「あなた方皆」「彼ら全員」を表すことができます。この場合、単純に並べるだけで構いませんが、人称代名詞の方が先に置かれることが多い印象です。
Ми всі пішли́ додо́му. 「私たちはみんな家へ帰った」
весь も指示代名詞 той と同じく、関係代名詞と結びついて、「~する全ての~」という形でもよく用いられます。意味上、モノについては все が、人については всі が用いられ、単数の男性形・女性形が用いられることはあまりありません。
всі, хто це зна́ють 「そのことを知っている人々みな」
все, про що я вам сказа́в 「私があなた方に話したことの全て」
不定代名詞
次に、不定代名詞を見ていきましょう。不定代名詞とは、話者が知らない、事情があって言いたくないなどの理由で、不確定な事物を表す代名詞です。日本語で「誰かが」「どこかで」というのに相当します。
ウクライナ語では不定代名詞が非常に豊富で、それぞれの不定代名詞により不確定さの度合いが変わってきます。
不定代名詞は、疑問詞に助詞 -сь、-не́будь、де́-、аби́-、бу́дь-、ка́зна- などをつけることで作られます。前に付くのか後ろに付くのか、また疑問詞に直接くっつけるのかハイフンで繋げるのかは、それぞれまちまちです。例として хто から作る不定代名詞は、順に хтось, хто-не́будь, де́хто, аби́хто, бу́дь-хто, ка́зна-хто となります。
このほか де́що, десь, коли́сь, бу́дь-який, чийсь, де́котрий などとなります。
なお、もちろんですが、格変化する疑問詞(疑問代名詞)から作られた不定代名詞も当然格変化します。格変化形の前または後ろに助詞をくっつければOKです。
хтось – кого́сь, бу́дь-яки́й – бу́дь-яко́муなどなど。
注意するべきなのは、前置詞が付く場合です。助詞が疑問詞の後ろに付く場合はそのまま前置詞を前に置けば良いのですが、助詞が疑問詞の前に付く場合には、前置詞は助詞と疑問詞の間に挟まれます。
де́ з ким, будь до якого, аби́ з чим …
それでは、作り方と書き方の規則が分かったところで、意味を見ていきましょう。なお、ここで紹介した助詞は主なもののみで、他にも不定代名詞の助詞とされるものはあることを断っておきます。
де-
まず、де- がつく不定代名詞は、「何か」「誰か」「どこか」の意味ですが、ニュアンスとしては、日本語では「とある~、ある~」と訳せます。この場合、例えば де́хто と言う場合は、「誰か」ではあるのですが、話者にとっては具体的に誰なのかが明らかで、しかしそれを聞き手に教えたくないもしくは教える必要がない、という状況で使います。
Ми де́чого не сказа́ли. 「我々はあることをまだ言っていない(言っていないことがまだある)」
Я де́ з ким розмовля́ла. 「私は誰かさん(とある人)と話していた」
-сь
これに対し、-сь は不確定度が高くなります。例えば、хтось と言った場合、誰かが何かをする/したのは確かであるが、話者はそれが具体的に誰なのか知らない、もしくはまだ定まっていない、というニュアンスがあります。
Якийсь чолові́к, ро́ків 35-40, підхо́дить до нас. 「35-40歳くらいの何らかの男性がこちらへ近づいてくる」
Цей чолові́к чека́в кого́сь. 「その男は誰かを待っていた」
-небудь
-не́будь は更に不確定度が増します。хто-не́будь と言うときは、誰かが何かをする/したかが明らかではない、もしくはまだ決まっていない、と言うニュアンスになります。
Він стоя́в і дожида́вся, щоб ви́йшов з ха́ти хто-не́будь. 「彼は誰かが家から出てくるのを立って待ち受けていた」
Ма́ти ду́має, що його́ хто-не́будь з них оби́див. 「母は、彼らのうちの誰かが彼を怒らせたのかもしれないと考えている」
аби́- 、 бу́дь-
аби́- と бу́дь- はどちらも、日本語では「どんな~でも」に相当します。аби́хто と бу́дь-хто はどちらも、「誰でも」となります。英語の any… や …ever に相当します。
Аби́ з ким вони́ працюва́ли. 「彼らは誰とでも働いた」
Будь-яке́ мі́сце бу́де до́бре. 「どの席でも構いません」
ка́зна-
ка́зна- は、これらに比べると若干感情的なニュアンスが入ってきます。というのも、この ка́зна- というのは「悪魔が知っている」という意味で、つまり、「俺が/私が知ったことか」というニュアンスが加わります。「大した~ではない、くだらない~」という否定的な評価が入ってきます。
Ка́зна-що́ гово́рить. 「なんだかよう分からんことを言っている」
Тоді́ Людми́ла була́ в дра́нті й нагадува́ла ка́зна-кого́: робітни́цю чи рата́йку. 「そのときリュドミラはぼろを着ていて、人夫か百姓か何かを思い起こさせ(る装いだっ)た」
配分詞
配分詞というのは、英語の each や every などに相当する語句になります。それぞれ見ていきましょう。
典型的な形容詞変化ですので、変化表は割愛します。
ко́жен/ко́жний 「それぞれの、各~、毎~」
形容詞型の変化をします。男性形では、短形と長形の両方があります。
Ко́жен до́бре зна́є, як живу́ть в Украї́ні. 「皆が(一人一人が)ウクライナでの生活をよく知っている」
жо́ден/жо́дний 「まったく~ない、いかなる~も~ない」
こちらもко́жен/ко́жнийと同様、短形が用いられることもあります。жо́ден/жо́дний は意味・用法上、否定代名詞でもあります。完全否定の意味で、英語の no- に相当しますが、ウクライナ語では、英語と異なり、このような否定の意味を表す語句が現れても必ず否定の助詞 не が使われます。
Не зна́ю жо́дного з них. 「私は彼らのうち誰も知らない」
вся́кий 「全ての、あらゆる」
これも形容詞型です。весь と似た意味で語根も同じなことがお分かりだと思いますが、こちらは「あらゆる、なんでも」というニュアンスが出てきます。
На база́рі продаю́ться вся́кі о́вочі. 「市場ではあらゆる果物が売られている」
і́нший 「ほかの、別の、異なる」
形容詞型です。それほど注意すべき点はありません。
Хтось і́нший бу́де там. 「誰か別の人がそこにいるだろう」
сам/сами́й 「同じ、まさにその、それ自体、自身、独りで」
表す対象そのものを強調する語です。形容詞変化です。英語の -self に相当します。これまでも себе́ やсвій などで出てきたように、ウクライナ語は「自身」というものをはっきり表す言語だとよく理解いただけていると思います。しかし、сам/сами́й はどちらかというと強調の意味で用いられることが多いです。
Я заста́ла його́ само́го. 「私は彼その人を捕まえた」
Він сам на бі́лому сві́ті. 「彼は世界にひとりぼっちだ」
Я зросла́ у самі́й кварти́рі. 「私はまさにその(同じ)アパートで育った」
否定代名詞
否定代名詞は、疑問詞の前に ні- をくっつけることで作られます。ніхто́, ніщо́, ніде́, ніку́ди, ніко́ли, нія́к, нія́кий などがあります。いずれも英語の no- に相当します。
不定代名詞と同様に、前置詞が付くと ні у ко́го, ні з ки́м のように、前置詞が間に挟まれます。
ніхто́ 及び ніщо́ では、格変化形では必ず ні- の次の音節にアクセントが置かれますので注意してください:ніко́го, ніко́му, ніки́м, нічо́го, нічо́му, нічи́м
配分詞 жо́ден/жо́дний のところでも触れましたが、ウクライナ語では、否定代名詞など否定の意味を表す語が現れる文では、必ず動詞の前に否定の助詞 неが置かれます。
それでは例文をざっと見ていきましょう。それほど難しいことはありません。
Я ніко́му не да́м ві́дповіді. 「私は誰にも返事をしない」
Ні про що́ ми не розмовля́ли. 「私たちは何のことも話していない」
Тако́ї ре́чи ніде́ нема́. 「そんなものはどこにも無い」
Він на цих вихідни́х ніку́ди не з’ї́здив. 「彼はこの休日中どこにも行かなかった」
Ніко́ли не здава́йся! 「決してあきらめるな!」
※ніко́лиは、「一度も~したことない」という意味もありますが、「決して~ない」という意味でよく用いられます。
Нія́к не мо́жу пригада́ти пі́сні. 「どうしても歌が思い出せない」
Нема́ нія́кого су́мніву. 「いかなる疑いも無い」
なお、これらの否定代名詞を、形をそのまま ні- にアクセントを置くと、「~すべきもの/人は何も無い」という意味に変化します。この場合は肯定文でも用いられます。ちょっと説明だけでは分かりづらいと思うので、例を挙げておきましょう。
Ні́кому да́ти цей підру́чник. 「この教科書をあげる人がいない」
Ні́ з ким працюва́ти. 「一緒に働く人がいない」
Ні́ за що купи́ти хлі́ба. 「パンを買うお金が無い」
Ні́чого роби́ти. 「なにもすることがない」
これで代名詞に関する説明はおしまいです。お疲れ様でした!
次回は、たのしいたのしい(反語法)数詞に入っていきます。