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【コラム#3】石丸伸二氏の選挙戦略から石丸氏を掘り下げる

はじめに

今回はタイトルの通り、東京都知事選挙における石丸伸二氏の選挙戦略から石丸氏の主張・都政に対する考えについて深堀りしていきたい。

石丸伸二氏の経歴について

小・中学校時代

大人と接する機会の多い子どもで、少し大人びた少年だったと思います。裕福でない家庭だったこともあり、いち早く社会への理解も深まっていったと思います。父からは、幼少期に市長になると言っていたと聞かされています。中学時代に、父から高校進学を自分で選択するように求められ、親に高校進学をお願いしました。これによって勉学せざるを得ない状況になってしまいました。

【出典】石丸伸二 公式ホームページ

高校時代

大学入試に有利な環境でかつ、経済的な負担も少ない進学先を探して、広島市内の公立祇園北高校を選びました。父がバス会社の社員だったため、通学費用がゼロであったことも大きかったです。3年生の時に、芸能人の綾瀬はるかさんが1年生として入学(後に転校)してきて、校庭で走っている姿を見たことがあるというのが、ささやかな自慢です(笑)。

【出典】石丸伸二 公式ホームページ

大学時代

京都大学を選んだのは、日本史にたびたび登場する由緒ある建物などが多く、京都の街並みにも憧れがあったからです。元々は医者を目指していましたが、経済的理由で断念し、手っ取り早く、手堅く稼げる金融機関を目指すため、経済学部を選びました。
専攻は「計量経済」(経済データ分析に統計的な方法を応用する学問)で、それ以外も金融機関に関係する知識に絞って学んでいました。財政・地方行政に関してもこの時代に学びました。
また、大道芸サークルに所属し、ジャグリングは特技です。この時の経験が、舞台慣れや批判慣れの土台になっていると思います。アルバイトは現実的な選択で、時給のいいホテルのウェイターを選び、結婚式で料理をサーブしていました。

【出典】石丸伸二 公式ホームページ

三菱UFJ時代

入行時は姫路支店に配属し、営業に精を出していました。2014年に上司から推薦され、子会社「MUFGユニオンバンク」へ。ニューヨークに初代駐在員として赴任しました。為替アナリストとして、アメリカ大陸の主要9か国25都市に年間約100日近い出張をこなし、各国の経済の分析・予測を行ないました。この時、日本・広島・安芸高田という「故郷」の良さに気づき、いずれは戻りたいという気持ちが湧いてきました。

【出典】石丸伸二 公式ホームページ

アナリストとは?

石丸氏のキャリアであるアナリストという職業について言及しておきたい。ここでは「証券アナリスト」を一例とする。

証券アナリストとは、「企業価値を分析する人」である。
株式を例にすると、「会社の実力を見極め、今の株価(株式の価値)がその会社の実力を本当に表しているのかを分析する」ことが主な業務となる。
会社が事業を推進・拡大していくには資金が必要で、その調達手段の一つとして「株式」によるものがある。上場企業の場合は取引所で日々売買されており、株価は刻々と変動する。アナリストは、日々変動する株価を対象企業の売上や利益、景気、国の政策、国際情勢、経営方針など様々な観点から企業の実態と比較・分析しアナリストレポートを作成する。このようなレポートが機関及び個人投資家の判断材料の一つとなり、投資の意思決定に影響していく。
すなわち、「企業業績が変化する兆しを捉える分析力」や「企業価値を中長期視点で捉える能力」、「高い倫理観」が求められるのである。

石丸氏は債券や為替のアナリストとして従事していたが、上述した企業という対象を「債券*1」や「為替*2」という金融商品に置き換えてもらって考えて欲しい。
*1「債券」:国や企業などの発行体が、投資家から資金を借り入れるために発行する有価証券。債券には満期が定められ、満期となる償還日には額面金額が投資家に払い戻される。投資家は発行体に対してお金を貸す代わりに利子をもらうというイメージである。
*2「為替」:異なる通貨間での交換取引を指し、国際貿易や投資、旅行などで必要となる基本的な金融活動の一つ。昨今話題の円安に係る「ドル円」や「ポンド円」等様々な為替取引がある。
【参考資料】証券アナリストって何?

過去に石丸氏が作成に関わったアナリストレポート等の参考資料のリンクを以下に掲載する。
2010年4月16日 経済マンスリー[日本]
2018年3月 為替相場の展望
2020年5月28日 FX Daily

安芸高田市 市長時代

三菱UFJ銀行時代に培った実務能力と経済感覚で財政再建に取り組み、5年連続赤字だった市の財政を、効率化によって黒字化させることができました。ただ削っただけではなく、小中学校の給食無償化や、高校の生徒会長への100万円投資など、未来への投資にも繋げられることができ、文句のつけようのない実績だと自負しています。自画自賛になってしまいました、すみません。
また、いち早く配信で開かれた議会を進めました。その上で、感情論を排したロジカルな議論を徹底し、計算しつくした力強いパフォーマンスで、忖度や根回しのない形で議会と相対したことが、世間の関心を呼び、「劇場型」と揶揄されながらも続けたことで、市政への関心を集めることに成功しました。その結果、市民の意識は大きく変わり、公約で掲げた政治再建を達成することに繋がりました。市の公式YouTubeが自治体日本一と登録者数になったのもその証だと思います。
そして、その影響力を活かし、市内で生み出せない産業は外から力を借りる方針で進めた結果、東京ニュービジネス協議会(NBC)との包括連携協定に結び付きました。これで、産業創出にも一定の道筋をつけることができました。選挙で掲げた公約をこの4年弱でほぼ達成し、一期4年でできることはやりきったと思っています。
YouTubeなどでは厳しい姿勢の場面をよく使われるので、怖いイメージをもたれているかもしれませんが、職員との関係は常に良好でした。この4年間で米村副市長をはじめ、かなりの職員が大きく成長できたのではないかと思っています。2024年6月6日に行われた盛大な「退任式」では、必死についてきた職員たちへの感謝が溢れ、思わず涙がでてしまいました。そして、日曜夜に実施していた「Meet-upオンライン」では、視聴者と存分に楽しませていただいたので、普通の41歳の素を見せられたのではないかと思っています。

【出典】石丸伸二 公式ホームページ

安芸高田市長選挙について

時間は2020年7月3日まで遡る。第3代広島県安芸高田市長の児玉浩が前年の参院選広島県選挙区をめぐり衆議院議員の河井克行から現金計60万円を受け取ったことの責任をとり市長を辞職した。
7月5日には副市長の竹本峰昭が児玉の辞職に伴う市長選挙に立候補する意向を固めたことを地元新聞社が報道する。
これらを受けて「他に立候補を表明している者はいない」と伝えるニュースを知った石丸氏は7月7日、立候補を決断。東京で仕事をしていた石丸は「無投票で市長に選出されそうだな。」と思うも、その直後に「無投票にさせないためには自分が出ればいいと思って飛んで帰った」という。
翌7月8日に退職願を出し、7月22日正式に出馬表明した。
同年8月9日に行われた市長選挙で竹本との一騎打ちを制し8,076票(得票率60.18%)を得て、対抗馬の前副市長に2,732票差で初当選した。
同年8月9日、第4代安芸高田市長に就任。

安芸高田市長時代の実績

①財政健全化への取り組み:厳しい状況からの改善
石丸氏は就任後、安芸高田市の厳しい財政状況の改善に取り組んだ。2019年度には実質単年度収支が4年連続の赤字となり、経常収支比率も98.2%に達するなど、市の財務状況は悪化傾向にあった。石丸氏は「このままでは市の財政が破綻する可能性がある」という危機感を持って行政改革に臨んだと言われている。その結果、2021年度以降、実質単年度収支の一時的な黒字化や経常収支比率の改善が見られた。

②SNS戦略で市の認知度向上:47万人超のフォロワーを獲得
石丸氏は、SNSを使って安芸高田市の知名度アップに取り組んでいる。
安芸高田市はこの10年で、人口が5,000人減るという深刻な人口減少に悩まされていた。石丸氏は、SNSを使って安芸高田市の知名度をアップすることを試みた。「政治の見える化」としてXに議会の様子を投稿し、注目を集めた。地元のメディアに対して、時に厳しい発言をすることも。ときには議員に対して強い表現を用いることもあり、世間の注目を集めている。
2024年6月末現在、Xのフォロワーは47.3万人と増加。またYouTubeライブで視聴者と触れ合ったり、自身のことを書いた書籍も出版している。YouTubeライブでもらったスーパーチャットや書籍の売り上げは、すべて安芸高田市に寄贈しているとのこと。

③ふるさと納税の成長:月間1億円の寄付金を達成
安芸高田市は、2023年度の9月のふるさと納税の寄付額が1億1,345万3,286円となった。地方都市がひと月で1億円超の寄付額を集めるのは、注目に値する成果と言える。これも石丸氏の政策の一つの結果と考えられる。

④子育て世帯への実質的支援:小中学校給食費の完全無償化を実現
石丸氏は子育て世帯支援の一環として、小中学校の給食費無償化を実施。給食費を無償化するために、一般支出財源の組み替えを行っている。この政策は必要な分野への投資を重視する石丸氏の方針を反映したものと言える。

⑤若者の自主性育成:高校生徒会への財源を提供
石丸氏は、安芸高田市の吉田高校・向原高校の生徒会にそれぞれ100万円の財源を提供した。これは「生徒会長が公約を考え、それを生徒が選ぶことを高校生のうちから経験してほしい」という石丸氏の狙いが込められている。若いうちから考え選ぶ力を養うことが、正しい政治を選ぶ第一歩だと石丸氏は考えているのだ。

今回の都知事選ではインターネットが本格的に普及し、オンラインとオフラインを組み合わせた選挙スタイルの地盤が整った時代背景にもあるように、安芸高田市長選の時も一つの変化の兆しがあったのである。まさに運も実力の内、といったところだろうか。

石丸伸二氏の出馬への想い

石丸氏の都知事選への出馬、そしてその想いというのは現在ビジネスに従事する多くの国民が感じている課題意識と似たような認識が根源にあるように思う。それは人口減少や高齢化、国際競争力の低下等、時間経過とともに徐々に日本経済が沈んでいくような感覚があるのは事実だ。
以下に石丸氏の出馬表明会見で言及していたいくつかのテーマを取り上げ、触れていきたい。

1.地方の衰退を止める

人口動態に着目する。現在、総人口は1億2,800万人で、ピークを打ち1億2,600万人まで2020年時点から減少してきている。(国勢調査)
さらにそこから20年後の2040年には約1,300万人減少する。

この大規模な人口減少による影響は、地方自治体にとって深刻なダメージをもたらすだろう。東京都の現在の人口に近い減少なのだ。
これまで維持していたインフラ機能や経済力が著しく低下するのは想像に難くない。
そうした国難に向け、46道府県とのコミュニケーションを取る中で、「多極分散」を実現していくことで、来る20年後に向けた受け身を取れる体制を整えるというのが石丸氏の主張である。この取り組みを主導できる自治体は東京都以外ないだろう。政令指定都市である大阪や京都、札幌、福岡、仙台などの個別の自治体が独自で動いていては対応しきれないと考える。
決して国政レベルの話ではなく、自治体運営において誰が旗振りをして具体的な対策を実行していくのかという都政レベルで動いていくべき話に他ならない。

2.東京都を世界で一番住みやすいまちにする

これは都市開発を進めていくことや、世界のトレンドを牽引するようなトレンドを創り出すこととは別で、東京の過密を解消することによるものだ。
人生というのは様々なイベントがある。学業や就職、転職、結婚など節目節目で東京へ移住される人もいるだろう。学ぶなら東京、働くなら東京、住むなら東京という選択が主流だと思うが、それを東京だけでなく地方という選択肢も選べるような繋がりを地方自治体と連携して作っていく。そんなことを石丸氏はイメージしているのではないだろうか。

かく言う私も福島出身だが、経済的な理由で東京を選択した。地元には沢山の魅力があるものの、仕事の関係では東京を選ばざるを得ない。いつかは地元に戻りたいと考えているし、そういった選択ができる環境がより整っていくと、この上ない幸せだ。

3.東京の発展、地方の発展、日本の発展

日本の崩壊は地方から始まる。
地方の経済が回らなくなる→地方の社会が崩れていく→首都東京へネガティブインパクトが波及する
東京都民には直接見えない形で徐々に沈んでいくのである。
このように、東京都政に重きを置きつつ地方のリスクを低減していくために地方との連携を深めていくことは必要不可欠だろう。

以上のように、これから直面する人口減少を考慮しつつ、東京都として様々な課題と向き合いアップデートしていく。水面下で46道府県との連携を深め日本全体の目線でダメージをコントロールしていく目線は非常に重要である。

石丸伸二氏の選挙活動

1.石丸氏の公約

石丸氏の公約では、「政治再建」「都市開発」「産業創出」の3つの柱を軸に9つの政策を提示している。

  • 政治再建:石丸氏は政治の再建を最重要視している。民意の集約とそれに基づく政策実行を目指す。

  • 都市開発:災害リスクの低減と都市の再調整である。エコノミーとエコロジーの2つのエコの両立を図る。

  • 産業創出:教育の進化と外需の取り込み。コンテンツ産業の育成と地方との協調を重視する。

続いて、9つの政策について見ていく。

  • 政治再建-①都政の見える化・分かる化の推進

    • SNS・YouTubeを活用し、都民の皆さんの関心を都政に向ける。ガイドラインを遵守し、情報公開を徹底する。安芸高田市のYouTubeチャンネルもそうだが、不特定多数の国民が「政治」へアクセスすることが増えることで第三者による監視機能が成立し、緊張感のある議会運営にも繋がっていくことが想定される。

  • 政治再建-②ICT*3を活用した民意の集約

    • アナログ・デジタル情報を効率的に収集し、住民のニーズを分析する。また、行政サービスの最適化を進めていく。

    • 現在も「TOKYO決算見える化ボード」というMicrosoft Power BIツールを活用した財政の見える化を行っている。このようなデジタルツールを活用しつつ東京都政の情報を透明化する。それだけでなく都民の声を効率的に収集しカテゴライズすることで可視化する取り組みは効果的だろう。この仕組みは有権者が何となく感じている「私たちの声は本当に政治に反映されているのだろうか…」という不安を取り除くことに寄与するだろう。【参考】7.8兆円の予算状況を可視化──東京都がダッシュボード公開 “伝わらない広報”からの脱却、全国に広がるか

    • *3「ICT」:コンピュータなどのデジタル機器、その上で動作するソフトウェア、情報をデジタル化して送受信する通信ネットワーク、およびこれらを組み合わせた情報システムやインターネット上の情報サービスなどを総称する。ICTには “Communication” が含まれることから、デジタル通信を前提とする諸技術(インターネットなど)という意味合いをもたせる場合もある。また、ITをコンピュータやデジタル通信などの原理的な側面など技術そのもの、ICTを社会や生活への情報技術の適用や応用、といったニュアンスで区別する場合もある。

  • 政治再建-③政策の合理化・適正化

    • 利権政治から脱却し、バラマキ事業を廃止する。経済合理性に基づいた政策で全体最適を図る。

    • 昨今話題になっているプロジェクションマッピングへ2年間で48億円もの支出は問題視されている。経済合理性の観点から見た場合、プロジェクションマッピングというのは稼働している時は観光地的な役割として一定の経済効果はあるだろう。しかし一度停止してしまうと何も残らない。48億円を投資ではなく、消費として使ってしまった形になる。ゆえに、支出の対象についてオブジェとして形で残ったり、コミュニティ等の形で消費者が継続してお金を落としていくような循環が発生するか・中長期的に経済効果を発揮し続けられるかの目線が必要である。

    • こうした民間企業と連携した際に、個別企業との癒着とも取れる事業、詳細を包みなく公開できないような事業は存在すべきではないと考える。これこそ利権的な政治であり、バラマキ事業に該当してしまうのかもしれない。したがって利権政治の脱却とバラマキ事業の廃止というのは表裏一体の課題であると言える。

  • 都市開発-④災害リスクへの対応強化

    • 自助・共助・公助の役割分担を明確化し、災害への備えを整える。復旧・復興に対する財政的な準備(リスク・ファイナンス)*4を強化する。

    • 東京都によらず、各地方自治体において災害対策のマニュアルや事前の対策などは議論されており、予算も配備されている。基本的なセオリーとして災害リスク対応は継続すべきである。

    • *4「リスクファイナンス」:自然災害が起こった際に迅速でかつ効果的に復旧・復興するために事前に財政負担を明確にした上で財政面での備えを強化する仕組みのこと。【参考資料】リスクファイナンスとリスク管理

  • 都市開発-⑤経済と環境、二つのエコの両立

    • 経済(エコノミー)を軸に、環境(エコロジー)を整備する。人と自然の調和を図り、物質的・精神的な豊かさを追求する。

    • 昨今では持続可能性の議論がされており、ESG投資等の文脈におけるカーボンニュートラルの取り組みや、グリーンボンド債での資金調達事例も増えている。環境に配慮した経済活動への注目が高まっているのだ。一方で、環境保全に偏った取り組みではこれまでの生活の質を敢えて落とす選択をせざるを得なかったりする等、非合理になってしまうだろう。すなわち、経済を軸として環境も意識する両立した取り組みが現実的と言えよう。

    • その他にも「コンパクトシティ*5」や「スマートシティ*6」の議論もされており、都市部の一部諸地域の都市開発だけではなく、都市機能を分散させることでの人口が過密する状況を緩和する取り組みについても議論されている。コンパクトシティにより物理的に人口を分散させ、スマートシティの実現でリアルタイムで過密状況を管理していくことができれば一極集中の緩和となり、先進国の中でも新たな都市開発モデルとしてリードしていくことができるのではないだろうか。

    • *5「コンパクトシティ」:人口減少や高齢化による人口問題を解決するため、日本各地の自治体で取り入れられている都市構造。特徴として「住宅や生活するために必要な施設が高密度で近接した開発形態」「公共交通機関でつながった市街地」「行政のサービスが充実している」「職場まで移動がしやすい」がある。【参考資料】コンパクトシティとは?日本の成功例・失敗事例とメリット・デメリットを解説

    • *6「スマートシティ」:最先端テクノロジーの活用によって人々の生活品質向上と持続的な経済的発展を可能にする先進的な都市を指す。AI技術やIoTのセンシング技術、ビッグデータ解析などを用いて社会インフラや公共サービスの最適化を図り、現状の都市が抱えるさまざまな問題を解決するとともに、安全性と利便性に優れる都市を開発することがスマートシティの目的である。【参考資料】スマートシティとは? 現状・事例や課題を解説

  • 都市開発-⑥多摩格差の是正

    • 基礎的な行政サービスの充足を促し、各自治体の特色を強化するために、ハード・ソフトへ投資する。

    • 多摩地区について簡単に整理しておきたい。多摩地区は高度経済成長期に爆発的に人口が増え、各種インフラ整備が追いつかず23区との差が広がった。1975年には都が「三多摩格差8課題」として①義務教育施設②公共下水道③保健所④病院及び診療所⑤道路⑥図書館・市民集会施設⑦国民健康保険料⑧保育料が設定されたこともある。格差とは何かという定義は曖昧だが、過去に取り上げた課題は本質的に解消されているとは言えず、現在も東京23区との生活インフラを初めとするギャップは非常に大きな課題と言えよう。

  • 産業創出-⑦教育の深化・進化

    • 教職員の働き方改革が進むよう学校環境を改善し、民間のサービスを導入して学校教育を充実させる。石丸氏の安芸高田市長時代の取り組みの一つに、給食支援員の配置による教員の負担軽減があげられる。教育というコンテンツそのものの近代化を図る面と、教育インフラを提供する教員の労働環境を改善していく働き方改革の面の両面をアップデートすることは非常に重要だ。

  • 産業創出-⑧外需の取り組み

    • インバウンドを円滑に取り込み、経済波及効果を高める。世界に通じるコンテンツ産業を育成する。

    • インバウンドについては特に京都でオーバーツーリズム*7が問題の一つである。東京都についても同様で、中心街を歩いていても非常に多くの観光客がいることが分かる。どのお店を訪れても行列を成している光景も日常茶飯事だ。東京の中心街ではそういった賑わいをみせているものの、やはりインバウンド観光客をカバーしきれているとは言えない面もありそういった意味で外需をどう受け入れるか、ということが今後の成長を左右するだろう。宿泊施設はもちろんのこと、町の景観や観光客が充実した時間を過ごせるよう改善を図っていくべきである。

    • *7「オーバーツーリズム」:とある地域を訪れる人が急増したことにより様々な問題が発生し、その地に暮らす人々や自然環境、生態系、景観などに悪影響を及ぼしている状況のこと。この言葉は、2016年にアメリカの旅行業界向けメディア「Skift(スキフト)」によって生み出された。

  • 産業創出-⑨46道府県との協調・協働の推進

    • ライフサイクルに合わせた回遊型社会を構築し、相互作用的な地方との文化交流の機会を提供する。

    • 人口の一極集中に対し、「人を動かす」という物理的な操作は不可能である。そのため、石丸氏は「人が動ける状態を作る(東京を選択しても良いし、他の地域も選択肢に含められる状態)」ことを提示している。

    • 住環境や生活環境というのは東京一択というわけでは本来ない。それぞれの地域に特色があり、個性がある。私達一人ひとりにも個性があり、生き方も人それぞれである。そういった個性や特徴を尊重し、東京以外での生活という選択が増えていくと自ずと東京への一極集中は解決に向かっていくのではないか。

2.石丸氏の該当演説

ここでは6/30(日)に東京都中央区 銀座四丁目交差点で行われた文字起こしを元に、石丸氏の街頭演説の特徴を見ていく。

石丸伸二 街頭演説文字起こし(銀座四丁目交差点)

皆さん、こんにちは。東京都知事候補の石丸伸二です。
すごい。ここにですね、何かモーゼが海を渡った後のような銀ブラがここだけまだ残されてですね。これだけ人がこの銀座の一角に凝縮される、ブラブラしてない状態。
滅多に見れるもんじゃないんなと、エラい感動してます。
今日集まってくださった皆さん、ちょっと聞いてみるんですが、石丸伸二を生で初めて見るという方?
おお、やっぱりほとんどですね。ありがとうございます。
多くの方は先ほどあったとおりYouTubeで見つけてくださった方々。おそらく、もうすでにいろんな街頭演説の動画、それもご覧頂いたんじゃないかなとは思います。
もう1週間以上、この街頭演説をしています。特に昨日は18カ所、朝の8時から夜の8時まで12時間演説しまくってきた。
でも回を重ねるごとにたくさんの人が集まって、より大きな盛り上がりになってきてるんですね。もうここに集まってる皆さん、運命共同体だと思ってます。
そして何より、一つね。改めて皆さんにご紹介させてください。
いまこの群衆が紫のビニールテープで緩く縛られてます。
それを支えてくださっているのがボランティアスタッフのメンバーです。
彼らは本当に有志で、何かの団体に入って動員されたり駆り出されたんじゃなくて、石丸伸二のこの選挙を手伝ってやろうと、ただただその心意気で今日ここに集まってくださってます。手伝ってくださってます。
そんなボランティアの皆さんにまず感謝の拍手をぜひ届けてあげてください。本当にいつもありがとうございます。
せっかくこれだけ初めて見るというかたばっかりなんで、少し自己紹介をさせてください。
1982年生まれ、今41歳です。前の前の仕事が三菱UFJ銀行で経済を分析するアナリストをしていました。途中、四年半ほどアメリカのニューヨークに駐在してアメリカ大陸の担当をしています。一人で。
北はカナダから南はチリまで、全部で九カ国をぐるぐるぐるぐる巡りながら、それぞれの経済であったり、政治を分析してきました。
今日は朝からチリを取り上げてみます。チリに行ったことある方っていらっしゃる?あー、ちょっと。ありがとうございます。これだけ人がいてもまあ10人ぐらいかな?
そんなチリ。せっかくなんで皆さんに、明日使える訳もない知識を提供します。
チリといえば、何か思いつきますか?地球の裏側、太平洋を挟んで向かい合わせなんで、地震があると時々ニュースに出るんですね。お互い津波の影響もあるので。でもそれぐらい。
皆さんがよく知ってるのは、おそらくワインじゃないかなと思います。
チリワイン、コンビニにたくさん並んでますよね最近。
あれが一気に盛り上がったのが2017年だったと思います。それまで輸入量1位だったフランスワインを抜いてチリワインが1位になったんですね。
それ以来ずっと、まあ途中に抜き返されたかな?でもやはりチリワイン。今かなりの勢力を日本で持っています。
そんなチリなんですけど、南米の中では比較的安定して経済が発展しています。
なんでかっていうと政治の力が大きいんですね。
チリの歴史なんてまず聞くことないんですけど、1973年にクーデターが起きて軍事政権が誕生してます。で、その後20年ぐらい経って今度は民政移管、民主主義になったんですね。で、その流れの中でチリという経済は安定して発展、成長を遂げてきました。
ちなみになんですが、そのベースにある経済政策、実はこれは軍事政権の時からです。そしてその軍事政権が誕生するのに介入したのはアメリカなんです。これググったらすぐ出てきますよ。CIAが本当に介入してるんです。
そんな映画みたいな話が私が生まれる前にあった。でもその流れの中でチリという国は発展をしてきています。そんな経済と政治のつながり、そしてその重要さを現地に行って知ってきた。
その後、日本に帰って今度は地元広島県の安芸高田市に戻ります。市長を4年勤めています。
まとめると、「経済を知り、そして行政を知る。」
これが自分のキャリア、これが自分の強みだと考えています。
ところで、これまでの東京都知事に経済人はいません。文化人や学者、官僚の方ばかりなんですね。
経済にあまり詳しくない人が舵取りをしても、この豊かさ。まあまあ。
じゃあ経済に詳しい人間が舵をとればどうなるか?
まだまだ伸びるし、もっともっと豊かにできると信じます。
私、石丸伸二は経済人として、経済を知る経済の専門家として初めての東京都知事となり、ここ東京を経済都市として発展させていきます。
どうぞご期待ください。
政策について行きます。3つの柱。
政治再建、都市開発、産業創出。この三本柱で説明をしています。
それぞれに3つのポイントがある。全部で9つですね。
この9つ、解説を始めると1時間ちょっとかかりました。
もう夕方、皆さんもまだまだご予定があると思うので、ここではさわりだけに留めます。
これから先、日本という国は大変な時代を迎えます。
かつて経済大国だった日本。しかし、ここから先、経財小国に向かいます。人口が減るから。
放っておくと、この豊かな街並み、皆さんの豊かな暮らし、維持できません。だから急いで経済の力を高め、蓄えていく必要がある。
そのために必要な成長戦略、これまでもたくさん出てきました。
しかし私、石丸伸二が考える成長戦略、それはまずはとにもかくにも教育。教育分野への投資です。
教育というと子育て支援、家計へのサポート、これを思い浮かべる方も多いかと感じます。
もちろんそれは大事です。要るんです。しかし、それだけでは充分ではありません。なぜならば、教育を受ける側、ということは与える側があるんですね。
例えば学校。
ここのレベルが上がらないと結局子供たちは良い教育が受け取れない。
だから、だからこそ、こちら側供給サイド、学校現場、学校環境の改善に財源を向けていくべきだと考えています。
具体的には、全ての小中学校に給食支援員を配置する、学校用務員を配置する。これ安芸高田市でやってきました。これを東京都でやろうとすると、ざっくりの計算で100億年間かかる。そんな話をしてきました。
これらは解説の動画で、またはこれまでの街頭演説で話してるので、ぜひYouTubeでご確認ください。続きはウェブで。
今日ここに集まってくださった皆さんは、もはや仲間です。
この紫のテープに緩く囲まれた、志を同じくする同志ですね。
同志に対してお願いっていうのは最早無いです。ただ呼びかけです。
今回の選挙、とにかく楽しみ切りましょう。楽しむためには、それをやり切るためには、まだ人が足りないと思います。
そこで皆さんに呼びかけます。
皆さんのスマホ、この中に入ってるLINE、お友達。
上から順番に、好きな石丸伸二の動画を送りつけてください。
上の方はね、普段連絡取る人ですよね。家族とか友達とか。急にどうしたんだ?とビックリするかもしれない。
でもいいじゃないですか?今日わざわざ銀座にきてね、何をしているのかと思いきや「石丸伸二みたよ!石丸伸二みたからこれも見て!」
お勧めしてあげてください。
で、その下の方には会社の人とか入ってると思います。もしかしたら会社の上司ね。いいんです、迷わず送ってください。
じゃああの、例文伝えます。
「まずお休みのところ失礼します。」会社なんで。
「至急ご報告したい案件があり、メッセージしています。」でいいですね。で、どうしようかな?じゃあ『恥を知れ!』のリンクを貼ると。
「この動画を見て、私は明日からの会社での働き方に対して心を入れ替えました。この役目に恥じぬよう一生懸命働きます。それをどうしても誰かに伝えたくて、ついつい上司に報告しました。」
これで大丈夫です。きっと上司も褒めてくれます。
ただ、ちょっと心配なのが更に上手な上司がいた場合です。
メッセージが返ってきて「リンク見ました。その動画すでに見てます。情報収集が遅いです。」ダメ出しを受ける。
そんなやり取りもいいじゃないですか。
もうちょっと下に行くといつかどこかで会った人たち。
誰だっけ?いいんです気にせず送ってみれば。
「久しぶりです。ところでこの動画。」
そうすると「あ、こんな動画あったんだ面白いですね。」バーッてなるかもしれないし、「いやこの動画はないでしょう。石丸信者はどうかと思う。」そんな反応も出るかもしれない。
でもいいんです。賛否があって、好きも嫌いも酸いも甘いも全部乗せて行きましょう。
なんたって選挙なんですから。全部まとめて、みんな巻き込んで、楽しんでいくんです。
今この瞬間も日本中がこの選挙に注目してくれています。
全国民が東京都民に期待をしてます。「政治を変えてくれ。」
期待されるってワクワクしませんか?
誰かから頼むぞって言われてるんです。願われてるんです。
その期待に応えられるのは、ここに居る大人の皆さんだけなんです。
子供達に選挙権はまだないんです、大人だけの特権です。
改めて言いましょう。全国民が、子供達が、皆さんに期待しています。
東京の未来、日本の未来は皆さんに掛かっているんです、皆さん次第なんです。
改めてお伝えします。東京都民、皆さんの責任は重大です。
東京の未来、そして、日本の未来のために皆さんが東京を動かして、そして日本を動かしてみてください。
期待に応えるこのカッコいい姿を次の世代に示してあげましょう。
皆さんの本気に期待します。

石丸伸二は演説では政策の話はしない。自分を売る

「石丸伸二の演説には中身がない」、そう語る著名人も多い。残念だが彼の演説の狙いを分かっていない。
彼は200箇所以上で街頭演説を実施しているが、これまでの政治家のように政策について深く語るようなことはしない。政策について街頭演説で語ったところで内容を覚えている人はごく少数だろう。政治や選挙に馴染みのない聴衆であればなおさらその傾向は強くなる。
そして現代はオールドメディアである新聞やテレビを見る人など限られている。ほとんどがスマホやタブレットを所有し、CMや投函のタイミングに左右されないような、自分の好きな時間に好きなコンテンツを消費する層である。

石丸氏は街頭演説では「自分を売る」。
自分を知ってもらって、興味を持ってもらえたらSNSプラットフォームを活用し拡散してもらう、YouTubeで政策について理解してもらう。
「街頭演説の現場には大勢の聴衆がいて、石丸伸二が自身のこれまでのエピソードや現場の一体感を高めるような分かりやすいメッセージを発する…」このように、感情に訴え、記憶に残るような演説で石丸氏に興味を持つ・好感を持つ方々に石丸伸二というキャラクターを売り込んでいくのである。

これには、これまでの政治家が公約を語ってきたものの実現がされない事実がある。そのような現実から有権者の中でも公約や政策を考慮して投票をする人は多くない。ゆえに、まずは候補者である自分を知ってもらい、自分を売るのである。

これからの有権者はオールドメディアは見ない。スマホからの情報収集が当たり前になる

テレビや新聞などのオールドメディアの市場規模が縮小し、多くの人々がスマホやタブレットでの情報収集、コンテンツの消費というのは随分と前から語られていたテーマである。

2023年時点での各端末の利用率を見ても、スマホ利用率の上昇傾向は顕著であり、今後数年でテレビ利用率は抜かれるだろう。(図1)
また、中長期での見方となるが、現在の15~29歳のユーザーはスマホをテレビやPCの倍以上の時間を利用する。(図2)
SNSについても、性別や世代別に利用率違いがあるため、ひとえに「SNS選挙に注力する」と言っても狙う有権者層によって注力するアプリケーションも工夫する必要があるだろう。(図3・4)

(図1)テレビの利用率は今後数年でスマホ利用率に抜かされるだろう
(図2)今後有権者の中核を担う層はスマホを最も利用する
(図3)アプリケーションによる世代別の利用率は様々
(図4)Xは日中、TikTokは夜間にピーク帯を迎える傾向がある
(図5)人口が減少していくと共に高齢者層が多くを占める厳しい状態に向かう

3.OMO(Online Merge with Offline)戦術

石丸氏の選挙活動について分析する際には、OMO(Online Merge with Offline)というマーケティング手法を元に考えると理解しやすい。
「OMO」とは「オンラインとオフラインを融合して、より良い顧客体験を目指すマーケティング戦略」、もしくは「顧客がオンライン・オフラインを意識することなく一貫したサービス・体験を得られる状態」を指す言葉としてマーケティング業界で使われる。
ここでは「オンラインとオフラインの統合・融合」という文脈で見ていきたい。

(図6)オンラインでのSNSや政策の周知、オフラインでの演説が相互に作用している

図6を見て分かる通り、インターネットが浸透した現代ではオンラインとオフラインを個別に進めるのではなく、それぞれ相互に作用し合えるよう有権者への訴求戦略を設計していくことが鍵である。
石丸氏の場合、「①演説での話題性→②撮影→③動画の切り抜き→④拡散→⑤認知拡大→⑥公式HPなどへの流入や街頭演説への参加→①へ」といった具合に循環の仕組みが出来上がっている。この循環の中には動画投稿を通じた収益獲得を目指す事業体も介在するが、過度な聴衆の妨害にならない限りは存在すべき必要悪だと考える。

これからの政治活動は上記のようなオンラインを組み合わせた循環する仕組みの構築ができるかどうかが成果に影響すると考える。石丸氏が実践していた入口を広く設け、SNSプラットフォームを通じたフォロワーの教育を通し、投票してもらえるような状態をつくる出口戦略という繋がりを意識するべきだ。
よくあるメディアや各政党が都知事選後に語っている「ネットを活用する」または「SNSでアカウントを作成しコンテンツを発信していく」という発信の箱を作るだけでは無意味なのだ。浅すぎるとしか言いようがない。

おわりに

今回は石丸伸二氏の選挙戦略・政策をもとに石丸氏を掘り下げた。
政治というのは公約や政策だけでなく、人間性など様々な側面が選挙において有権者が気にするだろう。そのため、私達有権者は複数の面から候補者を評価できるよう注意して見ていくことが大事だと考える。

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