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Digることで「世界の解像度が上がる」
「Digる」という言葉を聞いたことありますか?
元々はDJがレコードショップでレコードを探す際に使用していた言葉で「Dig=掘る」から「音楽を掘り起こす(探す)」という意味で使われたスラングです。
「Digる」はDJ、ラッパー、ヒップホップ好きを中心に広がり、アーティストや音楽を愛する愛好家によって音楽ジャンルの領域を拡大させながら現代まで受け継がれました。
現在では「Digる」は音楽のみならず、あらゆる領域のカルチャーに対して使われる言葉となりました。
今回は「Digる」をテーマに「物事を掘り下げて行くことで得られること」について述べていきたいと思います。
「Dig」とは何か
「Dig」とは「掘る」という意味を持つ動詞です。
「掘る」という言葉の意味通り「地面を掘る」といった意味で使われることが多い言葉ですが、「(埋もれた宝を)掘り起こす」という行動から連想して「探す」「調べる」という意味で使用されたり、「(地面にスコップなどを)突き刺す」動きから「突っ込む」や「突く」という意味合いで使用されることが多い英語圏の言語となります。
digの主な意味
動詞
1 〈地面を〉掘る
2 (探し物を求めて)ひっくり返す
3 〈手などを〉(…に)突っ込む
4 〈人を〉(ひじ・指で)つつく
◆地面を掘り返す行為を中心として,動きと目的に着目して「ひっくり返して探す」,動きに注目して「突っ込む」「つつく」に意味が広がる
小学館 プログレッシブ英和中辞典より引用
この「掘る」という性質が持つ行為が派生してDJがクラブで再生するレコードを探す行為に対して「(大量のレコードの中から)音源を探す」=「Dig」というスラングが使用される様になり、日本でもレコード等の音源を探す行為に対して「Digる」という言葉が使われ出したと言われています。
音楽ストリーミングサービスSpotifyは2016年にFacebookで「Digる」について以下のような説明をしています。
でぃぐる【ディグ〈dig〉る】(動詞)
あるかどうか確証がないにも関わらず、山のようなレコードやCDなどの音源から、自分にぴったりの一枚を求めて探し出すの意。英語のdig (掘りあてる(up, out)) が語源。
例文:「この曲いいね。」「昨日Spotifyでディグってる時に見つけたんだ。」
Spotify:2016年10月31日 の投稿より
DJは誰も知らない音源を保有し、プレイの中で選曲することを美学とするカルチャーがあるため「Digる」は自己表現の幅を広げる行為であり、自身の知的好奇や興味関心を満たす行為であり、知識を蓄え新しいアイデアを生み出す行為になります。
この行為が現代においても受け継がれ、影響範囲を拡大させながらSNSを中心に様々な領域で使用し始めるようになりました。
音楽だけでなく映画や漫画、小説、絵画、彫刻、写真、ゲームなどで「Digる」という言葉は使用され「コレクション性」のある領域では活用されています。
また、探すという意味で「洋服(特に古着)」や「PC部品」「DIYの材料」などでも「Digる」が使用されます。
更にDigる範囲は拡大し、関心ごとに対する「歴史」「思想」「思考」「価値」「心理」「流行」などの目に見えないモノも掘り起こす対象となっています。
情報社会である現代では物も情報も人も溢れるようにあり、山ほどある物事の中から闇雲に掘り起こすだけでは、価値のあるお宝には出会えなくなりました。
ハイクオリティなDigをするためには鍛えられた「審美眼」や体験してきた「経験」に加えて「文脈の理解」「歴史的背景の理解」「関連性のある分野の知識」など様々な領域における知識が必要となります。
加えて、掘り下げて調べる・探すことができる根気や多角的な視点で物事を眺める視野の広さ、物事における歴史への関心、未知のものを知りたいという好奇心が必要になります。
「Digる」は知的好奇の探究であり、自身の好奇心を満たす発掘の冒険なのです。
【Digることの性質】
①:物事を掘り下げて調べる/探す/追いかける/見る/聴く/読むこと
②:物事を多角的な視点で眺め、関連性のあるモノや関係のある技術/歴史/時代背景を結びつける
③:物事に対して新しいモノを探し評価する、または古いモノを再評価すること
④:事象に対して背景(原理・歴史・構造・過程・思想・哲学・体型)を掘り下げて知ること
⑤:自身にとって「知らないこと」を能動的に埋めていくプロセス
Digると物事に対して深みが現れる
「Digる」には自らの意思で物事を深く深く掘り下げて探すという性質があります。
音楽であれば聴いたことのない音楽を探すこととなりますが、大切なのは「探す」という能動的な行動であるという点です。
新しい音楽を「知る」ことは日常生活の中に多くの機会がありますが、それは自身から知るために行動を起こさなくとも受動的に耳に入ってくることが多いです。
CMで流れた曲、TV番組で流れた曲、カラオケで流れた曲、店頭BGMで流れた曲…等、出会いのきっかけは多く、そこで耳にした音楽が気に入れば「好きな曲」として自身のプレイリストに追加をしていきます。
そこからアーティスト単位で興味を抱き、例えば音源を集めるなど「自ら調べる」ようになって初めて「能動的に音楽を探す」という行為になります。
【音楽をDigる】
・今まで聴いたことない曲を自主的に聴く
・偶然知ったアーティストについて調べて音源を聴く
・知っているアーティストの知らない曲を自主的に聴く
・好きなアーティストが影響を受けた音楽を調べて聴く
・好きな曲の元ネタやインスピレーション元を探す
・好きなジャンル単位で聴いたことない曲を探す
・歴史的な背景を辿るように音源を聴く
・アンダーグラウンドな音源を聴く…等
Digるとは「自主的に調べて深掘りしていく」ことで、探究心を持って深い部分までしっかりと掘り起こす行為を指すため、深度が深ければ深いほどDigの精度は上がっていきます。
曲であれば「誰の曲か」「どんなジャンルの曲か」「どんな歌詞か」「どこで聴けるのか」「作詞及び作曲は誰か」「編曲は誰か」「いつの時代の曲か」「使用している楽器は何か」「曲が生み出される背景はどのようなものか」「何に影響を受けた曲か」「曲のイメージはどこから来ているのか」「ライブなどでの演出はどのようなものか」「どこから発売されているのか」…など掘り下げれば掘り下げるほど曲に対して受けるイメージは変化をしていきます。
【曲に対する深度の例】
①:「ドラマで使われている曲だよね」
②:「〇〇ってアーティストの曲だよね」
③:「〇〇がドラマのために書き下ろした曲なんだよね」
④:「〇〇がドラマのために書き下ろした曲で、ドラマでも出てくる×××をイメージした曲構成になっているよ」
⑤:「〇〇はあまり書き下ろしはしないんだけど、メンバーの★★★が昔から大ファンで原作者も〇〇が好きってところでドラマの書き下ろしで曲が作られたんだよ。原作で出てくる×××を再現するために△△△△を使用した曲構成になっていて彼らにしては珍しく■■■っぽいジャンルの曲なんだ」
掘り下げることで得た知識を組み合わせていくことで「曲に対して見ているモノ」が異なっていきます。
DigればDigるほど見ているモノの新しい一面が現れていき、解像度が上がっていくことが「Digることで得られる世界の見え方」です。
DIgることで見ている世界の解像度が鮮明になっていく
「Digる」は広く汎用することができる考え方で様々な領域のジャンルで使用することができます。
例えば私はサウナが好きでサウナにほぼ毎日の頻度で通っています。
サウナブームによる盛り上がりを知ってる中、偶然寄った温泉にあったサウナに試しに入ってみた時に「気持ち良い…!!」と感じたことがきっかけで通うようになりました。
サウナに行く度に「入浴方法」や「健康に良い入り方」「サウナの歴史」など知りたいことが日に日に増していき、サウナを中心に日々Digをしています。
サウナにハマってからDigったこと
「これは体に良いのか」
「どういう状態が理想なのか」
「サウナにはどんな種類があるのか」
「水質はサウナ浴の効果に関係あるのか」
「都内の施設と地元の施設は何が違うのか」
「個性的なサウナ施設」「全国のサウナ施設」
「サウナ施設のこだわり」「世界のサウナ」
「サウナの起源はどこか」
「フィンランドサウナは何が違うのか」
「サウナに関する研究論文はあるのか」
「サウナを作るにはどうしたらいいのか」
「日本のサウナはいつから始まったのか」
「日本には蒸気浴は存在していなかったのか」
「古来日本と温浴について」「銭湯文化」
「泉質について」「サウナの運営方法」
「温浴業界について」…など
Digることで「行ってみたい施設」が増え、行ったことがない地域へ足を運ぶようになり行動範囲の拡大が最初に起こりました。
同時にサウナについてもっと知りたいと思うようになり「施設のこだわり」を調べるようになり、結果として「サウナの種類」や「水風呂の水質」といった違いを知ることができました。
更にサウナ浴が体に良いのか?医学的に研究はされているのか?サウナの発祥の地はどこなのか?と興味は拡大し、「サウナ」に対してハマった当初よりも深く様々な視点で捉えることができるようになりました。
最近は「サウナによる地域創生」や「サウナによるコミニティの形成」などハマった当初は考えてもいなかった視点のアイデアが浮かんでいて、自分も何かサウナカルチャーに貢献できないか?と考えるようになりました。
また、サウナをDigることで「水質」や「泉質」について関心を持ったり、日本の銭湯文化の歴史や現状の課題点、温泉の歴史について興味を抱いたりと「気になること」の範囲が広がりました。
DigればDigるほど知識の幅は広がり、前と同じ空間でも見えている世界の解像度は日に日に増して行き、同時に今までは見えていなかった「知らない部分」が鮮明に浮き出る様になり、結果的にDigる範囲は拡大し続けています。
「Digる」は物事に対して興味関心を刺激し、知的好奇心を活性化させ、得た知識は見える世界の解像度を上げていくため「思考」に深みが現れます。
Digることで世界の解像度が上り、物事を抽象的に捉えられるようになり、脳内で複数の要素が結びきやすくなることで「新しいアイデア」が生まれます。
「Digる」はビジネスでも活用できる
私自身「興味を抱いたものは深く掘り下げる」という行為自体がクセになっているところがあり、何かに興味を持つと「他に何があるのか」「どのような文化なのか」「歴史的背景やコンテキストはどんなものがあるのか」といったような形で色々と知りたいと思うタイプの性格です。
例えば私は現在フリーランスでWebマーケターをしているのですが、仕事を始めたばかりの時は「Webマーケティング」という領域においては歴史や現在のトレンドや有名な人・会社をDigることを行いました。
お陰様で未経験でも歴史的背景やトレンドは抑えていたので、堂々と振舞うことがでたことで信頼を得られたりと当時かなり助けられたのを覚えています。
私は「ビジネスマンこそDigるべし!!」と思っています。
お客様に対してDigればビジネスを進めていく上で専門性の高いコミニケーションをとることができますし、施策の精度も抜群に上ります。
Digは「ただ単に調べる」のではなく「掘り下げて探す」行為です。
企業の文化や業界の歴史に現状などを掘り下げていくことで、問題解決に繋がるお宝を掘り起こすことができます。
表面上をなぞるのではなく、現象の先にある本質を掘り起こすことで「真の問題解決」へと導くことができます。
Digは何度も何度も繰り返し行うことで精度が上がっていきます。
どこを掘り起こせば芋づる式に様々な事象を知ることができるのかが分かるようになり、深い深度の考察ができるようになります。
課題に対する解像度が鮮明になり、深い洞察によって導き出された仮説の質は高く、問題解決へと導いてくれます。
Digることで変わる世界
「Digる」は探すという意味で使用されることの多い言葉ですが、その本質は「掘り起こす」ことにあります。
表面上をなぞるような「探す」「調べる」とは掘り下げ方の質が異なり、Digは自身の持つ知識や経験によって形成された審美眼を持って行われる探究の旅であり、知的好奇心を満たす冒険です。
そして、まだ見ぬ未知との遭遇を求める探究の道になります。
Digるには「好き」という感情が必要不可欠であり、Digは「愛」がなければ行うことができない地道な作業です。
「知りたい」「見つけたい」という欲求と「自分だから見つけることができたお宝」というDigに対する美学が質の高いDigを可能にします。
結果として知識が蓄えられていき、点が線となり線が面となっていくことで世界の解像度が上り鮮明になっていきます。
ぜひ、自身にとって関心のあるモノに対して深く深く掘り下げて探究する「Dig」をやってみてください。
Digることで新しい世界に出会えることでしょう。
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