「何者」より、5の好きな描写
一番好きな小説を挙げるなら、「何者」を挙げます。
読みやすくて、面白くて、強烈なメッセージ性がある、パーフェクトな作品だと思っています。
今回は「何者」から、好きな描写をいくつか紹介してみます。
※核心的なネタバレは避けていますが、未読の方は先に小説を読むことをオススメします。こんな面白い小説はなかなか無いので、余計な先入観無しで読んで欲しいです。
主人公の拓人がライブハウスで瑞月に後ろから声を掛けられるシーン。
この描写だけで、拓人が瑞月に思いを寄せていることが分かるし、同時に、わざわざ”探していないふり”をする拓人の自意識過剰さも示されています。
非常にスマートな「片思い」の表現ですよね。初読の際はココで心を掴まれたのを覚えています。
「肩書きありきの人間」感。
朝井リョウさんはこういう社会の中にある違和感を突くのが本当に上手いですよね。それでいて、ギリギリ露悪的にはなっていないから、読者にもスッと入ってくるという。このバランス感覚が好きです。
インターネットを使えばいろいろな情報に触れることが出来るけれど、いつも同じものばかり見てしまいますよね。少し自嘲的な描写ながら、読者もハッとさせられます。
(これ書いてて気づいたんですけど、ブックマークには入れてないサイトだけど、ついついアクセスしちゃうってことですよね。うわあ、この辺りの「距離感」も絶妙…。もはや恐ろしい。)
ネタバレを避けるために前後の流れは説明しませんが、これだけでも良い文章ですよね。なんてことのない日常の中で”本当の「がんばる」”を見つけたシーン。詩的ですよね。
感情的に言葉を放つときってこんな感じですよね。感情と言葉が相乗効果を引き起こして、ついつい言い過ぎてしまう。描写が的確で印象に残っています。