【ネタバレ注意】映画『ラ・ラ・ランド』シナリオ考察
いやー、素晴らしい映画でした。『ラ・ラ・ランド』。
有名な映画ですし、解説されている方はたくさんいらっしゃると思いますが、勉強も兼ねて、自分なりのシナリオの考察をしてみたいと思います。
※ネタバレ全開なので、まだご覧になっていない方は、まず作品をご覧になって下さい。
※シナリオ考察はあくまで個人の見解です。
【ネタバレ注意!】
映画『ラ・ラ・ランド』のシナリオ考察
●作品のテーマ
一言で言うと、
売れない女優とジャズピアニストが恋に落ち、それぞれの夢を掴む話です。
夢を掴むということがメインテーマですが、それ以上に恋愛要素が強くストーリーを引っ張ります。
●なぜミュージカルなのか?
いきなり歌で始まる冒頭シーン、ハッキリ言って意味不明です。
朝の高速道路。渋滞ラッシュにはまった人たちが次々に道路に出て来て歌い踊ります。そしてその途方も無い身体能力!
最後までこの映画のテンションに着いて行けるのだろうか。一抹の不安がよぎります。
なぜこの映画がミュージカルなのか、その必然性はストーリーのエンディングまで観て初めて分かりました。
個人的にはこの作品はミュージカルではないと思いますし、ミュージカルに分類されるのかどうかはもはやどうでもよいです。
むしろ、ミュージカルの手法を使ってますという伏線が、この作品でしかなし得ない印象的なエンディング(解決)に繋がっている、その点に尽きます。
●第一幕
主人公の女性ミアがオーディションに落ちまくります。
バイト先のカフェで派手にカフェオレぶちまけられたままのシャツで無残な結果に終わるシーンは悲壮感が漂い、閉塞感も抜群です。ちなみに私は演技はなかなかのものだと思いましたけど?
女優を目指す仲間たちに誘われて「運命を変えてくれる人」を探すためにクリスマスパーティに向かいます。え?要するにコネ作りってこと?なぜ人生賭けた夢が人頼みなの?そのまま演技磨いた方が堅実では?という疑問はさておき。
パーティで効果的なコネ作りができず、一人夜道を帰るミアは、ジャズピアノの音色に誘われてあるレストランに入ります。客もまばらな店の中央に配置されたピアノに座り、ジャズを奏でる男。ミアはその横顔に見覚えがありました。
ここでクラクションの音と共に冒頭の渋滞のシーンに時間が巻き戻ります。渋滞が解消して動き出した車の波に乗り遅れてモタモタしていたミアを、強烈にクラクションを鳴らして睨みつけながら追い越していった感じの悪い男。これが売れないジャズピアニストのセブでした。
セブの夢は自分が理想とするフリースタイルのジャズが毎晩演奏される店を自分で開くこと。才能はありながら、売れることよりも理想を重んじて成功できない偏屈な人物として描かれます。
クリスマスにレストランでピアノの演奏を依頼されるセブ。店長から「リストにある曲を弾け。フリースタイルのジャズは認めない」と釘を刺されます。そして弾き始めた曲は、、、えっ?童謡?子供から大人まで知ってるいわゆるクリスマス定番ソングで、若干アレンジされてはいるが、ハッキリ言ってダサい!笑えるくらい酷い!いや私店長なら逆にお帰り頂きたい感じですけども。そして客はまさかの無反応。いや絶対みんな笑うでしょこれ。Why?と言う感じでちょっとやり過ぎなくらいの演出です。
夜も更けて客もまばらになってきた頃。また誰も聴いてくれないクリスマスの曲を弾いていたセブの手がふと止まります。そして一気に物哀しい雰囲気のジャズアレンジに。その演奏に引き寄せられて現れるミア。セブは何かが完全に振り切れて鍵盤を端から端まで使ってちょっと見てて引くくらい激しい即興を見せます。そして、曲を終えても拍手ひとつも起こらない店内。店長はセブを即クビにします。この演奏に一人感銘を受けたミアはセブに歩み寄り声を掛けますが、セブは肩でミアを跳ね飛ばしながら店を出て行きます。何こいつ感じ悪っ!
その後、とあるセレブのプールパーティで二人は再会します。ミアの目的は相変わらずコネ作り。セブはプールサイドで謎のバンドのメンバーとして、首から下げるタイプの真っ赤なキーボードを演奏しています。あれ?この人、フリージャズしか演奏しない偏屈な人なんじゃなかったっけ?という疑問はさておき。
ここで二人は初めて言葉を交わします。そして、夕暮れ時。パーティを抜け出した二人は、夜景が見える丘の上で一曲歌います。なぜってミュージカルだからです。「君は僕のタイプじゃないー。あぁ綺麗な夕暮れの景色が勿体無いー」という、笑っていいのかどうか悩ましい歌詞。しかもヒールから履き替えて二人でタップダンスて。
ともあれここまでが第一幕です。お互いに(特にセブが)何となく好意を抱いている描写がターニングポイントでしょうか。
●第二幕(前半)
その後、ミアが働く映画スタジオ内のカフェに突然押し掛けるセブ。これをきっかけに二人は友人と呼べる関係に発展しますが、ミアには一ヶ月付き合っている彼氏がいます。
そして、ミアはセブに昔自分で書いた脚本の話をします。すると、セブがこれに反応。オーディションなんか受けてないで、自分で書いて自分で演じれば良いとアドバイスします。そしてセブは、シナリオ作りの研究という名目で古い映画館でのデートを持ちかけます。
セブとの映画デートの日、ミアの家に突然彼氏が迎えにやってきたことで、ミアは彼氏とその兄とのディナーの約束を思い出します。しぶしぶディナーに向かうミア。しかし、ディナーの間も心ここにあらずでそわそわしています。そして「ごめんなさい」という一言を残してレストランを去るミア。一人で映画を観ていたセブの元にミアが現れます。そこでキスしようとしたら突然映画が終わってしまい(Why?)、ミアの提案で映画に映っていた天文台に向かい(Why??)、天文台のプラネタリウムに映る宇宙空間を二人で飛び回ります(Why???)。そして、再び地上に舞い降りた二人はプラネタリウムの座席でキスをして、晴れてカップルとなります。
(ところでここのプラネタリウム、お客さんが機械のレバーをガチャンと下げると上映される仕組みなんですが、繁忙期の運用が大変そうだなと思いました。)
そこからはひたすら微笑ましいカップルのシーン。二人はデートを重ねながら絆を深めます。ミアは自分で演じるための脚本を書き始め、一方セブはフリージャズピアニストとして活動を続けます。セブの演奏に身を任せながらミアがステージのセブに笑顔を向けるシーンでストーリーとしてのピークを迎えます。
演奏を終えてステージを降りたセブはミアとキスを交わし、テーブルでドリンクを飲みながら一息つきます。微笑み合う二人。そこに現れたのがセブの旧友キースです。キースは自分のジャズバンドの新しいピアニストにならないかとセブに声を掛けます。ここが作品の折り返し地点(ミッドポイント)です。
●第二幕(後半)
自分のスタイルにこだわりを持つセブは、初めはキースの誘いには乗りません。しかし、お店を出す資金が一向に貯まらず、仕事も不安定なセブに対して、ミアはキースの誘いを受けてみては?と提案します。
しぶしぶキースのバンドの元に向かうセブ。しかし、キースのバンドの音楽はもはや伝統的なジャズを離れ、ジャズとエレクトロポップを掛け合わせたようなスタイルになっていました。セブは戸惑いますが、資金集めのためにバンドのメンバーとなり全国ライブに帯同します。生活が激変し、すれ違う二人。
ミアはセブと初めてデートをした思い出の映画館のオーナーと交渉し、経営難で潰れてしまった映画館を劇場に改修して、そこで自分の舞台を上演する機会を得ます。公演に向け準備を重ねるミア。部屋にはシナリオの原稿が散乱します。
一方セブが所属するバンドは人気を博し一気にスターダムを駆け上がります。しかし初めてそのライブを観たミアは、セブが理想としていたジャズからかけ離れたスタイルに衝撃を受けます。
ある夜、ツアーの合間にサプライズで家に帰りディナーを用意して待ってくれていたセブにミアは喜びますが、ミアがもっと二人の時間を増やしたいと提案したことから激しい口論に発展します。セブはバンドを続け、このツアーが終わったら新しいアルバムを作ってまた数年ツアーに出ると告げます。あなたの理想とするジャズの店を開く夢はどこへ行ったの?と問うミアに、セブは店を開いても誰もジャズなんか聞きに来ないと反論。やっと今自分が音楽で人を楽しませている。これが自分の夢だと豪語します。さらに、プライドを傷つけられたセブは「君は優越感のために不遇な俺を愛した」という大暴言を吐きます。およそ愛するものに向ける言葉とは思えず、見ててもフラストレーションの貯まるセリフです。しかもこれ、なんと、ミアの舞台公演の二週間前の出来事です。
そして、ミアの舞台公演の当日。バンドの練習を終えたセブは、そのまま雑誌のスチル撮影があることを知らされます。ミアの公演を観に行くよりバンドの撮影を優先するセブ。ミアは人生を賭けて舞台に立ちますが、客席に人はまばら。さらに終演後、舞台袖で演技やシナリオを酷評する観客の声が耳に入ってしまいます。絶望するミア。そこにバンドの撮影を終えたセブが到着します。「公演はどうだった?」と無神経に問うセブを乱暴に押し退けて、ミアは実家に帰ってしまいます。
気持ちいいくらいの「オールイズロスト」でした。ここまでくれば嫌でも最悪のシナリオがイメージできます。ミアは女優を諦め、セブは店を持つことを諦め、二人は破局、ですね。
そのあと、ガーデンパーティで一人でピアノを演奏するセブが映ります。その音楽にのせて社交ダンスに興じる人々。どうやらバンドはもう辞めたようです。
二人で住んでいた部屋のベッドに一人で眠るセブ。そこに一本の電話が入ります。なんと、ミアの公演を客席で観ていたハリウッドの配役ディレクターから、大作映画の制作に向けて翌日開催されるオーディションにミアを招待するための電話だったのです(ターニングポイント)。これで第二幕が終わりです。
●第三幕
オーディションのことをどうにかしてミアに伝えなければならないセブは強行策を取ります。
セブは、ミアの実家の近くにあると言っていた図書館に行き、夜中にも関わらず住宅街一帯に響き渡る爆音でクラクションを鳴らします。その音に聞き覚えのあるミアが窓際に現れます。二人は再会。セブは明日のオーディションのことを告げますが、ミアは「今度落ちたら二度と立ち直れない」ことを理由に断ります。セブはなぜだ!と大声を上げ、とにかく明日朝迎えに来ると告げて去ります。
翌朝、ミアは約束の時間に現れました。セブはオーディション会場までミアを連れて行き、扉の外で見守ります。ミアに課された審査課題は、台本なしで好きな話をすること。戸惑うミアですが、自分が女優を目指すきっかけとなった人の話をします。というか歌います。ミュージカルなので。
ミアにきっかけを与えた人はミアの故郷であるパリに住む叔母さんで、この叔母さんは、パリで女優を目指して冬のキンキンに冷えたセーヌ川に裸足で何度も飛び込んだそうです(Why?!?!)。
話だけ聞くとアホみたいですが、個人的にこのシーン(歌)が一番グッと来ました。「どうか乾杯を 夢追い人に」と情熱的に歌い上げるミアの姿は泣かせます。
オーディションを終えたミアを迎えるセブ。まだオーディションの結果も分からないのに、ここでセブがその先のストーリーを予言します。今回の映画はパリでの収録のため、配役が決まったら一年くらいミアは故郷であるパリで暮らすことになります。セブはお店を開くためにロサンゼルスに残ると決意を述べます。「あとは様子を見よう」と。その姿にミアは「ずっと愛してる」と告げ、セブも「俺も愛してる」と答えます。
(えっ?この伏線はもしや、、、お別れ?)
●エンディング
ここで「5年後」のテロップ。何?5年だと?パリでの収録はとっくに終わってるはずです。1年生だった子は6年生になり、6年生だった子は高校で進路相談受けてます。そのくらいの年月です。
黒塗りの車からヒール姿で颯爽と現れたミアは、かつて自分が働いていたハリウッドのカフェを訪れ、人々から羨望の眼差しを受けます。5年でスターに駆け上ったのですね。
その頃、セブはピアノが置かれたガランとした店内で開店の準備を進めています。ふむふむ。こちらも順調。
セレブな豪邸に久しぶりに帰宅したミアは見知らぬ男性と熱いキスを交わします(Whaaat?!)。誰やねんこいつ。
そして奥の部屋にいる子供に向けてミアからママと言う言葉が出てきた瞬間に、ミアが別の男性との人生を選び、新しい家族に囲まれていることが判明します。セブはこの未来を読んでいた訳です。でも、ラブストーリーとしては裏切り感満載です。
セブは一人暮らしです。
そして、クリスマスが近づいて来ます。
クリスマスの夜。子供をベビーシッターに任せ夫婦で出かけるも、ミアの車は渋滞にはまります。ミアが目的地(たぶんミア主演の新作映画のプレミア上映会)を諦めて、夕飯を食べに行きましょうと夫に提案します。車は高速道路から降りて行きます。
夕飯を終え、夫婦で仲睦まじく路上を歩くミアは、ふとジャズピアノの音に気がつきます。夫に促されるままに入っていったジャズバーの看板に目を奪われます。それはかつてミアがセブのお店のためにデザインした「セブス」というロゴそのものだったからです。
混み合う店内。ステージではジャズバンドがフリージャズを演奏しています。夫と共に前の方の席に座るミア。
演奏が終わるとセブがマイクを持ってステージに現れ、一人一人の演奏者を紹介します。そして、客席に振り返った瞬間、セブとミアの目が合います。一瞬言葉を失うセブでしたが、「セブスへようこそ」と言ってピアノの前に座ります。そしてミアの聞き覚えのある暗いフレーズを演奏します。
●最後の一曲
さて、ここからがミュージカルと手法を採用したこの作品の見せ場でもあり、一番の特徴です。それはセブとミアがずっと寄り添い合うというもう一つの世界線をたった一曲の間に見せてしまおうという方法です。
暗いピアノのフレーズをきっかけに、ミアとセブが出会ったレストランに時間が巻き戻ります。セブに声を掛けようとミアが近づくと、二人はいきなり熱いキスを交わします(はい?)。同時に陽気な音楽が流れます。最初のシーンまで戻らなくても、と初見で思いましたけど、現実離れした妄想世界に一気に引き込むことには成功しています。二人を引き裂くきっかけを与えるキースがセブの前に現れても、セブはミアのことしか見えてないので取り合いません。
そしてセブは、収録でパリに向かうミアに付いて行ってそこでジャズピアノとして成功をおさめます。二人は結婚して子供に恵まれます。ハリウッドのカフェで憧れの眼差しを受けるミアの隣には勿論セブがいます。そして、最後のジャズバーのシーン。客席のミアの隣にはセブがいます。しかし、カメラがグルリと転回すると、ステージではセブが一人背中を丸めてピアノを弾いています。ここで一気に現実に引き戻されます。この切り替えも見事でした。
率直に言って、観ている人のほとんどはこの一曲の中に込められた妄想世界の方のストーリーを期待しています。二人がシンプルに結ばれるというハッピーエンドです。でも、この線が現実世界の方で提示されていたら、どうでしょうか?幸せ過ぎてオーディエンスの気持ちが離れてしまうか、またはその先の不幸の伏線のように感じてしまうかもしれません。
で、実際に現実世界に採用されたのは、二人がそれぞれの夢を追い、別々の道を歩むというストーリーです。見方に寄っては酷い話ですが、いつの間にか、こんな結末もあってもいいかもね、と感じている自分がいます。それは、もうひとつの世界線の提示によりフラストレーションが解消されているからに他なりません。
そして、最後のシーン。
一曲が終わって席を立つミアは、去り際にステージに振り返ります。そして、セブとミアが互いに微笑み合います。
この先、お互いがパートナーになることはないにしろ、困難な時期を一緒に乗り越えた友人として、今後も精神的に支え合って行くのかも知れません。そこに救いがあります。
●おわりに
と言うわけで、結局何が言いたいかというと、いい映画だよね!ということです。
2時間の映画のシナリオ書き起こすのに一晩かかりましたが、他にはないユニークなシナリオでした。