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非日常アンダーグラウンド

地下へと続く薄暗い階段を、一段ずつ慎重に踏みしめながら降りて行く。少しだけ鼓動が早まるのを抑えるため深呼吸をすると、古い建物特有の湿った冷たい空気が鼻腔から肺へと流れ込んだ。

階段を降り切ったところに立っていた若い男が、丁寧に言った。

「何時のご予約ですか?」 

私が予約の時間を告げると

「そのまままっすぐにお進みください。」

青白い蛍光灯に照らされた廊下を静かに進む…



「接種券、予診票、本人確認書類はお持ちですか?」


そう、ワクチン集団接種である。

この某市民ホール会場は、上の階に体育館も文化ホールもある。だが、なぜか接種会場は地下会議室になっていた。

ただでさえ、痛いとか怖いとかマイナスに思われがちなワクチン接種なのに、なぜわざわざ古い建物の地下という怪しい演出をかましてくるのか…。

ここはどう見ても、テレ朝の刑事ドラマで誘拐犯がアジトとして使う場所だ。

おまけに、接種希望者がそこそこ集まっているのに皆ほぼ無言のため、なんだか「静かに賑わう廃墟」のようなシュールな趣きさえ漂っている。

壁に目をやると、色褪せた貼り紙に旧字体で「奌検」と書いてある。私は時空を超えたのだろうか?

シュールなタイムリープ刑事ドラマ的雰囲気を醸し出しながら、効率良く流れて行くワクチン集団接種。

非日常がアンダーグラウンドにあふれ返っている。果たしてこれは現実なのだろうか…。




翌日、副反応の高熱にうなされながら見た「トイレットペーパーもラップもアルミホイルも切らす」という夢の方が、至って現実的だった。






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