インテリジェンス~収集、分析、活用
お芝居をする上で、「インテリジェンス」は必要なことだとぼくは考えています。
このインテリジェンスというのは知能や知性ということの他に、情報や諜報を表すこともあります。
お芝居をする上で、知能や知性もある程度必要だと考えていますが…今回の記事はこの「情報」「諜報」もお芝居に必要でないか、という考えを述べて参ります。
▼諜報活動
諜報活動。この言葉だけ聞きますと、アクションやスパイの物語が好きなぼくはドキドキしてしまいます。
企業や他国に忍び込み…敵が居れば、ばっさばさと倒していき・・・美女にはモテモテ。
危機もなんのその!次々と持てる知力と体力で次々に解決し、乗り越えながら目的の情報を収集する。
その情報を分析する能力もピカ一でずば抜けた推理力でその情報を解析していく・・・。合間合間で美女に関わり、その美女もついでとばかりに助けて行く。
そしてミッションを達成し…美女と熱い口づけをかわし、次の任務へ‥‥。憧れてしまいます。
お芝居に必要なのは…こうした「活躍」ではなく…「情報」についてはこのような「諜報活動」の一端が必要ではないか、と考えています。
▼諜報とは
では、一体何がどうお芝居に必要なのか・・・。
それは情報の収集・分析・活用だと考えいます。
Wikipediaで「諜報」を調べますと・・・
そもそも諜報とは「謀:はかりごと」に関わる情報をあつかう作業であり、狭義には情報収集を意味するが、広義には分析、評価などの活動が含まれる。インテリジェンス(intelligence)とは、行間(inter)を読む(lego)という意味である。
とあります。
この最後の部分、「行間を読む」というのがお芝居には非常に必要な行為です。
▼俳優もスタッフも情報は必要不可欠
お芝居を創る上で、情報がまったくない状態では作ることは不可能に近いです。
まったく創ることができないと言っても過言ではありません。
情報には色々なモノがあります。
・台本はどのようなものか
・公演場所はどこか
・稽古回数や公演日程
・キャスティング
などなど…
こうした情報を元に、俳優は俳優の、演出者は演出者の仕事をおこなっていくわけですが・・・同じ情報を得ても分析・活用の仕方はまるで違ってきます。
また、舞台演劇において情報の宝庫は「台本」であります。
▼行間を読む
さきほどの諜報の項目でも触れましたが…インテリジェンスの語源は「行間を読む」ということでした。
舞台演劇に限らずこの「行間を読む」という言葉は使われます。
例えば、相手の話を聞いている時に・・・喋っている事が全てではなく、その人の気持ちを慮るなども行為も「行間を読む」ということでしょうし、逆に発言の裏に潜む相手の真意を探る場合などに使う時もあるでしょう。
実際の―――といっても詳しく知っているわけではありませんが―――諜報活動においては情報を得る相手との会話から「行間を読む」ということが行われていると思いますが‥‥
演劇台本の「行間を読む」というのは「サブテキストを作る、読む」と言い換える事ができます。
サブテキストとは、台詞と台詞の間、ト書きとト書きの間、台詞とト書きの間…台本には書いていない情報の事です。もちろん、自分の台詞、ト書き、他者の台詞、ト書きにも自分の役のヒントが隠されていることがあり、これもサブテキストと言うことができます。
▼行間を読む事に必要なこと。
台本をもらって、俳優さんであれば・・・まずはじめに自分の役を中心に読んでいくことが多いのではないでしょうか。
自分の役のセリフ、行動、心の動きなどをイメージしながら読み進めていくわけですが、最初に読んだだけでだけで自分の役の全てがわかったら苦労しません。
しかし、役作りにおいては何回も何回も台本を読み、自分の役の情報を収集していきます。
また演出者や他のスタッフであれば、「役」というよりは「シーン」について重点的に読んでいく事が多いのではないでしょうか。
役がどのように動き、どこで何をし、どこで誰に向かって何を言っているのかをイメージしながら読み進めていく。
こちらの場合も何回も台本を読み、作品の情報を収集していかなければいけません。
どの職種についても、サブテキストを読む、行間を読む際に大事なことは、まず情報を収集するということが大事になってきます。そしてその情報を分析し、次に活用していくわけです。
▼情報の収集
一つ目の「収集」は飛耳長目を旨として、色々な情報を収集します。
俳優さんであれば、役の名前、性別は言うにおよばず、家族、友人、知人といった人間関係、場面場面の生理状態、心理状態、物語の背景…制限を設けずにとにかく書いてあることから集めます。
もちろん、分からない語句、言葉はこの段階で調べます。
書いていない事でも想像できるものは想像します。例えば、自分の役が舞台上に現れていない時にどこで何をしているか、などなど。
台本に書いていないからと言って、役は何かをしているはずですので・・・イメージも併せて「情報」を収集していきます。
演出者やスタッフであれば、台本から舞台設定、衣装のイメージ、照明のイメージ、音のイメージなどなど…俳優さんや他のスタッフにイメージを共有するための情報は総て収集します。
いわゆる「出はけ」、入退場のタイミング、方向・場所などについても台本から読み取れる場合は読み取るでしょうし、明記されていなければ、イメージで補完していくことで「情報」を収集していきます。
▼分析
二つ目に行うことは「分析」だと考えています。
これは「収集した情報」に矛盾がないか、間違った情報はないかなどを精査し、選り分ける事です。
この分析を怠ってしまうと・・・
実際の稽古で演出者が俳優さんなどにイメージを伝える際、あやふやなモノになってしまったり、稽古が進むにつれて矛盾だらけになってしまったりします。
また、俳優さんで言えば‥‥一人よがりの、自分の役が矛盾をはらんだ役になってしまう恐れがあります。
この分析は非常に大事であります。
自分が情報の収集の段階で行ったイメージが台本に書いてることもさることながら・・・自分でしたイメージ自体の矛盾も解消しなくてはなりません。
さらに、分析をするめることによって、気付かなかった”情報”を得る場合があります。
▼活用
三つ目は「活用」です。収集し、分析した情報を元に、実際にやってみる。演出者であれば演出プランの創造、変更でしょうし、俳優さんであれば、演技プランの構築、実演です。
分析の項目でも述べましたが…この活用をした後にも「必要な情報」「見落としていた情報」に気付く事があります。そういう時は再度収集し、分析を行っていきます。
また、演出者やスタッフの場合、実際の劇場の正確な広さ、壁の高さなどを併せて活用していくことが求められます。
例えば、舞台の広さの実測値というのは俳優・スタッフとともに共有できます。
しかし、上演を行う舞台で稽古を行うことができない限り、実測値はあまり役にたたないと考えています。
例えば、稽古場に実測値通りの舞台を再現できたとしても、そこには壁の高さ、圧迫感、楽屋からの動線、客席・スピーカー、照明の位置など同じように再現できないので、ある種間違った認識で稽古が進んでいく事になり、劇場に入ってから時間がかかってしまう場合も考えられるからです。
正確な情報を共有することはもちろん必要で怠ってはいけません。
しかしながら、情報の活用の際には、分析に応じて、必ずしも正確な値を用いなければならない、ということはないと考えています。
▼そして。繰り返す
行間を読む、サブテキストを作り、読むとは、「情報の収集、分析、活用」を繰り返していく事が肝要だと考えています。
1回だけでなく、何回も何回も繰り返す事で精度が上がります。
途中にも書きましたが、分析・活用している時に「必要な情報」に気付く場合もありますし、俳優でもスタッフでも稽古中に得た「情報」は必ずあるはずです。
俳優さんであれば相手役から受けた印象やセリフ、行動も「情報」の一つですし、スタッフであれば「実際の動き」を見る事で情報が増えて行くはずです。
稽古毎にこれらのサイクルを繰り返すことでより精度の高い行間、サブテキストの作成、読み取りになっていきます。
台本という限られた情報を元に如何にサブテキストを作り、読み込み、それを役を生かす為に反映できるか、洞察力、想像力、調査力、考察力、、、、も必要な要素です。
お芝居を創るためのインテリジェンス。
これらの知能や知性、諜報活動・・・インテリジェンスは必要な能力だとぼくは考えています。
舞台演出家の武藤と申します。お気に召しましたら、サポートのほど、よろしくお願いいたします!