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いつもの天体撮影〜画像処理 (5) 画像処理後編

今回No.5でやっと完結です。WBPPが終わったリニアデータから最後PixInsight上で仕上げるところまで説明していきます。

この記事は天体写真の画像処理をPixInsightでやり始める人を対象に書いています。またあくまで私が行う基本的な流れについて記載します。これしか方法がないわけでは有りませんし、私自身もより複雑な手順を踏む場合もあります。あくまでも初心者が一連の流れを真似していただいて、まず結果を得られるようにするということを目的にしています。

と言いながら有償のアドオンプロセスを使ったりしているので、初心者向けか?と言われると難しい点もありますが初心者ほど有償アドオンを使ってもらったほうがより楽に結果が得られるという面もあります。
今後、有償アドオンを使わない版の手順の記事も書きたいと思います。


さて内容ですがこの様な目次となっています。


流れの説明


はじめに

STFでAuto Stretch

画像処理編はWBPPまでの説明で利用したベランダで撮影したハート星雲ではなくて、ちゃんと撮影地で撮影した網状星雲で説明を進めます。

まず開くと真っ黒なウィンドウが2つ表示されます。(なぜ黒いのかは後述)

2つのウィンドウのうちの _mask の方は × で閉じてしまいます。

続いてSTF(ScreenTransferFunction)を開きます。

開くとProcess Explorerの<Recentry Used>の一番上に表示されるので、右クリックしてAdd to Favoritsをクリックしてすぐにアクセスできるようにしましょう。

そして開かれたSTFの黄色と黒のAuto Stretchのボタンをクリックします。

そうすると色が編ですが撮影した網状星雲が表示されました。

そうしたら再びSTFで鎖のマークのLink RGB Channelを押して(Linkを解除して)、その後でまたAuto Stretchを行います。

するとまだちょっと色が変ですがだいたいそれっぽい感じの色になったと思います。これで目的のmasterLightのファイルが開けたことが確認できたとも位ます。

Projectを保存

ここまで進んだらまずこの作業状態を保存しましょう。この作業状態の保存はProjectを保存するという行為になります。
Projectを保存するにはSave Projectを選択します。

Save PixInsight Projectの画面が表示されるので、ディレクトリを選択してOKにて保存します。

Projectが保存できたら作業を進めていきます。このProject保存は適宜いいタイミングで行いましょう。
PixInsightはあまり動作不安定になって落ちるようなことは有りませんが、保存さえしておけばどのタイミングにも戻れる(後述)ので安心です。

ProcessとScript

具体的な作業に入る前にProcessとScriptについて説明します。

  • Process → いわゆるPixInsightに含まれる何かの目的に対して作られる機能の単位です。前述のSTFもそうですし、「トリミングするProcess」「星の位置合わせをするProcess」「ノイズを低減するProcess」などのように、目的に対して比較的小さい単位で機能が開発されています。

  • Script → PixInsightのProcessを組み合わせて一連の動作を実現するものです。前の記事のWBPPは「前処理としての一連のタスクをまとめて実施するScript」でした。小さい機能単位のScriptもありますが、基本的には複合した機能を実現する仕組みと理解してもらえたら良いかと思います。

Processの開き方

先ほどAdd to Favoritsの説明をしましたが、以後Processの開き方を細かく説明しきれないと思います。見当たらないときは<All Processes>にアルファベット順に並んでいるためそこから探してください。

◣と■と●

各Processの左下にある◣と■と●ですが、いずれも実行ボタンと理解してもらって差し支え有りません。使い方の違いがありますが、分からないときは■を押してみてください。
◣を使うのは同じ設定を複数の対象に行うような場合で、今回の手順の中では使っておりません。

リニアフェーズとノンリニアフェーズ

天体写真の画像処理ではリニアフェーズとノンリニアフェーズを分けて手順を進めていく必要があります。それぞれの状態で実施したほうが望ましいタスクがあるため、リニアフェーズでやるべきこと→ストレッチ→ノンリニアフェーズでやるべきことの順に処理を進めます。

リニアフェーズは後でやるストレッチ前の状態でそのまま見ると非常に暗い画像のように見える状態(STFでAutoStrechまえの見え方)です。それをストレッチ処理を行うことでそのまま見える画像になります。そのストレッチ前後のリニアフェーズとノンリニアフェーズのそれぞれでやるべきこと、というかどちらの方が各処理に適しているかの違いがあります。

そもそものリニアフェーズ・ノンリニアフェーズの詳細な意味や、ストレッチすることの意味については当記事では扱いません。ひと通り画像処理を経験した後に、以下の動画などを参照されることを推奨します。


リニアフェーズ

名前変更

さてまず私は画像の名称を変更します。画像のウィンドウの左端にあるこの長い名前の部分をダブルクリックします。

するとSet Image Identifierのウィンドウが表示去るので、New Identifierに短い名前(英数アンダーバーのみ)を付けてOKを押します。
私はだいたい撮影対象のカタログ名を付けています。

FastRotation

今回の網状星雲では必要ないですが、縦構図で撮影した場合には回転させる必要があるので、FastRotationにて回転させます。
他にDynamicCropでもトリミングしながら回転したりできるのですが、私はだいたいFastRotationで済ませてしまいます。

FastRotationを起動すると180°/90°時計回り/90°反時計回り/上下反転/左右反転など表示されるので最終的に表示したい方向を選択します。
(今回の網状星雲では行いません)

GradientCollection

GradientCollectionを使って撮影した画像の背景の勾配を整えます。これは以前はABEやDBEを利用していたタスクになります。どうしても複雑に整える必要がある場合には今でもDBEにすることもありますが、最近はほとんどGradientCollectionで済ませています。
またはアドオンのProcessになりますがGraXpertを使うこともあります。

GradientCollectionの画面が開かれて、デフォルト設定のまま■のApplyボタンを押します。

実行すると勾配の整った画像に更新されます。
ちょっと分かりづらいですね。

分かりやすくするために、STFのAuto Stretchをboostedモードで実行します。boostedモードでAuto Stretchを行うにはShiftを押しながらAuto Stretchボタンをクリックします。

boostedされた状態で前後を比較すると少し分かりやすいかと思います。

左がGC前、右がGC後

BXT Collect Only

続いてBXT(BlurXTerminator)をCollect Onlyで実行します。
これは画像の星像を整えることだけを行います

BXTの画面を開いてOptionsのCollect Onlyにチェックを入れてApplyボタンをクリックします。

このBXTはRC Astro社の製品で、PixInsight専用のアドオンツールです。
非常に強力に天体画像を整えるので、ぜひ購入を推奨するツールとなります。

左がBXT前、右がBXT後

ImageSolver

続いてImageSolverのScriptにて画像をPlateSolveし、データに星図上の位置(赤経赤緯)を更新します。これは次の手順のSPCCの際に必須となるため、このタイミングで実施します。

ImageSolverを起動したらSearchから対象の天体を選択し、だいたいのRA/Decが入力された状態にします。加えて焦点距離とピクセルサイズの入力を行います。これはWBPPのLightフレームに実施した設定と同じです。

SPCC

プレートソルブが終わったらSPCCで色合わせを行います。この処理は画像の星図上の位置(RA,DEC)と写る星と背景の情報からこのあたりはこの色のバランスであるという色に合わせていく処理になります。

SPCCを実際に始める前にHistogramTransformationでヒストグラムを見てみましょう。HistogramTransformationを起動したら右下のチェックマークを押してください。

そうすると左端にすごい寄った位置にヒストグラムが表示されます。さすがに見えないので表示を拡大するために、赤枠の数字を200〜300ぐらいの数値を入力します。

するとヒストグラムの横幅が拡大されて見えたことが分かります。
見てみるとRGBの山がズレていることが分かります。
基本的に天体写真において背景宇宙は黒(グレー)なためヒストグラムの山が始まる位置は揃うべきですがいまはズレています。

さてSPCCでこれを整えます。
SPCCでは私は基本的に赤枠の所しか触りません。

先にRegion of Interestを設定するために背景部分をPreviewで指定します。Preview > New Previewで作成します。

今回は左側を指定しました。

それではSPCC側に設定を行います。filterは私が使っているフィルターを指定しました。みなさん自身の機材に合わせて設定してください。
そしてRegion of InterestはFrom Previewから先程していしたPreviewを指定しました。
ここまで指定したら■ボタンで実行します。

SPCCの処理が終わると画像の色が大きく変わるとともに、グラフが表示されます。SPCCの画面とグラフは閉じてしまって大丈夫です。

次はSTFにて先程の逆で鎖マークをオンにしLinked Auto Stretchを行います。

SPCCを行った後でLinked Auto Stretchを行うと宇宙背景が黒(ニュートラルグレー)になり、星の色が整ったことが分かると思います。

比較してみるとSPCC前と後で全然違うことが分かります。

SPCCを終えたここまででリニアフェーズが終わりです。
この後ノンリニアフェーズへ移行してストレッチから進めていきます。


ノンリニアフェーズ

GHS

リニアフェーズからノンリニアフェーズへ移行するためにストレッチを行います。ストレッチにはGeneralizedHyperbolicStretch(以後GHS)を使います。これは各種有るストレッチプロセスの中で後発かつ他のストレッチプロセスを包含するような機能を持っており、当面はこのプロセスが使われることが主流になると思っています。

機能は極めて多機能でこの記事で説明するには足りないため、蒼月城さんのこちらの動画を見ていただくのが良いと思います。

実際に今回の網状星雲のストレッチはこの様に1回でストレッチしました。

BXT

続いて2回目のBXTです。今回はCollect Onlyではありません。デフォルト設定のまま実行してしまいましょう。

BXT前後で星雲の構造がハッキリしたの分かりますかね?これがBXTが最近よく利用される強力な機能ですね。

左がBXT前、右がBXT後

SXT

BXTが終わったら次はSXT(StarXTerminator)で星を分離します。こちらは実行前にGenerate Star Imageにチェックを入れて実行します。

すると元画像からは星が取り除かれて、新しく星だけの画像が生成されます。ここからはそれぞれ処理を進めて後で合成します。

なおSXTが出る以前はstarnetがよく利用されていて、私も3年前にstarnetを単体で使うための記事を書いたりしてました。

NXT

分離したらNXT(NoiseXTerminator)でノイズを抑えます。このタイミングでないといけない訳ではないのですが、私はこのあとのCurvesTransformationで強調する前に実施することが多いです。

NXTの設定はDenoiseを調整します。デフォルトが0.9なのですが、BXTではっきりさせた星雲の構造がのっぺりすることが有るので、あまり高い値では実施せずに0.2〜0.5くらいで行うことが多いです。

NXTを行うと背景のノイズがだいぶ抑えられました。

左がNXT前、右がNXT後

NXTの前後でヒストグラムもスッキリするのがよく分かります。もっとノイズが多いときにはガビガビしてるヒストグラムがよりキレイになります。

左がNXT前、右がNXT後

CurvesTransformation

さてCT(CurvesTransformation)で自分好みに強調していきましょう。
こちらがNXTが終わった状態です。

まずは彩度(Saturation)のSを選択しグラフを持ち上げます。ちょっと色が強調されましたね。

続いて色相(Hue)のHを選択し、すこし緑がかっているところを青に寄せます。

最後にRGBを選択し、ハイライト部を上げてシャドウ部を抑えます。

CTの前後はだいぶ印象が変わりますね。CTや色・強調は完全に好みの世界なので、色々試してもらうのが良いと思います。

左がCT前、右がCT後

ImageBlend

さてSXTで分離した星画像と星雲の画像をブレンドします。ブレンドにはImageBlendを利用します。ImageBlendはScriptで追加でインストールする必要があります。以下のPixInsight Forumで紹介されています。

ImageBlendの使い方も蒼月城さんの動画で紹介されています。こちらの後半の方で説明されているので見ていただくと詳細がわかるかと思います。

さて今回の画像をブレンドしましょう。正直簡単です。以前はPixelMathでブレンドしてましたが、ImageBlendを使うようになって楽になりました。

設定はBase ImageのViewに星雲画像を、BlendImageのViewに星画像を、そしてBlend modeにLinear dodge/Addを選択すると右側にプレビューされるので確認して実行するだけです。

実行すると星雲画像に星が戻ってきました。
今回はここで仕上がりとします。他にもやれることはいくらでも有るのですが、初心者向けのとにかくやってみる手順としてはこんな所だろうと思います。

WBPP直後のAuto Stretchから最終状態でだいぶ変わっているのが分かると思います。

左がWBPP直後のAuto Stretch、右が最終状態



終わりに

Projectの上書き保存

さて画像処理は終わりましたが、大事なことを忘れてはいけません。
そうです。「保存」です。

冒頭でプロジェクトの保存を説明しましたね。
忘れずに保存しましょう。

JPEG出力

続いて画像処理が終わりProjectが保存できたら完成形のJPEG出力です。SNSに上げるにも印刷するにもPixInsightの中のままだとできませんからね。

この辺は一般的なツールと同じです。File > Save Asで形式を指定して保存できます。

表示された保存画面(これはmacOSの画面)でファイル形式とファイル名を指定して保存します。

そうするとJPEGで保存する際の計画が表示されますがOKを押します。

続いてJPEG Optionsの画面が表示されるのでOKを押します。

再び出力時のフォーマット変換に関する警告がでますがOKを押します。

これでJPEGファイルを出力することができました。もちろんJPEGファイルではなくTIFFファイルにしてLightroomやPhotoshopでさらに加工してもいいですし、この辺はお好みでお願いします。

HistoryExplorer

画像処理は終わりましたが過去を振り返ることも大事です。
PixInghtにはHistoryExplorerという機能があります。左側のバーで右クリックすると表示有無を選択することができます。

HistoryExplorerにはその画像に対して行った処理がすべて残っています。ダブルクリックするとそのプロセスの設定のまま開けますし、数字の左をダブルクリックするとそこへ矢印が移動してその時の状態へ戻ることができます。
処理のたびに新しい画像をコピー生成するとこの履歴は継承されないので、私は最初に開いた状態からずっと継続して処理しています。

詳細については丹羽さんの動画を見ていただくとよく分かります。


有償アドオンについて

今回の記事では有償のアドオンであるRC AstroのBXT,SXT,NXTを使いました。これらが無くても画像処理はできますが、有ったほうが非常に効率的に処理が可能です。

正直安くは有りませんが、たまにセールもありますし余裕があればぜひ使っていただきたいです。特にBXTは高い鏡筒に手を出す前にぜひ試してほしいです。

最後に

この記事はかなりの長くなってしまいましたし、「いつもの天体撮影〜画像処理 」シリーズ全体としてだいぶ長編になってしまいました。
全部を読んでくれてる方がいらっしゃるか分かりませんし自己満足の感が否めませんが、誰かの天文趣味の一助になれば幸いです。

最後の「画像処理 (5) 画像処理後編」は書き足りない部分もあるでしょうし、PixInsightの進化ですぐ陳腐化していくことも有ると思います。ぜひ気になる所があれば追記・更新のリクエストをお願いします。
反応が有れば更新のモチベーションになります。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


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