食洗機は素晴らしい(1352文字)
我が家も出世したもので、マイホームを購入することになった。
マイホームと言っても、新築ではなく中古。
内見した際、「キッチンはリフォームします」と不動産屋に告げられた。
リフォームしなくても充分きれいなキッチンに見えたが、物件購入の契約がほぼ確定した頃、不動産屋はシステムキッチンのカタログを大量に渡してきた。
カタログを見ると、どのメーカーのシステムキッチンもビルトインの食洗機有り・無しを選択せねばならないようだった。
私は頭を悩ませた。
我が家は夫婦のみの二人世帯である。二人暮らしが一日に出す洗い物など大した量ではない。
食洗機があったらあったで便利だろうが、二人暮らしで食洗機なんて贅沢な気もする。
カタログを渡された日から、私は「食洗機は必要か? 不要か?」と毎日グダグダと悩んだ。
そして数ヵ月後、イマイチ食洗機の必要性を感じないまま、
「まあ、後から設置するのは大変そうだし、とりあえず食洗機付きにしておこう」
という消極的な理由で、私たち夫婦はビルトインの食洗機付きのシステムキッチンを注文した。
それから更に数ヵ月が経ち、私たちは夢のマイホームに引っ越した。
引っ越してから1週間ほどが過ぎ、片付けが一段落してから自炊を再開。食洗機を使う時が来た。
メーカーの説明書を見ながら覚束ない手で食器を食洗機に詰め込み、試供品のタブレット型洗剤を指定の位置に置く。スイッチを入れて扉を閉める。
食洗機はブオーンと唸りながら稼働した。
2時間後、食洗機の扉を開ける。あんなに汚れていた食器が新品のようにピカピカになっている。
凄い。これが文明の利器というものか。
私は技術の進歩に感心した。「食洗機は汚れが落ちない」という噂を耳にしたことがあったが、それは誤りだった。
そして食洗機を日常的に使うようになってすぐに、「二人暮らしに食洗機は不要では」という考えは跡形もなく消え去った。
何しろ、スイッチひとつで洗い物が終了するのである。
カレーを食べた皿だろうとなんだろうと、食洗機に突っ込めば勝手にきれいになる。
効率の良い食器の洗い順を考える労力も無くなったし、洗った食器を乾きやすくなるよう工夫して水切りかごに立て掛ける手間も無くなった。
食器用洗剤に負けていつもガサガサだった私の手は、スベスベに変化した。
忙しく過ごして疲れた日の夜、夕食後に出た洗い物を見て「はぁ~、洗いたくない....」とうんざりすることが無くなった。
洗い物にまつわるイヤなことを回避するため、食洗機を使う前は「いかに洗い物を増やさないように食器を使うか」に腐心していたが、そんな悩みは一切なくなった。
洗い物を終えたばかりなのに「麦茶ちょうだい」とコップを差し出す夫に殺意を抱く必要はもう無くなったのである。
こうして食洗機を日常的に使うようになって一年。
私は食洗機を稼働させる度に、
「食洗機が今までの人生の買い物の中でいちばんいい買い物! 食洗機最高! 買って良かった!」
と、しつこく何度も心の中でこの家電を称賛している。
食洗機付きのシステムキッチンにして本当に良かった。
自分の人生に何が必要かなんて、実際に体験してみないと案外、分からないものなのかもしれない。
食洗機は素晴らしい。
今日も私は最大限の賛辞を贈りつつ、食洗機のスイッチを入れている。
(2020年頃の出来事)