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閉鎖病棟より

私は社会から隔離された閉鎖病棟に居た。そこは優しくて温かい場所だった。そんな日々を忘れないように記録しておこうと思う。

朝「おはよ起きてーご飯きたよ、ホールで待ってるねー」優しい声で目が覚める。まだ眠い目を擦りながらホールへ行き、患者さんたちとおはようの挨拶を交わし、ご飯を食べる。朝ご飯のパン2個はおやつに取っておくのが私の習慣になった。
朝ご飯の後はみんな部屋に戻って二度寝。ホールは寂しいほど誰もいない。コロナウイルス、戦争、殺人、事故。ニュースの声だけが響く。ニュースが現実ではない感じがする。閉鎖されたこの優しい空間では平和ボケをしてしまうくらいだ。
9時くらいに担当看護師さんがバイタルを測りにくる。今日の担当は誰だろうねーなんて向かいのベットの人と話しながら待つ。やったー今日はお気に入りの看護師さんだ!とか、今日は微妙だな残念。とか今日の1日の気分が決まると言っても過言ではない。(看護師さんごめんなさい)看護師さんが来ると、調子どう?昨日は寝れた?なんて雑談をしながらバイタルを測る。この雑談が1日の楽しみだ。
10時30分の売店注文でお菓子を買う。大学病院だからコンビニの品揃えは良い。お菓子を食べる、寝ること以外することがないから、お菓子のストックは大切だ。
なんだかんだしてると11時半に昼ごはん。病院食は味が薄くて質素だってよく聞くけど、ここの病院の病院食は美味しい。唐揚げだってハンバーグだって出る。聞いたこともないメルルーサとかいう魚が出てくる時もあるけど笑 (ここまで言うと病院がバレるか!?)
ここから魔の時間が始まる。暇でしょうがない。寝てみたり、折り紙してみたり、本読んでみたり、塗り絵してみたり、テレビ見てみたり、病棟内散歩してみたり、色々するけど時間潰すのが難しい。大学病院だからOTもないし。退院する頃には暇潰しの名人になっていた。
楽しみな夕食の時間。5時半。相変わらず早い。3時に食べたパンとお菓子がまだお腹にあるよーとか言いながらも完食。
夕食の後は8時半の眠前薬までのフリー時間。患者さんとお話しで盛り上がる。今回の入院は部屋まで患者さんたちの笑い声が聞こえたり、仲良くなった患者さんと永遠とお話ししてたりしてたな〜楽しかったな〜
8時半になると放送がかかって薬を取りに行く。(私は部屋で待機して看護師さんくるの待ってたけど)その理由は拒薬してたから。理由は色々あるけど、夜勤の看護師さんがこの手その手で飲ましてくる。1人でダメならもう1人呼んだり、無理やり口開けて突っ込んできたり笑 その一方で辛抱強く(苗字)さんが上手に飲めるの知ってるよって言って待っててくれる看護師さんもいる。なんだかんだやってお薬飲んで そして早めのおやすみなさい。

ドアをガチャガチャする。と看護師さんはナースステーションから飛んできてドアから引き離す。部屋に戻されて拘束される。それの繰り返し。何度やったか。笑
ドアの前に寝転がってみる。他の患者さんが看護師さんを呼んで、看護師さんが来てもー汚いよーと起こされる。2人、3人がかりで引き摺られながら部屋に戻る。ある看護師さんはひょいと私を持ち上げて部屋まで連れて行く。

ある日、ベッドコントローラで首を絞めた。跡がついてそれを見つけた看護師さんはいつやったの?昨日?今日?質問攻めだ。部屋に連れてかれバイタルを測られる。当直の先生まで呼ばれて首の跡を確認。案の定縛られた。ごめんなさい。

今回の入院は沢山看護師さんにかまってもらった。悩みを言葉にするのが苦手な私に辛抱強く付き合ってお話しを聞いてくれた看護師さん。一緒にゲームしようって遊んでくれた看護師さん。今日は暇だからって言って一緒にテレビを見てくれた看護師さん。仲良い患者さんが退院してしまって寂しそうにしてた私に声をかけてくれた看護師さん。ご飯を食べさせてくれた看護師さん。何気ない会話をいつもしてくれた看護師さん。しんどい時しんどいって自分で伝えるんだよって何度も言ってくれた看護師さん。そして、担当でもないのにいつも話しかけてくれたリハビリの先生。みんなみんな大好きだよ。

あっという間の1ヶ月半だった。まだ居たかったって言うのが本音だけど、閉鎖病棟にずっといるわけにはいかないから、いつかは外の世界で暮らさなきゃいけない。そのいつかが来ただけ。

ここで出会った人たちは私にとっては本当に本当に大切な人たちで病気になって苦しいけれど、辛いけれど唯一病気になってよかったと思えること。
今までたくさんの優しい人たちに出会ってきたけれど、ここで出会う患者さんは優しく儚い。ここで出会う看護師さんは優しく正しい。そんな優しい人たちに囲まれてた世界は私にとってすごく居心地のいい場所だった。日常が思い出になってしまって少し寂しいけれど、沢山の交わした言葉と共に私は生きていける。大丈夫。私にはみんながいるから。

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