西洋古代史お助けブックガイド
本稿はネオ高等遊民さん(https://twitter.com/MNeeton)への、匿名メッセージ質問&回答サービス「マシュマロ」における質問と、その回答・呼びかけを受けて作成したブックガイドを、文章化・転載・一部を書き改めたものです。
(4月4日、「技術・軍制」を追記。一部の誤字を修正)
はじめに・経緯説明
まず経緯から説明しましょう。今年の2月末、哲学系YouTuberのネオ高等遊民さんのもとに、西洋古代史の通史的な本はありますか? という質問が寄せられました。
このネオ高等遊民さんの呼びかけに、まず「ヘルメス神」さんという方がオススメ書籍を紹介する形で応えておられました。プラトンが生きた時代を辿る上で有益な古典文献や事典類を、彼の生涯の重要な時期ごとに分けて挙げるというスタイルです。
※ヘルメス神さんが挙げていた図書(言及順)
〈プラトンが生まれる前〜青春時代〉
・プルタルコス「ペリクレス伝」
・プルタルコス「アルキビアデス伝」
(両方とも、プルタルコス『英雄伝(上)』ちくま学芸文庫 1996年、および、プルタルコス『英雄伝(2)』京都大学学術出版会 2007年 に訳出されています)
〈人名を調べる際に有益な本〉
・バウダー, D.『古代ギリシア人名事典』原書房 1994年
・Bowder, D., Who Was Who in the Greek World: 776 BC-30 BC, Ithaca, 1982.
〈アカデメイア創設期〉
・クセノポン『ギリシア史(全2巻)』京都大学学術出版会 1998〜1999年
・廣川洋一『プラトンの学園 アカデメイア』講談社学術文庫 1999年
・廣川洋一『イソクラテスの修辞学校』講談社学術文庫 2005年
〈晩年〉
・プルタルコス「ディオン伝」(プルターク『英雄伝(11)』岩波文庫 1956年 所収)
・ネポス『英雄伝』国文社 1995年
〈ソクラテス、プラトンをはじめとする哲学者たちの伝記〉
・ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝(上)』岩波文庫 1984年
ネオ高等遊民さんが基礎となる三冊を、ヘルメス神さんが古典文献や人名事典などを挙げていたので、私はお二方とは別の切り口でブックガイドを作成いたしました。
このブックガイドで念頭においたのは、①古代ギリシア以外に、ローマを含めて古代のヨーロッパを通史的に学べる入門書を挙げること、②ソクラテスやプラトンの生涯・思想の背景にありそうなもの(文化・日常生活・美術)をピックアップすること、の2点です。
なお、とりわけオススメの本には☆印をつけています。
noteへと転載しようと思った理由ですが、これは要するに、ツイッターに投稿したのはテキストファイルを画像ファイルにとして書き出したもので、文字をもとに検索することができない、Web上のブックガイドとしては些か不親切な代物だったからです。他にも色々思うところがあるのですが、ちょっと長くなりそうなので、その辺については他日を期したいと思います。
古代史入門
☆伊藤貞夫『古代ギリシアの歴史』講談社学術文庫 2004年
ネオ高等遊民さんが挙げていた本①。初心者から古代史を学ぶ大学生まで広くオススメできます。政治史を中心に、高度な内容を平易な語り口で解説しています。
☆桜井万里子・本村凌二『ギリシアとローマ』中央公論社 1995年(中公文庫版 2010年)
ネオ高等遊民さんが挙げていた本②。定番の一冊。カラー図版が多く、古代の社会について入門的に学べます。
☆キャンプ, J. & フィッシャー, E.『図説 古代ギリシア』東京書籍 2004年
ネオ高等遊民さんが挙げていた本③。考古学の成果を活かした入門書です。
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☆伊藤貞夫ほか『古典古代の歴史』放送大学教育振興会 1995年
古書でしか入手できませんが、ギリシア・ローマ史についてバランスよく記述した本です。
我々は何故古代史を学ぶのか、という疑問にも答えています。
・北村暁夫『イタリア史10講』岩波新書 2019年
古代から現代までのイタリアの歴史をコンパクトな形で扱うものです。
・阪本浩『ローマ帝国1500年史』新人物往来社 2011年
カエサルからビザンツ帝国の滅亡までを扱っています。全ページにフルカラー図版が添えられていて、視覚的に理解を助けてくれます。
・桜井万里子(編)『ギリシア史』山川出版社 2005年
古代から現代までのギリシア通史です。ローマ期のギリシアや、近代のギリシアを含めて一冊で読める本はなかなか無いですし、内容も良質です。巻末の参考文献も勉強する上で必要なものから、より高次の探求へ進むための外国語文献までバランスよく挙げられています。
・桜井万里子・本村凌二『集中講義! ギリシア・ローマ』ちくま新書 2017年
中級者向け。法廷弁論など、最新の研究動向を反映したありがたい入門書ではあるのですが、情報過多感があります。あと誤植が多いのが……(ボソッ)
・周藤芳幸(編)『世界歴史の旅 ギリシア』山川出版社 2003年
古代〜現代までのギリシア通史と、古代遺跡の解説を含む情報豊富な一冊。
・馬場恵二『ギリシア・ローマの栄光』講談社 1984年
考古学の知見をいち早く取り入れた入門書の一つ。紀元前5世紀の話題が中心で、ローマ史はおまけ。
・村川堅太郎・秀村欣二『ギリシアとローマ』中公文庫 1974年
古代史を学ぶ学生さんなら、読んでおいた方がいい入門書。固有名詞などに古さはありますが、戦後〜現代日本における古代史入門書の模範的存在と言っても過言ではありません。
・村川堅太郎・長谷川博隆・高橋秀『ギリシア・ローマの盛衰』講談社学術文庫 1993年
ギリシア・ローマの「市民」とは何か、という視点でもってエーゲ文明からローマの滅亡までを扱う本。やや中級者向け。
・本村凌二『地中海世界とローマ帝国』講談社 2007年(講談社学術文庫版 2017年)
ローマ帝国を、ローマ以前に存在した帝国の系譜の中に位置付ける形で捉えようとした本です。一般書でありながら、戦場跡の発掘や、聖者の伝記、ローマの「衰退」といった、現在話題の研究をわかりやすく伝えています。
☆本村凌二『はじめて読む人のローマ史1200年』祥伝社新書 2014年
ローマ史において「〜〜って何?」「何故そうなったの?」など、基本的な疑問に答えるローマ通史。
・本村凌二『一冊でまるごとわかるローマ帝国』だいわ文庫 2016年
執政官や皇帝など、ローマ史に於いて特に重要な人物に焦点を絞って書かれたローマ通史。
・本村凌二(監修)『決定版 ゼロからわかるローマ帝国』学研パブリッシング 2013年
ムック本ではありますが、ローマの歴史、戦争、皇帝、文化といったトピックを視覚的にも、本の構成的にもわかりやすい形で読者に伝えるものです。遺跡ガイド、最新の発掘動向、映画案内も付されています。
・本村凌二・高山博『地中海世界の歴史』放送大学教育振興会 2009年
シュメールからヴェネツィア、ジェノヴァまで、地中海世界について幅広く扱っています。
☆本村凌二・中村るい『古代地中海世界の歴史』ちくま学芸文庫 2012年
メソポタミア、エジプト、ギリシア、ローマといった地域の歴史を切り離すことなく、「地中海世界」として描き出したもの。美術史の視点からの解説も含んでいます。
・弓削逹『地中海世界』講談社現代新書 1973年(講談社学術文庫版 2020年)
「地中海世界とは何か」「ローマの覇権が成立したのは何故か」という問題意識をもとに執筆された本。最近文庫版で復刊されました。
文化・思想
・高津春繁『古典ギリシア』講談社学術文庫 2006年
・髙畠純夫・齋藤貴弘・竹内一博『図説 古代ギリシアの暮らし』河出書房新社 2018年
ギリシア人の言葉や文化、あるいはどのような生活をしていたかについては上記二冊を。
・岩田靖夫『ギリシア思想入門』東京大学出版会 2012年
・髙畠純夫『古代ギリシアの思想家たち』山川出版社 2014年
・山川偉也『古代ギリシアの思想』講談社学術文庫 1993年
「ソクラテスやプラトンが生きた時代の背景」になった、どちらかといえば思想の伝統を知る上で役立ちます。
・桜井万里子『古代ギリシアの女たち』中公文庫 2010年
古代におけるジェンダーやセクシュアリティの問題を知りたくなったら、まずはこの本をご参照ください。
・桜井万里子・橋場弦(編)『古代オリンピック』岩波新書 2004年
古代のオリンピックの歴史、競技の実態、古代人が何を求めて競技に参加したのかなどを教えてくれます。
・アヌーン, R. & シェード, J.『ローマ人の世界』創元社 1996年
・グリマル, P.『古代ローマの日常生活』文庫クセジュ 2005年
・樋脇博敏『古代ローマの生活』角川ソフィア文庫 2015年
ローマ人の文化や日常生活についてはこちらの三冊をオススメします。
・クナップ, R.『古代ローマの庶民たち』白水社 2015年
・ケッピー, L.『碑文から見た古代ローマ生活誌』原書房 2006年
・本村凌二『古代ポンペイの日常生活』講談社学術文庫 2010年
ローマの文化や日常生活について、より詳しく知りたい人はこちらを。
・中村るい『ギリシャ美術史入門』三元社 2017年
ギリシア美術の歴史的位置付けのみならず、鑑賞法や最新の解釈も優しい語り口で提示してくれる一冊です。
・Pen編集部(編)『美の起源 古代ギリシャ・ローマ』阪急コミュニケーションズ 2014年
古代美術についてはこちらもオススメです。フルカラーで図表・補足説明も豊富。後半部は有名な近代絵画の元ネタとなった神話について、絵と対置する形で説明しています。
・庄子大亮『世界を読み解くためのギリシア・ローマ神話入門』河出ブックス 2016年
・丹羽隆子『ギリシア神話の森』彩流社 2016年
・藤村シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2015年
ギリシア神話については、ここ数年間で良著が多く出版されました。
ギリシア・ローマ以外の、「古代のヨーロッパ」に関わりそうな入門書
・エッシェー, K. & レベディンスキー, I.『アッティラ大王とフン族』講談社選書メチエ 2011年
・鶴岡真弓・松村一男『図説 ケルトの歴史』河出書房新社 1999年
・林俊雄『遊牧国家の誕生』山川出版社 2009年
スキュタイ人、ケルト人、フン族といった、ギリシア・ローマ以外の、「古代のヨーロッパ」を考える上で重要な人々について扱った本です。
・半田元夫『キリスト教の成立』近藤出版社 1970年
少々古い本ですが、初期キリスト教について概観するならこの本をぜひ。
技術・軍制
・クーロン, G. & ゴルヴァン, J.-C.『絵で旅する ローマ帝国時代のガリア』マール社 2019年
・フォーブス, R.J.『古代の技術史(上・中・下1・下2)』朝倉書店 2003〜2011年
私の後輩に挙げていただいたオススメ本です。
・シムキンズ, M.『ローマ軍: カエサルからトラヤヌスまで』新紀元社 2000年
・セカンダ, N.『共和制ローマの軍隊: 200BC‐104BC 地中海の覇者』新紀元社 2001年
ローマの軍隊に関わる本です。彩色イラストが多く、考証もしっかりしており、入門者向けにおすすめとのことです。2020年4月現在、中古価格も高騰しておらず、入手は容易かと思います。
(以上4冊を紹介してくれたHさん、ありがとう)
・ハンセン, V.D.『図説 古代ギリシアの戦い』東洋書林 2003年
こちらは古代ギリシアの戦争を解説する、というよりも古代の戦い方や、古代人は戦争をどう考えたかといった、戦いの実態に迫った本です。ギリシアの戦争に関わる類書はいくつかありますが、できればこの本をまず読んでほしいと思います。