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聴衆の感動と演奏者の葛藤: 背中合わせの真実


聴く側は「感動した」、弾く側は「失敗した」?

あの日の夜、ステージで演奏を終えたあと、私は控え室でひとり反省していました。「今日の演奏、全然ダメだった…」と思わず口に出してしまうほどです。指が思うように動かなかった部分、入り方を間違えたフレーズ、そして自分自身に失望する心。そんな私のもとに、一人の聴衆が近づいてきて言いました。

「本当に感動しました! 素晴らしい演奏でした。」

一瞬、何を言われているのかわかりませんでした。あの演奏が? 本当に?それとも気を遣っているだけ?心の中でそんな疑問が渦巻きました。


弾く側のマインド「完璧な演奏を目指して」

演奏する側の私たちは、常に頭の中で「完璧な演奏」を描いています。「ここではもっと柔らかいタッチを」「あのフレーズは絶対に間違えない」と、何度も練習を重ね、理想に近づこうとします。でも、少しでもその理想から外れると、途端に自己評価は急降下してしまいます。

ミスが気になり始めると、演奏中も心はざわつき、どんどん演奏そのものから意識が遠ざかります。そして演奏後、全てが終わった瞬間、その「失敗」の感覚だけが残るのです。


聴く側のマインド「全体を感じている」

一方で、聴いている側の人たちはどうでしょう?

実は、私たちが気にするようなミスはほとんど気づかれていないことが多いのです。聴衆にとって重要なのは、「音楽そのもの」や「演奏から感じる情熱とエネルギー」。むしろ、小さなミスがあったとしても、演奏者の真剣さや努力が伝われば、それが一層感動を生むことさえあります。

「あの人、一生懸命だったな」「心から音楽を届けようとしてくれた」そんな印象を持たれることが多いのです。


自分を責めない勇気

もちろん、演奏者として向上心を持つことは大切です。でも、ミスを恐れすぎるあまり、音楽そのものの楽しさを見失ってしまうのは本末転倒です。

ミスをしてしまったら、次の瞬間に笑顔を浮かべてみましょう。その余裕こそが、聴衆には「プロフェッショナル」として映ります。そして何より、自分自身が演奏を楽しむことが、結果的に最も素晴らしいパフォーマンスにつながるのです。


結論: 聴く側と弾く側のギャップを楽しむ

弾く側の「失敗」と聴く側の「感動」は、不思議な背中合わせの関係にあります。このギャップを知ることができたら、きっと次にステージに立つ時の心持ちは少し変わるはず。

だからこそ、失敗を恐れるのではなく、その瞬間を楽しみましょう。そして次に観客として演奏を聴くとき、その演奏者の心情やギャップにもぜひ目を向けてみてください。

あなたが最近「感動した」と思った演奏、その演奏者はどんな気持ちだったのでしょうか?ぜひそのギャップを感じてみてください。

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