【短編小説】悩むフリ
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君の気を引きたくて、ずっと悩んでいるフリを続けている。
こうして机に頬杖をついていると、優しい君はわたしに話しかけてくれるんだ。
「どうしたの、何かあった?」
「別に、何も」
嬉しくて声が上ずりそうになるのをグッとこらえる。髪を伸ばしておいてよかった。緩んだ顔を隠せるから。
本当はもっと君といろんなことを話したい。昨日見たテレビの話とか、今度のテストのこととか。でも、今はこの距離感がすごく心地いい。わたしを気にしてくれる。それがとてもくすぐったい。だからやめられない。やめたくない。
例えばもしも、このフリのせいで君に嫌われちゃったら。考えたくないことが頭をよぎると途端に不安になって、胸の辺りに重いものがぶつかる。眉間のあたりがきゅっとしてくる。
「やっぱり、何かあった?」
そう言って君は顔を覗き込んでくる。大きくて綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。まずい。それは不意打ちだ。
「なんだよ。何笑ってんだよ」
もう悩むフリもできなくなってしまった。