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【短編小説】悩むフリ

423文字/目安時間1分


 君の気を引きたくて、ずっと悩んでいるフリを続けている。
 こうして机に頬杖をついていると、優しい君はわたしに話しかけてくれるんだ。

「どうしたの、何かあった?」
「別に、何も」

 嬉しくて声が上ずりそうになるのをグッとこらえる。髪を伸ばしておいてよかった。緩んだ顔を隠せるから。
 本当はもっと君といろんなことを話したい。昨日見たテレビの話とか、今度のテストのこととか。でも、今はこの距離感がすごく心地いい。わたしを気にしてくれる。それがとてもくすぐったい。だからやめられない。やめたくない。

 例えばもしも、このフリのせいで君に嫌われちゃったら。考えたくないことが頭をよぎると途端に不安になって、胸の辺りに重いものがぶつかる。眉間のあたりがきゅっとしてくる。

「やっぱり、何かあった?」

 そう言って君は顔を覗き込んでくる。大きくて綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。まずい。それは不意打ちだ。

「なんだよ。何笑ってんだよ」

 もう悩むフリもできなくなってしまった。

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