【短編小説】かけら
938文字/目安2分
気晴らしにベランダに出ることにも、寒さのせいで身構えるようになってきた。
だけど、部屋の中にずっといたら自分が腐っていく気がする。わざわざコートなんかを着て、マフラーもして、淹れたばかりのコーヒーを片手に窓を開け外に出た。
冷たい空気が、ぴしぴしと体にあたる。
ほう、と息を吹けば、白く舞い上がって風に溶けていく。
目の前に高い建物はない。町を見渡せるこのベランダはお気に入りの場所になっている。
つい最近まで、この時間の太陽はまだ空の高いところにあったはずなのに。日がかなり短い。少し目を離すとどんどん沈んでいって、季節の流れにすら置いてけぼりにされているような気がしてくる。
あっという間に夜か。
冬の寒さが火照った体の輪郭を小さくする。風がどんどんすり減らしていくから、その隙間をどうにかして埋めたくなるんだ。それで人の温もりを求めようとするのは、ある意味当然のことなのかもしれない。
誰かに話を聞いてほしい。誰かと一緒にいたい。誰かの体温に触れたい。そういうものが、きっと渦巻くのだろう。
マグカップはすっかり冷えてしまった。コーヒーはほんのりと温かい。なんとなく飲む気にはならず、手に持ったままにしている。指先は真っ赤。手袋もしてくればよかったかな。
いつも何かが足りない。いつも何かが欠けている。だけどそれが何かはわからない。
生活に不自由はない。完全にないかと言えばそうではないと思う。不満、ストレス、楽しみ、ラッキー。やりたいのにできない。欲しいのに手に入らない。願うのに叶わない。生きていればどうしてもいろいろあるけど、それらはうまくバランスが取れていると思う。だけど、それでも埋まらない。
たぶん、一つあればいいものではなくて、かけらみたいに細かくあちこちに散らばっているんだ。どんなに集めても、埋まることはない。
だめだ、もう寒くて仕方がない。体が震える。部屋に戻ろう。
やることは山積み。この時期は何かとバタバタするんだ。一日が飛ぶように過ぎてしまうのは、振り返ることと思い描くことを同時にやるから。いつもより少しだけ、今がおざなりになってしまうから。
これまでのことを背負ったまま。そしてこれからのことを抱え込んだまま。
あぁ、今年も終わるんだな。
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