【短編小説】時がとまる
517文字/目安1分
視界に入った瞬間、全身が一つの心臓になったかのように、ドクンと大きく脈を打った。
雷に打たれた感覚などとよく言うが、それとはまた違う。でも、もう気になっちゃって仕方がない。目が離せない。逸らしても見てしまう。
こんなことが、まさか自分に起こるとは。
ちっちゃい顔に黒マスク。茶色の髪は肩を越えるくらいの長さで、おそらくパーマをかけている。切り揃えられた前髪がとてもいい。黒いプルオーバーのパーカーを着ていて、見えないけどショートパンツを履いている。大胆に細い足を出したその先には黒のスニーカー。
その子はそんな格好をしていた。
誰にも目もくれずスマホをいじっているが、時折笑っているような表情になるのが目元から分かる。それがかわいくて仕方がない。きっと優しくて健気でちょっとわがまま。なんとなくの雰囲気で絶対そう。
彼女と話すこと行く場所何気ないひと時、それらが走馬灯みたいに脳内に流れてくる。今すぐ現実にしたい。
見ていたい、近づきたい、話しかけたい。後ろからそっと抱きしめたい。迷惑そうにするけど、まんざらでもないのが滲み出る感じ。
あぁ、こんなの幸せだ――。
ふと気がつくと、その子はもういない。どこかに行ってしまったようだ。