自分語りな自己紹介~少年期4~
”デビュー”は興奮と緊張の連続で、只々チームに着いて行くのがやっとでした。R君のケツ持ちがあったのも、かなりの安心感でした。
暗闇に輝くそれぞれの単車、静まり返った街を震え上がらせる轟音・・・
その全てが”神経質”な僕の”心”を鷲掴みにし、そして奮い立たせ、包み込んでいました。”いつか”の孤独をかき消す様に・・脆く、切なく・・・
上手く警察を”巻いた”メンバーは、各々に散ります。蜘蛛の子を散らすって奴です。検問以外はパトカーも精々2、3台での追尾です。細い路地や、住宅街の抜け道を上手く駆使して逃げ切るのです。だから自然に道にも詳しくなります笑。
”その時”僕はほとんど家には帰らず、Y君の家か、たまり場が拠点となっていました。帰っても静まり返った家ですし、つまらないですよね笑。
上手く逃げさせてもらえた僕は、たまり場へ帰る事にしました。”ある人”に
”初暴走”を報告したかったのです。
単車にシートを掛けた僕は足早に、”その”人のいる部屋に駆け上がって行きました。
小学生から通うその”たまり場”というのが僕が”A”と慕う5つ上のお姉さんの家です。Aの家は父子家庭で、お父さんが家にいるのをほとんど見た事がありませんでした。
”A”は茶髪の長い髪、薄い紫色のルージュ、安物の香水の香り、笑うと八重歯の可愛い、背のスラッとしたお姉さんでした。
「ただいま!」 珍しく”幼馴染の仲間”は誰もいません。”部屋”も暗いままでした。”ピーチツリーフィズ”の甘い香りが悲しく漂っていました。
「A、ただいま・・・。寝てるの?」応対がありません。電気をつけると”そこ”にAはいます。
「なんだ、起きてるじゃん!ねぇ、聞いてよ!今日さ初暴走でさ、ぼ・」
”バチン!!” 「え?」・・・涙目のAが僕の頬を平手打ちしたのです。
「ysk変わったね・・・」 「・・・」
「どんどん遠くに行っちゃう・・・」 「・・・」
「皆、私から離れて行くんだ・・いつもそう。」 「・・・」
「上手く利用されてるだけなんだ私は・・・」 「ち、違うよ!」
「違わないよ。結局最後はいつも一人ぼっち。」 「どうしたの?何かあったの?僕でよければ話聞かせて。」・・・あーっ!何故そこで抱きしめない!”ギュッ”と抱きしめて、「大丈夫。俺がいるから。」なんて事言うのが
「漢」でしょ(汗) 子供ですねそこはやっぱり。
ただ戸惑いながら、涙を流すAを見つめているだけでした。只々”恋する”その人を・・・
やがて落ち着きを取り戻したAと色々な話をしました。Aが小学生だった頃の話、初恋の話、高校を辞めた時の話。”デビュー”で疲れきっているはずなのに明け方まで”2人ぼっち”でずっと・・・
すると話は”ゼファー”の話になりました。僕がこの単車だけは”命”をかけて守り抜く!と心に誓った話です。Aには”兄”がいました。バイク事故で亡くなったと聞きました。お兄さんも”暴走族”で、ある日の暴走中、警察の追尾から逃げている最中に対向車と正面衝突をして亡くなりました。即死でした。亡くなったお兄さんが乗っていた単車こそ、僕が乗っている”ゼファー”だったのです。
驚きと戸惑いが一気に押し寄せました。Aと、僕が所属するチームの皆は昔からの知り合いで、事故のあと”ゼファー”は廃車にせず、皆でコツコツと修理をし、”遺品”として大切に保管していたのだと聞かされました。
「そんな大切な単車を・・ごめんなさい!すぐにお返しします!何も知らずに・・本当にごめんなさい!」
「いいんじゃない?だってほら、Yがyskに”譲って”くれたんでしょ?アイツ昔から不器用でさ笑。すぐ分かるんだ笑。きっとね、M君に怒られると思ったんだよ。今まで何回も””ゼファー”譲ってくれってお願い、全部断ってたのに笑。自分から、しかも売るなんて絶対しないもんYは笑。大金積まれてもね。”ゼファー”乗っててM君に何か言われた?毎日毎日、綺麗に磨いて何度も何度も練習してたでしょ?聞いてたんだねM君。」 「うん・・」
既に朝日が当たるその部屋で僕はいつの間にか眠りに落ちていました。
どれくらい寝ていたのでしょう。目を覚ますと、外は夕方になっていました。”部屋”にAの姿はありませんでした。綺麗に整頓されたテーブルに、ポツンと一枚手紙がありました。
【 おはよう!冷蔵庫にご飯あるから食べるんだよ♡それから昨日の話は内緒です笑。いってきます!】 Aはアルバイトに行ったようでした。
寝ぼけ眼と汗ばむシャツで、”その”手紙を何度も何度も読み返していました。何度も何度も・・・「ファーストキス」でした。
「あー腹減ったなぁ!」冷蔵庫には、キレイにラップされた”ハンバーグ”が早く食べてと言わんばかりに入っていました。「うん!美味い!」口いっぱいにそれを頬張ると、にやけ顔の僕がそこにいました。
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