ナイアガラ滝の昔と今(3)
後退する滝
いちど滝が形成されると、その場であらわになった岩盤は、急流をなす水や土砂により、徐々に削られていきます。こうした岩盤の侵食が続くと、滝の位置はどんどん上流へと移動していきます。これを「滝の後退」といいます。
ナイアガラ滝の場合は、1万年前の形成から今に至るまで、全体で約11 kmも後退しました。平均すると年間で約1 mという速さです。ただし、毎年ずっと1 mずつ、というわけではありませんでした。たとえば、約1万年前からはじめの5000年間は、ナイアガラ川も今と流出経路が異なり、少ない流量でわずか1 kmしか後退しなかったと推定されています。その後には、たとえば年間2 m以上など、もっと速く後退していた時期もあったようです。しかし、現在のナイアガラ滝は、何10年もほとんどかたちが変わっていないようにも見えます。その理由は何でしょうか?
実は、ナイアガラ川沿いにある、カナダ・アメリカ両国の水力発電がその理由のひとつになります。ナイアガラ川の水と、滝から続く峡谷の落差を利用し、20世紀には発電のための取水が始まりました。一方、滝は重要な観光資源なので、今では日中の流量はそれなりに確保されていますが、それでも、滝を通過する水の総流量は自然の状態から比べると大幅に減りました。
では、もうひとつの理由は?・・・それは、滝のかたちの変化にあります。今では大きく湾曲した馬蹄形をなすカナダ側のHorseshoe Fallsも、100〜200年前にはもっと直線的なかたちをしていたことが、当時の絵画から読み取れます。また、歴代の測量図を比較しても、やはり滝のかたちがだんだんと奥まってきていることがわかります。つまり、滝のかたちが徐々に湾曲していくこと、つまり幅が広がることで、同じ水の量でも滝の肩(落ち口)にかかる力が分散され、侵食が遅くなる一因となりました。
こうしたことによる結果、現在のナイアガラ滝の後退速度は、せいぜい年間数 cm程度と言われています。
ナイアガラ滝の昔と今(2)← →ナイアガラ滝の昔と今(4)