グラウンド・ゼロで考えたこと
グラウンド・ゼロを訪れて
▼3年前の2017年7月末にマンハッタンを訪れた時,2001年9月11日の同時多発テロが行われたグラウンド・ゼロに行くことができました。ツイン・タワーの跡地はこの写真のように淵から水が流れ込む池になっていて,その周囲には一連のテロで亡くなった人々の名前が刻まれていました。所々に,アメリカの国旗や花が差し込まれ,遺族らしき人が紙を乗せて鉛筆でこすり,拓本をとる姿も見られました。ここはいわば,共同墓地のような役割を果たしているとも言えるでしょう。
▼その近くには,新しく建設された One World Trade Center がそびえたっていました。残念ながらこの時は訪れることができなかったので,いつかまたニューヨークに行ける機会があったらその時には是非尋ねてみたいと思いますが…。
▼ツインタワーの基礎部分に沿って,9/11 Memorial Museum が建っています。この入口も一般客用と遺族用に分かれていて,建物の中には亡くなった人たちのプロフィールや生前の写真を閲覧できる場所もありました。
▼これは崩壊で歪んだ鉄骨です。まるで段ボールのようにぐにゃりと曲がり,引き裂かれていました。館内にはこうした瓦礫が展示されています。
▼ "The Survivors' Stairs"("The Survivors' Staircase") と呼ばれる,世界貿易センターの敷地内で地上で最後に残った構造物です。
▼この柱は,最後に撤去されたもので,いたる所にメッセージが書かれ,写真などが張り付けられています。
▼犠牲者の顔写真を使って作成した星条旗です。
▼犠牲者を追悼するために子どもが描いた絵です。
▼"The New Yorker" 誌の表紙です。9.11 前のものと9.11以後のものが展示されていました。
▼在りし日のツインタワーの姿です。
▼ツインタワー最上部のアンテナです。
▼倒壊に巻き込まれたはしご車です。
▼これらは展示物のごく一部です。また,撮影不可のエリアがあり,そこでは,ペンタゴンに突っ込んだ飛行機の残骸なども展示されていました。
常に戦争中の国,アメリカ
▼これらの展示物を見ていて,なぜかふと思ったのは「ああ,この国(アメリカ)は今も戦争中の国なのだ」ということでした。戦争を行っていない日本人の自分からすると,何か異様な緊張感を感じ取ったのです。
▼国家としてアメリカ合衆国が独立を宣言したのは1776年7月4日。ヨーロッパに比べて歴史が浅い国ですが,現在では世界一の超大国となりました。しかし,その歴史はいわば「常に武力で他国を蹂躙し続けて覇権を拡大してきた国」だと言えるでしょう。
▼第二次大戦後,1989年12月3日まで続いた旧ソ連との冷戦時代でも,朝鮮戦争やベトナム戦争などを通じて戦争は実質的に継続されてきました。冷戦終結後はイスラム世界との対立が顕在化・激化し,その帰結の一つがこの2001年9月11日・アメリカ同時多発テロ事件でした。
▼私が訪れたのはそれから16年経った2017年7月末でしたが,このテロ事件を契機に警備が強化されたようで,飛行機に乗る時のボディチェックや持ち込み品検査の強化にとどまらず,マンハッタンでは,自由の女神やこのメモリアルミュージアム,そして摩天楼の展望台に入る時でも必ずボディチェックと手荷物検査が行われていました。
▼こうした警備の物々しさが物語るものは,アメリカが今も世界のどこかで戦争を行っている国である,という事実でした。実際,この時にはISILとの戦争(生来の決意作戦)が進行中で,私が訪れた4か月後の2017年11月にはマンハッタンでISILに忠誠を誓ったとされる男によるテロ事件が起こっています。
NY車突入テロ8人死亡 容疑者、イスラム国に忠誠か
2017/11/1 8:39 (2017/11/1 10:45更新)
ニューヨーク・マンハッタン南部で31日夕(日本時間11月1日早朝)、ピックアップトラックが自転車専用道に突入し、ニューヨーク市当局によると、8人が死亡、11人が重傷を負った。ニューヨーク市警は容疑者の男を拘束した。トランプ米大統領は声明で「卑劣な攻撃」と非難し、米連邦捜査局(FBI)もテロ事件として捜査を始めた。
米メディアによると、拘束されたのはウズベキスタン出身のサイフロ・サイポフ容疑者(29)で、米南部フロリダ州や東部ニュージャージー州に住んでいた。メディアは容疑者がアラビア語で「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだとの目撃証言を伝えた。米ニューヨーク・タイムズ(電子版)は犯行に使われた車両近くで、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うメモが見つかったと報じた。
次の火種
▼ここ数年,アメリカは中国との対立関係が非常に激しくなっています。特にコロナウイルスのパンデミックを巡るトランプ大統領の中国に対する発言は中国に対する強い敵愾心を反映しています。中国も中国で,香港での民主化運動の弾圧に代表されるように,中国共産党による一党独裁支配体制を強化する動きが激しくなっており,さらに先日は中国の習近平主席が「食べ物を無駄にするな」という指示を出したという報道がありました。おそらくこれはアメリカが対中国食品輸出規制を行うことに備えているためではないでしょうか(実際,以下の記事ではそのような見解について報じられていました)。
新華社通信は11日、「習主席が食料の浪費行為を減らすよう指示を出した」と伝えた。中国では相手をもてなすために、食事会などでは食べ残すほど注文するのが一般的だ。
習主席の指示を受け、注文の量が減り業績が悪化するとの懸念が強まり、12日の香港株式市場では中国の飲食店株が下落した。火鍋チェーン大手の海底撈国際控股は一時、前日比2.20香港ドル(5.1%)安の40.55香港ドルまで売られた。
▼万が一,アメリカと中国が戦争を始めるような事態が生じた場合,確実に日本は巻き込まれます。日米安保条約が発動されるでしょうから,日本の自衛隊が中国を攻撃することにもなりかねないでしょうし,中国側も日本にあるアメリカ軍の基地を攻撃するでしょう。そして,恐ろしいことに両国の指導者はきわめて好戦的なタカ派で,おそらく,日本のことなど眼中にはないでしょうから,日本がいくら被害を受けたところで彼らには痛くも痒くもないはずです。
▼これは悲観的な最悪のシナリオではありますが,今のアメリカと中国の対立を見ていると,可能性がゼロだとは言えないでしょうし,本来,両国と深いつながりのある日本はアメリカと中国の調整役を務めるべきなのですが,もはやそれだけの力のある政治家は日本には存在しないでしょうし,日本の国力自体も非常に低下していて,アメリカも中国も日本のことなど聞く耳を持たないでしょう…。
▼日本にいると,平和のありがたさをつい忘れてしまいます。そして,常にどこかと戦争をしている国々が存在しているということを忘れてしまいがちです。中国には270万人近くの人民解放軍が,そしてアメリカには214万人の兵士がいて,さらに両国とも軍需産業が存在しています。逆説的ですが,そうした人々を「食べさせる」ためには戦争をし続けねばならない,という側面があることも確かです。ちなみに,以下の軍事力ランキングでは日本は第6位に位置付けられています。アメリカが第1位,中国が第3位です。
▼3年前にグラウンド・ゼロをぼんやり眺めていた時には,「ああ,アメリカは戦争中の国なのだな」というぼんやりしたイメージしか湧いてきませんでしたが,こうして米中の対立が激化し,その狭間に位置する日本にも火の粉が降りかかってくる恐れが出てくると,残念ながら「万が一,日本が巻き込まれたら」という悲観的な想像が現実味を帯びてきます。
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