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忘れ得ぬ言葉:9/11によせて
▼今から19年前の2001年9月11日。ニューヨークのシンボルともいえるワールドトレードセンター(WTC)のツインタワーにテロリストがハイジャックした飛行機が突っ込みました。テロリストは4機の飛行機をハイジャックし,2機がツインタワーに,1機がペンタゴンに,もう1機がピッツバーグ郊外で墜落し,約3,000人が亡くなりました。
▼以前にも書きましたが,3年前にマンハッタンを訪れた時,グラウンド・ゼロとそこに隣接する 9/11 Memorial Museum を訪問しました。
▼9/11 Memorial Museum の撮影禁止エリアの壁に,目的者の証言が書かれていました。その中で,私の心に深く突き刺さった言葉がありました。それは高層階から飛び降りた女性を目撃した人の言葉でした。この文言の近くでは,実際に人々が飛び降りる映像が流されていました(その脇に涙を拭くためのティッシュペーパーとゴミ箱が備え付けられていたのが印象的でした)。実は以前にYouTubeでこのテロの動画を見ていた時,たまたま同じ映像を見たことがあったのですが,この証言は Memorial Museum で初めて読んで,衝撃を受けました。
“She had a business suit on, her hair all askew. This woman stood there for what seemed like minutes and then she held down her skirt and jumped off the ledge. I thought, how human, how modest, to hold down her skirt before she jumped. I couldn't look anymore.”
(彼女はビジネススーツを着ていました。髪は全て斜めになっていました。この女性はそこに数分間と思しき間立ち,それからスカートを押さえて,出っ張りから飛び降りました。私は思ったのです。スカートを押さえてから飛び降りるなんて,なんと人間的なのか,なんと慎み深いのか,と。私はそれ以上見ていられませんでした。)
▼これがツインタワーの北棟,南棟のどちらの目撃証言なのかはわかりませんが,北棟は93-99階に(8時46分40秒),南棟は77-85階に(9時2分59秒)それぞれ飛行機が激突して,ジェット燃料と建物内部の可燃物による大規模な火災が発生し,その炎から逃れるために高層階に残された人々は窓を割って,なんとか生き延びようとしていました。この女性もその一人だったのでしょう。
▼しかし,炎が迫り,あるいは力尽きて,次々に人々が飛び降り始めます。正確な数はわかっていませんが,およそ200人がそのようにして飛び降り,亡くなったと言われています。
▼焼死するか,飛び降りるか。その二者択一しか残されていない時,人は何を思うのでしょうか。先の目撃証言の "I thought, how human, how modest, to hold down her skirt before she jumped."(私は思ったのです。スカートを押さえてから飛び降りるなんて,なんと人間的なのか,なんと慎み深いのか,と) という言葉から,この女性がスカートを押さえてから飛び降りたのは ― 何億分の一かはわかりませんが ― 「ひょっとしたら生き延びられるかもしれない」と,一人の女性として,一人の人間として,最後の最後まで希望を捨てなかった証ではないか,と思うのです。
▼もしも自分が彼女の立場だったらどうしただろうか,と時々思いを巡らせます。おそらくは,炎から逃れるために同じように飛び降りざるを得なかったでしょうが,どう考えても助かる見込みはない状況で,最後の瞬間まで生きる希望を持ち続けられるだろうか,人間としての尊厳を保ち続けることができるだろうか,と。
【※閲覧注意】以下のリンクには,人々が飛び降りる様子を写した画像があります。