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「つながり」を読み解く英文読解(24)~情報構造⑩:情報運搬構文(6)~

▼今回も情報運搬構文(information packaging)の続きです。前回までで,9つの情報運搬構文のうち7つを扱いました。今回は残る2つの〈[8] 左方転移〉と〈[9] 右方転移〉を扱います。

【1】転移(dislocation)とは

▼転移(dislocation)とは,名詞(句)を本来の位置から左,または右に移動させ,もともとその名詞(句)があった場所に,その名詞(句)に相当する代名詞(又は言い換えられた名詞句)を置いたかたちのことです。以前お話しした前置(左方移動)や後置(右方移動)では代名詞は置かれず,元の位置は空白になっていましたが,転移の場合,代名詞が用いられるため,一見したところ,名詞(句)が余っているような印象を受けます。なお,転移は口語表現のようなくだけた文体で主に用いられます。

In both cases a noun phrase has been preposed, but a ‘copy’ is left in the regular position of the NPs in the shape of a pronoun.
(両者の場合において,名詞句が前置されたが,「コピー」が代名詞のかたちでその名詞句の本来の位置に残されている。)
Aarts, Bas. Oxford Modern English Grammar, Oxford University Press, p.319
In (34) the Direct Object is displaced to the right, with a ‘copy’ in the shape of a pronoun in the ‘regular’ Direct Object position. This process is called right dislocation. When
((34)においては直接目的語が右側に転移され,直接目的語の「本来の」位置に代名詞のかたちの「コピー」を伴っている。)
Aarts, Bas. Oxford Modern English Grammar, Oxford University Press, p.322

▼転移では,名詞(句)が元々あった位置に置かれる代名詞は主格・所有格・目的格のすべて使えますが,前置や後置の場合,目的格の名詞句しか移動できません。

(1a) The old man, I know his address.[左方転移]
(その老人と言えば,ぼくは彼の住所を知っているよ。)
(1b) *The man's, I know Φ address.…×
⇒所有格の名詞を前置することはできません。

(2a) The old man, he stole my money.[左方転移]
(その老人と言えば,彼はぼくの金を盗んだんだ。)
(2b) *The old man, Φ stole my money.…×
⇒主格の名詞も前置することはできません。

【2】左方転移(left dislocation)

▼文頭に名詞(句)を移動させ,もともとその名詞(句)があったところに,その名詞(句)に相当する代名詞(又は言い換えられた名詞句)を置いたかたちのことです。前置(左方移動)では代名詞は置かれませんでしたが,左方転移では代名詞が置かれることに違いがあります。また,左方転移では,複雑な名詞(句)が左に移され,その名詞(句)がもともとあった位置には代名詞が置かれるため,文構造を単純化する働きもあります。

(a) That money I gave her, it must have disappeared.
(b) That money I gave her must have disappeared.
([話は変わるけれど]私が彼女にあげたあのお金と言えば,間違いなくなくなってしまったよね。)
Huddleston, Rodney. The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge University Press, p. 1366

▼左方転移の働きは以下の2通りです。

① 新情報を導入する際,その情報の処理を単純化するため

My sister and her husband were having a terrible fight, and she started to scream. [The landlady, she went up,] and she told them she was going to call the police.
(私の妹とその夫がひどい喧嘩をしていて,彼女が叫び始めたんだ。女将さんがね,彼女が上にあがってきて,警察に電話するよと彼らに告げたんだ。)
Huddleston, Rodney. The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge University Press, p. 1410

⇒ The landlady は新情報ですが,一旦新しい話題として提示した後に she という代名詞に置き換えることで,新しい情報を受け手が受け取りやすくしています。

② 先行する情報との関連付け

I hate writing term papers. [An exam, you take it and you’re done.] But papers seem to drag on forever.
(私は学期末レポートを書くのが大っ嫌い。試験なら,受けてそれで終わり。でもレポートは永遠にずるずる続くように思えるの。)
Huddleston, Rodney. The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge University Press, p. 1410

⇒ 試験(an exam)は一見したところ新情報ではありますが,前にある「学期末レポート(term papers)」と対比された内容で,どちらも学校の成績と関係する関連語なので,先行する情報との関連付けが行われていると考えられます。

【3】右方転移(right dislocation)

▼右方転移とは,左方転移とは逆に,名詞(句)が文末に移動され,もともとその名詞(句)があった位置にその名詞(句)に相当する代名詞が残る形のことです。なお,この場合,文末に移動される名詞(句)は旧情報でなくてはなりません。

(a) They’re still here, the people from next door.
(b) The people from next door are still here.
(彼らはまだここにいますよ。隣の家の人たちが,ってことね。)
Huddleston, Rodney. The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge University Press, p. 1366

⇒ (a)の文末にある the people from next door は文頭の They のことです。

この構文は,話者が話し始めには代名詞を使っても聞き手にそれが何を指しているかわかると考えているのですが,途中で代名詞の指すものを聞き手が正しく理解できないのではないかと考え,文末にその代名詞の指すものを付加的に付け加えるものです。
(中村捷『実例解説 英文法』(開拓社),p.369)

▼そのため,右方転移が用いられた文では,本来の〈旧情報⇒新情報〉という流れに反する情報の流れになります。

34 I married her, the woman I mentioned to you.
(私は彼女と結婚したんだ。以前君に言ったあの女性とね。)

This pattern can be used in a situation in which the speaker thinks that the hearer may not be sure who the pronoun her refers to. For clarity the full referential NP is spelled out. This pattern is noteworthy because the right-dislocated constituents represent given information, and the Given-Before-New Principle is thus overridden.
(このパターンが用いられうるのは,代名詞 her が誰を指しているのか聞き手がわかっていないかもしれないと話し手が思っているような状況である。明確にするために,指示されている名詞句全体が略さずに書かれている。このパターンが注目に値するのは,右方転移された構成要素が旧情報を表しており,それゆえに「旧情報が新情報に先行する原理」が無視されているためである。)
Aarts, Bas. Oxford Modern English Grammar, Oxford University Press, pp.322-323

▼右方転移の働きは以下の2通りです。

① 先行する代名詞の内容を明確化する

My dad was telling my uncle about how you had said you’d solve the financial problems of your business. It took a while to explain it, because [he didn’t really understand what you planned to do, my uncle].
(ぼくの父さんがぼくのおじさんに,君の仕事の財政的な問題を君が解決したことをどんな風に語ったかについて話したんだよ。それを説明するのにちょっと時間がかかったんだ。というのも,彼は君が何を計画していたのか実際には知らなかったからね。あ,ぼくのおじさんが,ってことね。)
Huddleston, Rodney. The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge University Press, p. 1411

⇒ he という代名詞は,ここでは my dad と my uncle の2人のどちらのことかがはっきりしないため,それをはっきりさせるために my uncle が最後に「あとづけ」として付け加えられています。

② 旧情報の言い換え

Have you read this biography of Lincoln? I just started reading it this morning, and already I’m up to chapter 5. [It’s fascinating, this book.] I never knew half of this stuff before.
(リンカーンの伝記を読んだことある?ぼくは今朝読み始めたんだけど,もう第5章まで来たよ。惹きつけられるよ,この本は。以前はこの本の中身の半分も知らなかったんだ。)
Huddleston, Rodney. The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge University Press, p.1411

⇒ It's fascinating の It は,ここではリンカーンの伝記のことだとわかりますから,this biography → It と情報が受け継がれ,さらにそれが this book と言い換えられ,念を押すような働きをしています。


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