環境共生型住居
仮住まいを見つけるための不動産巡りを始めたころ、私たちは「家族入寮可」の看板を出している大学寮を見つけ、興味本位で入ってみた。
大学構内にある古い木造の寮。いちょう並木の奧に、鬱蒼とした入り口らしきものが見える。
「吉田寮」と書かれた表札。壊れて開いたままの表戸。右手には受付と思われる窓口があるけれど、中にいるのは職員ではなく学生数人。
声をかけてみたら、気の良さそうな小柄な学生が出てきてくれた。私たちが事情を説明すると、寮を案内してくれるとのこと。
「どうする……?」と迷う間もなく、彼の案内が始まる。
玄関の土間から2段上がると板張りの廊下になっているが、彼は土足で進んでいく。
およそ人が生活しているとは思えない汚い空間。それに何とも言えない臭いが漂う。所々に蜘蛛の巣が張り、壁は触ると長年染み付いた油汚れがべっとり付いてしまいそうだ。
森の中から生えてきたかのような、自然と一体化した巨大な木造が広がっていた。
(当時小学生だった娘は、後に初めて吉田寮に足を踏み入れた時「お化け屋敷にしたらすごく人気が出そう!」と思ったそうだ。た、確かに……)
親切に対応してくれた彼には冷やかしに来たようで申し訳なかったが、
「こんなところ、二度と来ない!」
というのが正直な感想だった。
見学を終えて異様な感覚のまま表通りに出たとたん、我に返った。
急に時間が早く進み出したような気がした。