「切実な理由」
早く住む場所を見つけないと、小学校の入学交渉を進められない。
ようやく寮から出た結果は、「就学前の事情について緊急性はない」というものだった。
吉田寮の入寮募集は春と秋の入試時期に合わせて年2回。私たちが申し出たのは秋期の入寮終了直後で、タイミングが悪かったらしい。
就学にあたっての手続きや事情は加味されず、私たちを特別扱いするつもりは一切ないらしい。
一応、住めるかどうかの判断をするから、それを待てと言う。
彼らの定義する「家族入寮」の概念が違っていたのも、検討の要因になっていた。入寮案内には「家族入寮可」とはっきり書かれていたが、留学生を受け入れ始めたばかりの彼らが考えていたのはあくまで本人の兄弟や子どもに対応させた「家族」で、私たちのような「ファミリー」は考えもしていなかったのだ。
それでも「家族入寮可」の条件である「切実な理由」として入寮できないか交渉するも、彼らにとっては「家があるのに、一家揃って移ってくる」のが納得できないようだった。
一般にも理解されない私たちの事情を分かってもらうのは難しい。
真面目で社会経験に乏しい若い彼らに私たちの切羽詰った想いを伝えるのは、簡単なことではなかった。