note用

22部屋分の炊事場


吉田寮の各階廊下の真ん中にある炊事場(兼洗面所)には、2口コンロが2台置いてある。
一応換気扇も付いているけれど、羽根からは油が滴り落ち、ガス口は噴きこぼれの汚れなどで詰まって、4口のうち2口使えればいい方だ。

棟の最西端に住んでいた私たちの部屋からは30メートルの距離。お湯を沸かすのにも一苦労する。
調理には鍋や食材をはるばる運ばねばならず、醤油ひとつ運び忘れても居室に取りに戻らないといけない。使用中のコン口を確保したまま炊事場を離れるのは難しく、やむなく一旦火を止めると戻ったときには他の寮生にガス口を奪われている。大声で30メートル先の家族を呼んでみても、声が届く確率は低い。

賑やかな時間帯は勿論のこと、朝などの静かな時間帯は逆にひんしゅくを買う。弱火にしてダッシュで取りに走ることもたびたびだった。
当時、北寮には寮生の中でも静かな環境を希望する人が入っていたから尚更ひんしゅくを買った。私たちは北寮に住む間、週末の夕飯は外でとることにした。

ごはんだけ炊いてタッパーに詰め、時計台裏の学食へ向かう。混み合う時間帯に家族4人分の席を確保するのは難しく、そのうえ多動の息子を連れての外食。
家族連れで学食を利用する光景はさぞ異様に映っただろうが、気にしていられる余裕はなかった。

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