米SVB破綻と私たちの資産形成
(先週投稿したFacebookグループ「よーよーの資産形成塾」からの転載です)
米地銀の破綻報道が続いています。やはりこういう時には何か書かないとという衝動にかられましたので、現時点で思うことを書いてみたいと思います。
まずはメディアで報じられている内容を簡単にまとめると、
3月8日に米銀行持ち株会社シルバーゲート・キャピタルが傘下のシルバーゲート銀行を清算すると発表したあと、10日にはシリコンバレー・バンク(SVB)が経営破綻しました。SVBの2022年末の総資産は約2,090億ドル(約28兆円)で、資産規模は全米16位。米銀の破綻では2008年9月のワシントン・ミューチュアルに次ぐ2番目の規模となりました。同行はベンチャー企業から集めた預金を米国債や住宅ローン担保証券(MBS)で運用していましたが、米利上げで債券の含み損が拡大。新興テクノロジー企業の資金繰り悪化や、預金引き出しの動きが打撃となりました。
さらに12日にはシグネチャー・バンクが破綻しました。2022年末の総資産は約1,103億ドルで、資産規模は全米29位。同行は暗号資産関連企業との取引で知られる銀行でしたが、シルバーゲート銀行の精算やSVB破綻を受けて、信用不安の高まりから預金流出が加速していたようです。米国の財務省、FRB(連邦準備理事会)、FDIC(連邦預金保険公社)はSVBとシグネチャー・バンクの預金の全額保護を発表しました。
これらを踏まえて、今回の破綻の構図を簡潔にまとめると、
− いずれも顧客はスタートアップ企業が中心で、資金調達の余資が大量の預金として流入していた。
− 米利上げが進む中でスタートアップ企業は資金繰りに負担がかかり預金の引き出しに動いた。
− SVBなどは預金を米長期国債やMBSで運用していた。顧客からの預金引き出しが増加したため、債券売却で資金を捻出する必要があったが、金利上昇の環境下、多額の売却損が発生した。
− それを見て、預金者は一段の預金引き出しに動き、銀行側は増資を試みるも失敗。さらに預金者の懸念を高めることとなり、預金流出が進んだことから、売却損の増加と資金繰りのひっ迫に直面し、経営破綻した。
ということになります。
基本的には、資産と負債の期間のミスマッチや預金の流出加速と運用の長期債依存などが原因でして、ある意味、利上げ時に起こりうるケースとも言えます。リーマンショックというよりはS&L危機を思い出すような感じもありますが、預金引き出しが加速したことで、債券の満期保有で逃げきることができなかったということなのでしょう。
この先どうなるかについては、十分な判断材料がない状況ではありますが、現時点で分かっていることから考えると、リーマン級にはならないものの、影響は一時的ということでは済まない感じがします。
専門家の中には、リーマンショック級の危機という見方もあり、確かにその可能性を排除することはできませんが、金融システム危機の可能性については、それほど高くないとみています。というのは、現時点では米金融当局が一番情報を持っており、その当局が2行の預金の全額保護で金融システム不安を抑えられると判断しているからです。リスクは当局に見えていないものが存在している場合で、シャドーバンキングへの波及などの懸念要因はありますが、米当局は過去の教訓を踏まえているだろうと考えるのが合理的かと思います。
一方、これらの破綻は特殊であり限定されたものだと楽観視するのは、やや危険かもしれません。仮に今回の件が金融危機につながらなかったとしても、下記の経済主体の行動には変化が生じると考えられます。
預金者: 金融機関への懸念、安全志向の高まり、消費活動への影響
スタートアップ企業: 高金利とリスク回避の動きによる資金繰りのタイト化
金融機関: スタートアップ企業への与信態度などの引き締まり
急速な米利上げによっても、思っていた以上に労働市場は堅調で、消費にも底堅さがあるとみられていましたが、今回の米銀の破綻は、利上げは実物経済よりも金融経済に影響が出ていたことを示すもので、このことが家計、企業、金融機関に与えたインパクトは景気にマイナスに働くでしょう。
影響度合いの大きさや深さは不確実ですが、やっぱり利上げは経済に打撃を与えていたし、これからそれが顕在化してきそうだという感じがします。ここ数年、金融経済は負債と資産の拡大を繰り返してきましたが、もしもこれが逆回転を始めたのだとすると、金融も経済も収縮が避けられません。
もしかすると1年から1年半くらいは調整局面になるかもしれません。では、長期の資産形成を行う私たちはどうしたら良いかというと、もしも調整局面が来たとしても過度に怯える必要はなく、長期的な目線で臨むことが大切です。以前から言っていることと変わりませんが、市場に参加していることが大事、無理なリスクは取らない、高値を追いかけて買わない、下がったらたくさん買えると思って怖がらない、などです。
もう少し具体的に言うと、これも変わっていませんが、例えばS&P500であればコアレンジは3800−4200くらいだと思って、3800を下回る局面では淡々と買い、4200に近づくあるいは超える水準では追いかけて買わない、という感じです。足元の流れを勘案すると、下方向の動きが今までよりもやや強く、長く続く可能性があり、前述のレンジをもう幾分下に引き下げるような展開になるかもしれませんが、長期的な視点で資産形成を考えていけると良いと思います(私のこの慎重な見方が良い方に外れる可能性もありますし)。
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