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トラス英首相辞任にみる経済と市場環境の変化

世の中にインフレ懸念がほとんどなかった1、2年くらい前までは、景気を刺激しようと拡張財政を実施しても、目立った問題はありませんでした。いや、実はあったのですが、インフレは低く、金利も低かったので、問題が表明化しませんでした。

でも、今はもうその時とは異なるようです。

英国のトラス首相は就任から僅か44日で辞任を表明しました。大型減税案の発表で債券利回りが急上昇、ポンドが大幅下落し、支持率が急低下。求心力を失い超短命政権となりました。

背景や政治的な解説はメディアに任せるとして、個人的にはポイントが3つあると思います。

1.党首選時は減税派が勝利したが…

保守党の党首選時には、トラス首相が減税など財政拡張派だったのに対して、ライバルのスナク元財務相はインフレと金利上昇を懸念する財政重視派でした。結果的には景気支援派のトラス首相が勝ったのですが、その時の金融市場の反応は限定的でした(その時の債券利回り上昇、ポンド下落を指摘する声もありますが、利回り上昇はBOEの利上げによるもの、ポンド下落はドル高と欧州エネルギー危機によるものがメインでした)。

2.大型減税への市場の反応は厳しかった

しかし公約時の総額300億ポンドを上回る総額450億ポンドの大型減税が発表されると、債券市場が久々に自警団としての役割を果たし、債券利回りが急上昇しました(*かつて放漫財政などに対して債券市場が利回り上昇で警告を発していたことから自警団と呼ばれていました)。そして財政悪化懸念からポンドは大きく下落しました。

3.押し切ろうとした強行姿勢も裏目に

もともと大型減税の発表に際してOBR(予算責任局)に経済見通しの改訂版作成を依頼していなかった模様です。本来ならば政策の影響度合いなどを事前に分析すべきでしょう。さらに金融市場が債券利回り上昇、ポンド下落で反応しても、マーケットや国民とコミュニケーションを取ろうとせず強気の姿勢を堅持したことが、支持率の大幅低下につながりました。
(*OBRは2010年創設で、初代局長に当時元MPC委員として私が頻繁に面談をしていたアラン・バッド氏が就任して驚いた記憶があります)

この3つのポイントについては、日本を含む他国が経済政策を考える際にも、十分に考慮する必要がありそうです。

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