見出し画像

ベンゾジアゼピンの減断薬を保険診療下で行うということ(2/3)

ベンゾジアゼピンを漫然と処方され、副作用や離脱症状を訴えても相手にされず、転院して減薬を希望するもその必要性を否定されたり、適切ではない対処(見当違いの診断、一気断薬、「離脱症状を抑える」抗うつ薬や抗精神病薬、漢方薬の投与)を受ける。
さらなる副作用や苛烈な離脱症状に苦しむも訴えは理解されず、転院を重ねてドクターショッパー扱いされたり、医師を頼らず自己流で減薬を試みては失敗を繰り返してきた――

こうした患者さん達は医師や医療に対して両価的な感情を抱くようになっていますし、経過も服薬歴も複雑化しています。
それを傾聴することは精神療法的・治療的に働くでしょう。

しかしながら現実には、その傾聴に割ける時間は無いのです。

一般的に、精神科医療機関では、初診に30分程度の時間しか掛けることが出来ません。
2回目以降の再診に掛けられる時間は5~10分です。

酷な話になりますが、逆算すると、ベンゾジアゼピンの減薬・断薬を保健診療下で行う場合、患者さんはそれまでの複雑な経過を初診時に20分以内で診察医に説明する必要があることになります。
離脱症状で苦しむ方の多くが、複数の医療機関でそれぞれ異なる方針を告げられ、何を信じて良いのかわからなくなっており、何もかもを伝えようとなさいますが、それは最善策ではないことが多い。 それをすると限られた診察時間内にはとうてい収まりません。

保険診療下でベンゾジアゼピンの減薬・断薬を行う場合、初診時にかなり要領良く情報交換を行わなければ、肝心の減薬まで辿り着けない。
具体的には、患者さんの情緒的側面について診察内で扱うことは難しいと思います。
長い経過の中で患者さんが経験していた苦悩や、前医への怨嗟に耳を傾け、「それはお辛い思いをされましたね」という声掛けで締める、「いかにも精神科的」なプロセスは削ぎ落とさざるをえません。

誤解無きよう念の為に述べておきますが、僕が実臨床でうつ病や適応障害、不安症といった狭義の精神疾患の診断が付く患者さんを診察するに当たって、患者さんの心性や情緒的側面を全く考慮せずに薬物療法だけ行っているのかというと、そんなことはありません。初診時に患者さんの情緒的側面に耳を傾けることは診断を付け、治療方針を立てるためにも必須のプロセスになります。

詰まるところ、「ベンゾジアゼピン常用量依存」は、狭義の精神疾患ではなく、それ故に精神疾患とは治療論が異なるのだとも言えます。
「心の病気」よりも「脳の病気」としての側面が圧倒的に大きい(と、僕は思っています)。
しかし治療は精神科医によって、精神科病院やメンタルクリニックで行われます。
ベンゾジアゼピンを最も使い慣れているのは精神科医ですし、減薬のプロセスの中で精神療法的な配慮は必ず必要になりますから(ここまで述べてきたことと矛盾するようですが)、僕は現状ではそれはリーズナブルなことだと考えています。
ただし、例えばうつ病の診療を行う場合とベンゾジアゼピン常用量依存の治療を行う場合とで、精神科医の側はギアを入れ替える必要があります。
そしてまた患者さんの側にも、同じような切り替えは必要です。

ベンゾジアゼピン常用量依存を起こしていて、減薬・断薬を目的に初診された場合、優先的に伝えていただきたい内容は、ベンゾジアゼピンの服用開始理由(≒原疾患、環境要因)、服薬内容、服薬量、これまでの減薬・断薬経験の有無、離脱症状の有無、離脱症状がある場合はその内容と強度――といったところになります。

これを20分でまとめて話していただき、10分間で治療方針を相談して、処方を入力して次回予約をして35分。
ベンゾジアゼピン常用量依存の初診における、これがおおよその時間配分ということになります。

➡「ベンゾジアゼピンの減断薬を保険診療下で行うということ(3/3)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?