ベンゾジアゼピン減断薬 - 日本人はジアゼパムを服用すべきではないのか - ネット情報の取捨選択の困難さの一例として -
短時間作用型のベンゾジアゼピンの服用によって依存が起こり、減薬・断薬したいのだが、離脱症状のために減薬が進まず困っていると訴えられる方からのオンライン医療相談で、最近複数回、同じようなやり取りがありました。
こうした事例における対応法として一般的な、長時間作用型のベンゾジアゼピンであるジアゼパムへの置換法(置換してからの漸減法)があることを一例として紹介したのですが、何人かの相談者様が口を揃えて、「日本人はジアゼパムを代謝する酵素が少ない人が多いと聞いた。その方法を用いることは不安だ」と仰るのです。
確かに、ジアゼパムの代謝経路は他のベンゾジアゼピンとは少し異なっているところがあります。
多くの薬物は肝臓内でシトクロムP450 (CYP)という酵素によって代謝・分解され、薬理活性を失って排泄されます。このCYPにはいくつかのサブタイプがあり、多くのベンゾジアゼピンはCYP3A4というタイプの酵素で代謝されるのですが、ジアゼパムはCYP2C19というサブタイプで代謝を受けるのです。
そして日本人の20%はCYP2C19の遺伝子変異があり、CYP2C19で代謝される薬物のPM(Poor Metabolizer:代謝が遅い人)であることが知られています(https://www.jstage.jst.go.jp/article/dmpk1986/16/5/16_5_461/_pdf)。
上述した、ジアゼパムに置換することに不安を表出した相談者様の方々は皆さん、ネットでそうした情報をみつけ、「だからジアゼパムへの置換は日本人には向いていない」という結論に至ったのだということでした。
中には自費でご自身のCYP2C19活性を調べられる相談者様までが現れるに至って(敢えてここで具体的な検査機関のリンクなどは示しませんが、希望すればその検査を受けることは可能なのです)、僕としては「これはまずいなあ」と思い、本稿の筆をとった次第です。
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