ベンゾジアゼピン減断薬 - 治療者としての僕の17要素 [Free full text]
現時点での僕のベンゾジアゼピン受容体作動薬、ベンゾジアゼピン依存、そして離脱症状に対するスタンスを整理・説明しておきます。
神は細部に宿る――ではありませんが、部分に全体を語らせようという試みです。僕が治療者としてどのようにベンゾジアゼピンの減断薬を考え、向き合っているか、断片的にでも理解していただく上での一助になれば幸いです。
⒈ ベンゾジアゼピンは精神科臨床において必要な薬であり、それ故に不適切使用によってそのイメージが毀損されていることを憂慮しています。
ベンゾジアゼピン絶対悪論者ではありません。
⒉ 不適切使用とは医師による長期漫然投与、依存・離脱を考慮しない急断薬。合理的な理由があれば長期投与も許容されると考えます。
⒊ ベンゾジアゼピン依存は現実の臨床においては過小診断が、ネットコミュニティにおいては過剰診断が、問題であると考えます。
⒋ ネットコミュニティの当事者群は現実社会のベンゾジアゼピン依存症当事者群の層別標本ではない。重症者が集まりやすく「偽陽性者」も多い。一方で臨床では聞けない貴重な意見の宝庫でもある。
⒌ ベンゾジアゼピンを一定期間服用していて減断薬したら現れ再服薬したら消失するのが離脱症状。
⒍ 再服薬しても消失しない症状を離脱症状と診断することには慎重になります。
⒎ 減薬していないのに離脱症状が現れる「常用量離脱」に関してはその存在を認めるか否か判断保留中です。
⒏ 一気断薬後、離脱症状に耐えて一定期間を過ぎ、遷延性離脱症候群を呈するに至った患者さんに対する有力な治療手段を残念ながら持ち合わせておりません。
⒐ 患者さんがインターネットで得た情報をもとに自身の心身の不調をベンゾジアゼピンの離脱症状だと自己診断し自己判断で減薬を行うことは望ましくないと考える立場です。
⒑ 水溶液タイトレーションという技法には複数の理由で懐疑的です。超微量減薬が必要な患者さんは皆無ではないが多くはないと考えています。
⒒ 現実の臨床では漸減法での減薬を行っています。 減薬幅は0.1mgか0.1錠です。 例えばデパスを3mg/日から2.9mg/日に減量して激甚な離脱症状を呈した患者さんを経験したことはありません(マイクロテーパーリングが必要な患者さんの存在を否定しているわけではありませんが、ネット上で煽られているほどに多くはないだろうと思っています)。
⒓ 栄養療法に代表される「ベンゾジアゼピン以外の何か(漢方薬を含む)でベンゾジアゼピンの離脱症状を軽減できる」という考え方には与しません。
⒔ 現に離脱症状が認められている場合は再増薬します。離脱症状があるのに機械的に減薬したいというご希望には沿えません。
⒕ シンプルな減薬を旨とします。一方で患者さんの状態に合わせて細やかに減薬ペースの調整を。
15.減薬しながらも患者さんが本来の社会生活を送れること。それを目指さない/目指せない減薬法を僕は高く評価しません。
⒗ 断薬はゴールではなく通過点。患者さんの生活を見ること。
⒘ 全員が断薬に至れるわけでは残念ながらありません。治らない人は治らないと思っています。
上記の考え方のもとに相談・診療を行っています。
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