
ベンゾジアゼピン減薬リーフレット - エチゾラム(デパス)
前書き
ベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下ベンゾジアゼピン)は不安や睡眠障害の治療に広く用いられている薬剤群です。長期使用により依存が生じる可能性がありますが、ベンゾジアゼピンを処方する医師の、依存や離脱症状への理解が十分ではない場合があります。
僕はこれまでベンゾジアゼピンの依存や離脱に関する一般的な情報を提供するnoteをいくつか執筆してきましたが、個別の薬剤に関して述べたことはあまりありませんでした。このリーフレットは個々の薬剤の減薬法の具体例を示すことを目的として作成しました。
今回は、日本でもっとも広く使用されているベンゾジアゼピン、エチゾラム(デパス)に焦点を当てて、減薬プロセスに関する情報を提供します。エチゾラムの特性や減薬の方法、離脱症状に対処するアプローチなどについて説明し、減薬に関する一般的な知識の共有を目的としています。
本リーフレットにおけるベンゾジアゼピン減断薬の前提条件
ベンゾジアゼピンの慢性投与でそのベンゾジアゼピンの依存が生じていると医師に診断を受けている。
ベンゾジアゼピン服用の理由となった原疾患はベンゾジアゼピン以外の治療により寛解している、あるいは完治している。
過去にベンゾジアゼピンの減薬を試みたことは無い。
ベンゾジアゼピンを服用する理由となった狭義の精神疾患以外の、離脱の妨げになるような合併症は無い。
医師の協力のもとに減断薬を進めることができる。
薬を処方するのは医師なので、主治医の同意と協力が必要です。多くの医師がベンゾジアゼピン離脱をどのように行うのがよいか不確かなため、引き受けたがりません。しかし、時に応じて主治医のアドバイスを尊重しても良いですが、離脱のプログラムに関しては自分で責任を持ち、自分自身に合ったペースを見つけて離脱を進めて行くつもりであることを主治医に伝えて安心させて下さい。
対象薬物
エチゾラム(etizolam, デパス)
効能効果
神経症における不安・緊張・抑うつ・神経衰弱症状・睡眠障害うつ病における不安・緊張・睡眠障害
心身症(高血圧症、胃・十二指腸潰瘍)における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ・睡眠障害
統合失調症における睡眠障害
下記疾患における不安・緊張・抑うつおよび筋緊張
頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛
用法用量
神経症、うつ病の場合:通常、成人にはエチゾラムとして1日3mgを3回に分けて経口投与する。
心身症、頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛の場合:通常、成人にはエチゾラムとして1日1.5mgを3回に分けて経口投与する。
睡眠障害に用いる場合:通常、成人にはエチゾラムとして1日1〜3mgを就寝前に1回経口投与する。
なお、いずれの場合も年齢、症状により適宜増減するが、高齢者には、エチゾラムとして1日1.5mgまでとする。
力価・半減期・剤形
力価:エチゾラム 1.5mg=ジアゼパム 5mg(「抗不安薬・睡眠薬の等価換算−稲垣&稲田(2017)版」より)
半減期:6時間(諸説あり)
剤形:0.25mg錠、0.5mg錠、1mg錠、1%細粒
本リーフレットにおける仮想症例の処方内容
Rp. 1) エチゾラム 0.5mg錠 3錠 分3(毎食後)
減断薬法(1. Optimal Scenario)
エチゾラム1日量1.5mgを全量1%細粒に置き換えて2週間経過観察する。
Rp. 1) エチゾラム 1%細粒 0.15g(成分量1.5mg)分3(毎食後)
離脱症状が現れないことが確認した後に0.1mg/日/2週間のペースを目安として減量する。ただし、減量分のエチゾラムを必ず別包で処方しておく。つまり減量開始の最初の処方箋は以下のような記載内容になる。
Rp. 1) エチゾラム 1%細粒 0.14g(成分量1.4mg)分3(毎食後)
Rp. 2) エチゾラム 1%細粒 0.01g(成分量0.1mg)分1(頓用)
2週間の観察期間内に離脱症状が現れなかった場合、あるいは日常生活に支障が生じない程度の離脱症状が現れたが消失した場合、次の段階に進む(エチゾラムの1日量をさらに0.1mg/日減らす)。
離脱症状が軽度であっても、消失するまでは次の段階に進むべきではない。消失するまで何週間でも、何ヶ月間でも待つこと。
これを繰り返しながら断薬に至ることをめざす。
観察期間中に強い離脱症状が現れた場合は遅滞なく頓用薬を用いて減量前の用量に戻し、離脱症状の消失を待つ。次回受診時に主治医と相談し、その後の減薬戦略を再検討する。減断薬を断念することも選択肢の1つである。
減断薬法(2. Challenging Scenario)
減薬開始の時点で服用間離脱が現れている場合。
まず長時間作用型のベンゾジアゼピンへの置換を行い、血中濃度の日内変動を小さくしてからの漸減が必要である。キンドリングが起こるリスクはベンゾジアゼピンの離脱においても想定されるべきであり、いかなる形態の離脱症状でも、それを放置して減薬を進めるべきではない。
置換先のベンゾジアゼピンは長時間作用型であれば良いというわけではない。その後の漸減フェイズを考えるならば、剤形が豊富で力価が低いベンゾジアゼピンが選択されるべきである。実績という点からはアシュトン・マニュアルでも推奨されているジアゼパム(セルシン、ホリゾン)への置換が無難であろう。ただし等価換算表における「エチゾラム 1.5mg=ジアゼパム 5mg」が減断薬のための指標とはなりえないことは留意しておくべきである。エチゾラムの1日服用量が1.5mgだからといってそれをいちどきにジアゼパム5mgに置き換えるようなことはすべきではない。日本人におけるジアゼパムの代謝酵素(CYP2C19)の活性のばらつきも考え合わせて「漸置換」を行うこと(アシュトン・マニュアルでも一気置換は推奨されていない)。
置換完了後にジアゼパムを0.1mg/日/4週間(※ジアゼパムの半減期の長さを反映して各段階ごとの観察期間は4週間が必要となる)のペースで漸減し断薬を目指す。
医学的免責事項
本リーフレットは一般的な情報の共有を目的とし、個人的な医学的助言を提供するものではありません。
本リーフレットの内容は、ベンゾジアゼピン依存や離脱症状の診断・治療を目的として利用すべきではなく、医療専門家によるケアに代わるものでもありません。
健康上の問題や疑念がある場合は、必ず主治医にご相談ください。
著者は本リーフレットの内容に関する誤りや結果に対して責任を負いません。医療的判断を下す際には必ず主治医と相談することを推奨します。
より個別性の高い事案については相談や診療も行っています。