2020/02/11 舞台「飛龍伝2020」 観劇
公演タイトル:「飛龍伝2020」
劇場:新国立劇場 中劇場
作:つかこうへい
演出:岡村俊一
出演:菅井友香(欅坂46)、石田明、味方良介、細貝圭、小柳心、久保田創、小澤亮太他
公演期間:1/30〜2/12(東京)、2/22〜2/24(大阪)
個人評価:★★★★★☆☆☆☆☆
【レビュー】
昨年4月に観劇した「銀幕の果てに」以来のつかこうへい作品の観劇。「飛龍伝」自体は初観劇。
とにかく菅井友香さん、味方良介さん、石田明さんはじめキャスト陣の熱量の凄さに圧倒された舞台だった。あれだけの大きな劇場で、しかも自分は結構後方の座席だったのに熱演に圧倒され続けた舞台だった。
特にNON STYLEの石田明さんの演技が個人的にはMVPで、下ネタやギャグをぶっこんでくる時と山崎一平機動隊長として男らしく決める時のギャップが物凄く良かった。
ただ素舞台でかつ動きのないシーンが多かったり、台詞が聞き取りづらかったシーンがあったり、ストーリーと劇中歌がかみ合っていないように感じたりしたため、物語に引き込まれたかというとそうでもなかった。もっと上手い演出や見せ方はあったのではないかなと思った。
【鑑賞動機】
昨年から岡村俊一演出でつかこうへい作品を、「熱海殺人事件」「銀幕の果てに」と観劇してきているので、「飛龍伝」も観劇したいと思い劇場へ足を運んだ。味方良介さんや石田明さんといった今まで観てきた俳優も多く出演していたので期待値高めで観劇。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
舞台は1970年代初頭、学生運動が盛んだった日本。徳島という田舎から神林美智子(菅井友香/欅坂46)が夢と希望を胸に上京して大学に入学する。
しかし当時の大学生たちは、「全共闘」といって日米安全保障条約締結(以下安保)に反対する若者たちが集まり、政府に対してデモ運動を起こしていた。
「全共闘」の作戦参謀本部長の桂木純一郎(味方良介)は、上京したての神林に恋をし全共闘委員長に任命する。
その後全共闘は、学生運動を鎮圧しようとする機動隊と衝突するが、その機動隊の第四機動隊長の山崎一平(石田明/NON STYLE)は、委員長の神林に一目惚れをしてしまう。それを知った桂木は、神林を山崎の元に潜伏させ恋に落とさせて子供を産ませることで、全共闘に抵抗出来なくさせる計画を実行させる。
計画通り、山崎の元に身を潜ませた神林は山崎と恋に落ちて子供を産んだ。11・26、安保締結がなされるその日に、全共闘たちは国会議事堂前で機動隊との最終決戦に臨むことになっている。
その決戦に参戦するため、神林は計画のことを山崎に伝える。無念極まりない思いをした山崎は、11・26でお互い敵同士として戦うことを約束し、神林は山崎の元を去っていく。
11・26当日、全共闘と機動隊の激しい攻防の末、神林は最後華々しく命を落とす。
「熱海殺人事件」や「銀幕の果てに」といった今まで観てきたつかこうへい作品よりはストーリーは平易だった。夢と希望、そして恋愛、熱い若者たちが繰り広げるつかこうへいらしい物語だった。
個人的には、桂木と神林のやりとりがもっと見たかった。潜伏させる計画の全貌も山崎に伝える場面で初めて登場するので、もっとその計画を受け入れるか否かの神林の苦悩だったり、桂木との対立みたいな部分があるともっと面白かった気がする。全然原作を読んだことないので、そもそもそんなシーンがあるかどうかも疑問だが。
そういう意味で、個人的にはこの作品自体には深く入り込めなかった。昔の価値観と今の価値観の違いとかもあるのだろうか。もっと現代風に翻訳されていても良かったのではないかと思った。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
舞台は、先ごろ観劇した「学芸会レーベル/アセリ教育」と同じく素舞台だった。最後にちょこっと蕎麦屋の屋台が出てくるくらいであとは舞台上には何も無しだった。
それはそれで良いのだが、全体的に舞台に引き込まれる要素がキャストの熱演技以外になく(演技だけで2時間以上惹きつけるには限界がある)、演出面に関しては個人的にはあまり今回は評価できなかった。
今回の舞台の演出面での一番の醍醐味は、音響と照明、映像によるパフォーマンスといって良いほどの大掛かりな演出だと思うが、やっぱりどんなにカラフルな照明にしてカッコよくしようが、カッコ良い音楽や映像を流そうが、舞台上の雰囲気にマッチしていないと効果がない。
音響・照明・映像による演出のボリュームが強すぎて、かえって浮いてしまったように感じがしたのは私だけだろうか。ちょっとインパクトが強すぎる気がした。
あの手の演出は、ここぞという時に使うことで初めて効果があるものなので、多用しすぎてしまうとちょっときついなと思った。
あと、劇中曲も数曲あり、菅井さんなどがマイク片手に歌うシーンがあったが、ちょっとこの劇中歌も舞台とマッチしていないような感じがした。唐突に曲がかかったり、あとはマイクを使用しているからか歌詞が全然耳に入ってこなかった。
ここだっていう原因までは言い切れないが物凄くミスマッチ感を抱いてしまった。ちょっと勿体無い気がした。
また学生運動ということで殺陣のシーンもあったが、個人的にはもっと観たかったと思った。ちょっと少なすぎるかなと思った。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
演出面では評価が厳しくなってしまったが、キャストの演技に関しては満点に近いと言って良いほどの見事な仕上がり方だった。
まずは主演の神林美智子を演じた欅坂46のキャプテン菅井友香さん。
普段お仕事として活動されているアイドルとは全く異なり、社会の波に飲まれていく女学生を演じるということで、多くの苦労があったのではないだろうか。あの大きな劇場の中で主演として長い時間声を張らないといけない、汚い言葉も使わないといけない、キスされる、胸を揉まれる。自分の殻を何枚も破らないと出来なかった演技を見事に演じ切っていたと思った。
途中精一杯の演技にもう体が必死で耐えきれないくらいのアップアップした演技が見られたが、それくらい自分の限界に挑戦して毎公演演じている彼女のたくましさは本当に凄いと思った。
次に、第四機動隊長山崎一平を演じたお笑いコンビNON STYLEの石田明さん。
今まで彼が出演している作品は、昨年観劇した「熱海殺人事件」「銀幕の果てに」と2作品拝見しており今回が3回目に相当するが、今までの中で一番素晴らしい演技をしていた。
物凄く台詞量の多い役柄だったと思うが、ほとんど噛まずにしかも聞き取りづらい台詞箇所もなく、それでもって下ネタやギャグを所々入れながら、神林とのラブシーンはきっちりと決めてくるこのギャップは、物凄く舞台シーンの緩急をつけるという意味で効果的でもあったし、それによって観客が惹きつけられる部分もあって素晴らしかった。
もはや名俳優と言っても良いレベルにカッコよく素敵な熱演だった。
そして、桂木純一郎を演じた味方良介さん。
この方の演技を観るのは4回目となるが、ちょっとクセのある喋り方をする俳優だなとずっと思っていたが、今回はそこまでクセが強いと感じなかった。
作戦参謀本部長として物凄くナチュラルで威厳のある役柄が似合っていた。ただ、石田さんと比較して少し台詞が聞き取りづらいシーンがあった気がした。
個人的に好きだったのは、小澤役を演じていた俳優(名前がちょっと分からなかったが、おそらく小澤亮太さん?)。
序盤の神林をアパートの一室へ連れてきて色々と調子の良い話で、神林を口説こうとしているシーンがとても好きだった。
【舞台の深み】(※ネタバレあり)
今年はつかこうへい没後10年だそうである。そういった節目の年に「飛龍伝2020」を観劇できて本当に良かった。
今までも「熱海殺人事件」や「蒲田行進曲」といったつかこうへいの作品が度々上演されてきた。飛龍伝に関しても、以前は広末涼子や黒木メイサ、桐谷美玲といった名女優が神林美智子を演じて、定期的に注目を集める作品であり続けた。
それだけつかこうへいは、日本の演劇界に大きな衝撃を与えた人物といって良いだろう。「熱海殺人事件」に関しては、今でも多くの劇団が挑戦し、必ずと言って良いほどいつどのタイミングでもどこかしらの劇団が取り組んでいる脚本という印象である。
私はつかこうへいの戯曲を読んだことがないので、なぜそこまでつかこうへいの作品が良いのか、なぜ上演され続けるのか深い意味は分からない。
しかし今後は、観劇を趣味とした1人の人間として、つかこうへい作品について深く学んでその魅力についてもっと考察していきたいと思う。
私は今まで昨年の「熱海殺人事件」「銀幕の果てに」と今回で3度つかこうへい作品の舞台を観劇した。そしてどの公演も演出が岡村俊一さんである。私はどうも岡村さんが演出したつかこうへい作品でピタリとハマった舞台がないと感じている。「熱海殺人事件」も、結構作品について理解のある人間でないと入り込めないような舞台だったように感じて、その「熱海殺人事件」としての面白さをイマイチ見つけられなかった記憶がある。「銀幕の果てに」も今回の「飛龍伝2020」もそうである。
これは、自分自身がつかこうへいと相性が悪いのか、そもそも岡村さん演出作品と相性が悪いのか分からない。
だが、来月の3月12日から30日でつかこうへい没後10年を祈って、「改鼠・熱海殺人事件」が紀伊國屋ホールで上演予定である。この作品の演出は岡村さんではなく、柿喰う客主宰の中屋敷法仁さんである。
この作品も当然私は観劇予定であるが、つかこうへい作品を岡村さん演出以外で拝見するのは初めてのこととなる。
この作品を観劇して、自分がつかこうへい作品に対してどう感じるのか、やはり相性合わないのか、合うのか、その辺りを楽しみながら臨みたいと思っている。
【印象に残ったシーン】(※ネタバレあり)
一番印象に残ったシーンは、やはり最後の神林美智子と山崎一平のキスシーン、あのシーンでは号泣している観客も多くいた。
神林自身も一緒に山崎と暮らしてきたことによって愛着が生まれたが、これは全共闘の思惑が絡んだ計画の渦中にある恋物語、そして産まれてきた子供もその革命に翻弄されることになる。儚くて辛い2人のラブストーリーはとても印象に残ったシーンで引き込まれた。
それと一番最後のテーマ曲を全員で歌って、菅井さんが銀色の衣装を着て登場するシーンも最後物凄く盛り上がって印象に残った。「パン」という音と共に客席に向かってクラッカーのように銀色の紙が舞った演出も良かった。
それと、終盤の11・26の全共闘と機動隊のバトルシーン。銃で「バババババン」と撃たれるシーンが印象的。
序盤だと、神林に小澤が絡んでいくシーンも好きだった。
中盤の山崎が神林に挿入したか云々のクダリも好きだった。
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