舞台 「更地」 観劇レビュー 2021/11/14
【写真引用元】
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公演タイトル:「更地」
劇場:世田谷パブリックシアター
劇団・企画:KUNIO
脚本:太田省吾
演出・美術:杉原邦生
出演:濱田龍臣、南沢奈央
公演期間:10/9〜10/10(京都)、10/30(新潟)、11/7〜11/14(東京)
上演時間:約80分
作品キーワード:二人芝居、夫婦、ファンタジー、会話劇
個人満足度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆
演出家の杉原邦生さんが主宰するKUNIOの舞台作品を初観劇。
杉原さんが演出を手掛ける作品は、2020年11月に上演された「オレステスとピュラデス」に続き2度目。
今作は、劇作家の太田省吾さんの代表作である「更地」という二人芝居の作品を杉原さんオリジナルで脚色、演出して刷新したもので、2012年に一度KUNIO10として上演されていてそちらの再演ということになる。
ストーリー設定としては、初老の夫婦がかつての住まいの跡地を訪れ、更地となってしまったその場所で過去の思い出を語り合うというもので、一見静かな会話劇かと思いきやファンタジーチックに仕上がった作品となっていた。
「更地」という作品自体が初見だった私にとって、どうも杉原さん流のラップとファンタジー性の強い演出とこの脚本の相性はいまいちフィットしていない印象を感じた。
というのは、初老夫婦を演じる濱田龍臣さんと南沢奈央さんの繰り広げる会話が、すんなりと自分の中に入ってこなくて理解出来なかったからである。小学生の時にサン・テグジュペリの「星の王子さま」を読んだ時に、そのあまりにも独特な世界観と台詞回しに理解が追いつかなかった時と同じ感覚に陥った感じ。
演じている側はきっと楽しいと感じるのだろう、舞台上に用意されている道具を使ってあたかも家族ごっこをするような遊び要素の強い作品だった。
舞台上を「更地」と書かれた巨大なシートで覆ったり、赤ちゃんに戻ったようにワーワーわめきながらハイハイしたりと。
ただ観客としてそれをただ観させられるのは、よっぽどの濱田さん、南沢さんのファンでない限り退屈に感じるのではと思ってしまった。
パンフレットを読む限り、杉原さん自身の挑戦を強く感じさせるので、ある種実験的側面の強い作品だったのだろうが。
濱田さんが舞台「オレステスとピュラデス」で演じられていた時と比較して、段違いに演技に迫力があって上手くなっていたこと、舞台美術が豪華で綺麗だったこと以外に関しては、個人的には少々物足りなかった。
【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/452413/1696511
【鑑賞動機】
2020年11月に舞台「オレステスとピュラデス」を観劇して、非常に杉原邦生さんの演出作品が素晴らしいと感じたので、また次も彼の演出作品を観たいと思っていた。
「オレステスとピュラデス」に出演されていた注目の若手俳優の濱田龍臣さんが出演されていること、また2021年3月に上演されたウォーキングスタッフ・プロデュースの「岸辺の亀とクラゲ -jellyfish-」を観劇して、南沢奈央さんの演技が素晴らしかったことから、今作品を観劇しようと思った。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
客入れ中から既に舞台が始まっているかのように、初老の男性(濱田龍臣)と初老の女性(南沢奈央)は中央に置かれている小さなお家の作り物を周回するように静かに歩く。
ブザーが鳴ると、2人は中央で一礼して舞台が始まる。女性は語る。小さなお家が宙に浮き、屋根に積もった雪を家の中に入れて火を灯すと、家の中は明るくなり、やがて消えると。
オープニング音楽と共に、男性と女性が流しや植木鉢などのお家を構成する道具を舞台中央に並べる。
男性が女性をおんぶする。夜空には沢山の星と月が見える。こうやって星空が綺麗に見えるのも、家に屋根が無くなったからだと男性は伝える。
初老の男性と女性は、ずっと旅を続けていてかつて住まいがあった更地にたどり着いた様子である。男性は手持ちの本を見ながら、旅とは人間が本能的に求めて起こるものであるというような内容のことを語る。人間はずっと同じ場所に留まっていられず、移動したくなるものなのだと。
折角ここには一連の家具が揃っているのだし、更地だけどここでもう一度夫婦で過ごそうということになる。
男性と女性はスパゲティを指で食べ始める。でもそのスパゲティは美味しくなさそうである。
男性と女性は食べ物の繋がりから動物ごっこを始める。男性は鶏になりきり「コケコッコー」と鳴く。そして、鶏のように朝早起きをしてみようと女性を誘う。そして朝、ラジオ体操の音楽と共に2人で早起きをして窓枠越しに朝日を眺める。
今度は、男性が一層のことなにもかもなくしてみようと働きかける。ここにある全ての道具や家具を「更地」というシートで覆ってしまう。
男性と女性は赤子になりきって、ワーワー喚きながらハイハイをする。まるで産まれた頃に戻ったかのように。
そして男性は、文化堂という書店の前で初恋相手を待ち合わせした時のことを語り始める。女性は、初恋相手の男にキスをせがまれた時のことを話す。
男性と女性はラップを歌い始める。真夏のセミの鳴き声が響き渡る頃の話。
男性と女性の元に2人の子供が生まれる。男性は何やらクラシック音楽の指揮者をやっている。女性は子供をあやすのに必死らしい。
子どもたち2人と共に、山へピクニックに行こうとする。バスケットに食べ物を入れて。しかし山の中は霧がかかっていて視界が悪かった。
女性はふと呟く。戦争など歴史の教科書に載っている出来事は過去に実際にあったと断言出来るけど、私たち夫婦が経験したことって本当にあったことなのだろうかと。
暗転して、再び夜空に満天の星空が見える。こうやって星空が綺麗に見えるのも、家に屋根が無くなったからだと男性は伝える。
最後に、男性と女性は愉快な曲調のエンディング音楽と共に、虹色の幕を舞台一面に敷いて物語は終了する。
自分で内容を改めて書きながら振り返って見たものの、全然ストーリーの経緯が掴めなくて理解が全く及んでいないことを痛感。
ただこの戯曲で伝えたいことは明白で、私たち夫婦だけが経験したことって夫婦である2人にしか事実だと分からないことだから、記憶として非常に曖昧なもの。だからこそ、一度夫婦2人で共に歩んできた思い出という必要不可欠な事柄をさっぱり忘れてしまって、改めて一からやり直してみることによって、また違った風景を2人で楽しむことが出来て幸せだったということなのだろう。
その比喩となるのが、物語中に2回登場する「こうやって星空が綺麗に見えるのも、家に屋根が無くなったから」という台詞なのだろう。
凄くファンタジックで不思議な物語で、自分はこの作品の魅力について十分語れる自信はないが、詳しくは考察パートでも触れていく。
【写真引用元】
ステージナタリー
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【世界観・演出】(※ネタバレあり)
杉原邦生さんらしいファンタジックでポップな世界観と演出だった。舞台「オレステスとピュラデス」を観劇していれば、似た演出手法を採用している箇所が至るところにあることが窺える。
舞台装置、照明、音響、その他演出の順に見ていく。
まずは舞台装置から。
舞台「オレステスとピュラデス」でも採用しており、杉原さんならではの演出手法なのかもしれないが、全く舞台背後にパネルを用意せずに背後のステージの壁面を客席に剥き出しにした独特な世界観を今作でも採用していた。
ステージ上には、舞台奥に行けば行くほど高くなっていく傾斜をかけた巨大な台が一面に設置されていて、基本的にはその台上で芝居が繰り広げられる。それ以外に大きな舞台装置は見当たらない。
OP中に男性と女性が、植木鉢や流し、ラジカセなどをステージ上に用意するシーンがあり、それら小道具を上手く使って劇は進行していく。非常に杉原さんらしいあまり豪華に舞台装置を作り込まない独特のスタイルだった。
あと特筆したいのは、物語中盤で登場する「更地」と書かれた黒い巨大なシートと、物語終盤に登場する虹色の巨大なシート。そのシートを使って男性と女性はステージ一杯を覆い尽くすという下りがある。これは役者がやる分には非常に楽しそうな演出かなと思った。夫婦2人での共同作業というのが良い。2人で協力しながら共に新しいものをステージ上に創り上げていく感じ、あまり観たことのない演出で新鮮だった。
次に照明演出について見ていく。
印象に残った照明はいくつかある。まず一つ目は客入れ時の蛍光灯が無造作にぶら下がっていたり、ステージ上の壁に立てかけられているシーンの照明。古い蛍光灯のようにずっとチカチカしている。近未来を想起させるような音響(ノイズ音のような感じ)と共に凄く緊迫感を煽るようなSFチックな客入れとなっていた。舞台上全体が青白く照らされていたのも印象的。
そしてなんといっても、星空の照明演出は素晴らしく綺麗だった。プラネタリウムどころではなく本物の星空を見ているような感覚、天井から小さな豆電球のようなものを沢山吊り下げて星空を表現しているのだと思うが、非常に立体感があって素晴らしかった。また、月を照明で表現するシーンもあったが、舞台中央の上方に設置されている照明を駆使してかなり光量の強い白い光で表現しているあたりも、なにか何もない広大な敷地の夜に月だけがくっきり見える感じ、月の砂漠的な感じを想起させて良かった。
カーテンコール時の凄く明るい照明も好きだった。なんか幸せに満たされている感じ、七色のシートも相まって、夫婦で一度過去の記憶を取っ払ってやり直してみたらhappyだったよ的なことが凄く伝わってきて好きだった。
次に音響について。今作の音響は非常に幅広く多岐に渡ったジャンルの選曲だったと思っている。
印象に残っているのは、客入れ時の近未来SFチックの緊迫感のあるノイズ音、客入れだけ見ているとこれからSF的な作品が始まるのかと思ってしまうくらいSFだった。
そしてオープニング、凄く楽しげなポップンミュージックに合わせて、男性と女性がステージ上にラジカセ、流し、テーブル、植木鉢などを用意する。
一番印象に残るのは中盤のラップミュージック。ラップに合わせて男性と女性がマイクパフォーマスするあたりも素敵。
そしてエンディング、こちらも非常に陽気な感じのJ-POPで(違うけどナオトインティライミ的な曲調だった)凄く最後は楽しく明るくなれる演出だった。
途中、ラジオ体操の音楽や、男性が指揮者をやるシーンでクラシックっぽい楽曲が流れるシーンもあり、本当に使用楽曲の曲調は多岐に渡っていた。
その他演出について見ていく。
印象に残った演出は沢山あった、指でスパゲッティを食べるシーン、2人で窓枠に寄り添って朝を迎える演出、スモークマシーンで霧を作ってピクニックをする演出。
個人的に好きだったのは、ピクニックの演出だろうか。スモークマシーンを使うという点も非常に面白かったのだが、子供2人を木片で表現して4人でピクニックしている感じにする演出は、個人的には凄くシュールで好きだった。
演出一つ一つは非常に独特で面白かったのだが、なぜその演出を選んだのか、作品全体としてどういう脈絡があるのかという点については疑問を抱くものが沢山あり、そういった演出の必然性という意味ではモヤモヤが残ってしまう。杉原さんの実験的かつ挑戦的な側面の強い作品だと捉えるしかないのだろう。そこが自分として大きく引っかかってしまったので勿体なかった。
【写真引用元】
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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
二人芝居である今作に出演している、濱田龍臣さんも南沢奈央さんもどちらも以前他の舞台作品で演技を拝見したことがあったので、今作ではどのような役をやるのだろうと楽しみにしていた。
お二人の今作での演技の印象について記載していく。
まずは男性役を演じた濱田龍臣さんから。濱田さんの演技は、2020年11月に観劇した同じく杉原さん演出の舞台「オレステスとピュラデス」で一度拝見している。
前回濱田さんの演技を拝見した時は、まだ子供っぽさが残っていた感じがあって、まだまだ舞台出演に慣れていない感じ、男らしさ、自信みたいなものを若干感じづらい点があったが、今作ではそのようなイメージを完全に払拭して非常に大人っぽくなっていた。今作を観劇して一番感動したポイントがそこである。
髪型もかなりパーマを効かせて、非常に垢抜けた感じがあった。そして結構高身長だから本当に一気に大人っぽくなって頼りがいのある青年になったという出で立ちだった。
演技に関しても、非常に良い意味で力が抜けていて、全く緊張も感じさせずにまるで舞台上で自然体で楽しんでいる感じに見られた。
相手役の南沢奈央さんとは一回りくらい年齢が違うようであるが、全くその年齢差を感じさせないくらい、南沢さんをまるで奥さんとして接するようにちゃんとエスコートして、おんぶして、抱きしめて、イチャイチャして素晴らしい大人っぷりだったと思っている。
ここからは私の憶測になってしまうが、やっぱり南沢さんが相手役というのがあったので、濱田さん自身にも自分がもっと成長しなければという自覚みたいなものが芽生えて、この舞台作品を通じて成長したんじゃないかと思う。まあ成長させる要因は舞台だけでなく別の現場でもあると思うので、ここに閉じた話ではないかもしれないがとにかく濱田さんの成長ぶりに嬉しさを感じた。
そして、女性役を演じた南沢奈央さん。南沢さんの演技は、ウォーキングスタッフ・プロデュースの「岸辺の亀とクラゲ -jellyfish-」で初めて拝見したが、非常にナチュラルで魅力的な女性を演じられていた。
今作の演技は、どちらかというともっと子供っぽい女性に戻ったような印象。非常に家族ごっこを楽しむかのような無邪気な印象にとても惹かれた。濱田さんに合わせたという感覚があるのだろうか。
改めて思ったが、南沢さんは31歳であるが、非常に若々しい女優さんだなと思う。凄くピュアな感じをずっと保ち続けている女優さん。だからこそ、今回のような子供のように無邪気に遊べる夫婦を演じられたんじゃないかと思う。
赤ちゃんに戻ってワーワーいう感じ、指でスパゲティ食べる感じ、濱田さんとアイコンタクトを取って服を脱ぐシーン、全ての言動が子供じみていて可愛らしくて印象的だった。
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【舞台の考察】(※ネタバレあり)
正直今作は前述した通り、観客に伝えたいコト(メッセージではなく)は分かるのだが、そこに載せられた演出の必然性が感じられなかった上に、それぞれの会話にストーリー性がなさ過ぎて展開を全く予想出来なかったので、物語がすんなりと頭に入っていかなかった。
きっとこれは杉原さんの実験的で挑戦的な演出作品なんだと思う。杉原さん自体に演出家としての才能がないなんてことは全くなくて、敢えてそういう遊び要素を取り入れてみて、観客にどう受けるのか挑戦してみたのだと思う。きっと今回の経験を活かして、次回もっと大きなステップとなって素晴らしい作品を生み出すんだろうなと期待している。
私自身はこの「更地」という舞台作品を忠実に演出した作品を観劇したことはない。おそらくもっと静かな会話劇なんじゃないかと思う。それならもっとしっくりいく気がする。
そして今回の配役は初老であるにも関わらず、濱田さん、南沢さんという若手俳優を起用している。若手俳優を起用したのは杉原さんとしても、ちゃんと意図があることはパンフレットにも記載されていた。今までを振り返る過去の作品ではなく、これからを見据える未来の作品にしたかったからと。
もし杉原さんが得意とするようなラップの演出や、家族ごっこの遊び要素を取り入れた、そして若手俳優に元気に遊んでもらうような作品にしたいのだったら、「更地」という脚本自体をもっと大胆に脚色してしまった方がしっくりいく気がする。下手に戯曲に忠実過ぎるんじゃないかと。
この戯曲で観客に伝えたいメッセージってなんだろう。過去の記憶を一旦取っ払ってみて、新たに一から創り上げていくことの面白さなのか?ではその先にどのような嬉しさがあるのだろうか?いまいち自分もピンとは来ていないのだが、そこをしっかりと掘り下げた上で、一番この作品で伝えたいエッセンスだけを抽出した上で、そこだけは残しつつ後は今どきの舞台作品にマッチするように大胆に脚色して良いんじゃないかと思う。
世界観がファンタジーであるのなら、男性、女性もファンタジーの世界の住人で良いと思う。下手に文化堂の書店でとか、リアリティっぽくエピソードを使う必要はないと思う。
いや、戯曲のせいではないのかな。そもそもファンタジーとして創り上げられたエピソード一つ一つが物語として上手くつながってなくて、そのエピソードが登場する必然性みたいなものがなかったからかもしれない。脈絡がないから一つひとつのエピソードが非常に淡白になってしまって内容が頭に入ってこなかったのかもしれない。
それに加えて、必然性がよく分からないラップや指でスパゲッティや早起き、ピクニックみたいな演出が続いたから、一つ一つとしてのピースとしてのシーンはよく出来ているのに、繋がっていないから劇中で役者と話と演出がけんかしてしまって、一つの作品としての体をなしていないように見えた。
この「更地」という作品を再演するのは非常に難易度の高いことなのかもしれない。
静かな会話劇としての初老が演じる「更地」が見てみたくなったというのと、この経験を経て杉原さんの次回作に期待したいと思う。
【写真引用元】
ステージナタリー
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↓杉原邦生さん演出、濱田龍臣さん過去出演作品
↓南沢奈央さん過去出演作品