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舞台 「ジャイアンツ」 観劇レビュー 2023/11/25


写真引用元:阿佐ヶ谷スパイダース 公式X(旧Twitter)


写真引用元:阿佐ヶ谷スパイダース 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「ジャイアンツ」
劇場:新宿シアタートップス
劇団・企画:阿佐ヶ谷スパイダース
作・演出:長塚圭史
音楽:角銅真実
出演:大久保祥太郎、坂本慶介、志甫まゆ子、伊達暁、智順、富岡晃一郎、内藤ゆき、長塚圭史、中村まこと、中山祐一朗、村岡希美、李千鶴
公演期間:11/16〜11/30(東京)
上演時間:約2時間(途中休憩なし)
作品キーワード:ナンセンス、不条理、親子、家族、ヒューマンドラマ
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


現在では神奈川芸術劇場芸術監督を務める長塚圭史さんが主宰する劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」の新作公演を観劇。
「阿佐ヶ谷スパイダース」の公演は、2021年11月に『老いと建築』を観劇していて2度目の観劇となる。
前回観劇した『老いと建築』が非常に面白く、私が古い実家の母屋に住んでいた時に感じたことを、そのまま演劇でしか出来ない形で演出されていて感銘を受けたので、今回も新作公演と聞いて観劇することにした。
今作には登場人物の「あいつ」と「あいつ」の弟の秋次の役を入れ替えたAバージョンとBバージョンがあり、私はBバージョンを観劇した。

物語は、「私」(中山祐一朗)と当日パンフレットには記載されている年老いた男性と、「あいつ」(大久保祥太郎)という「私」の長男の話である。
「私」はアパートの一室の玄関に立っていた。
そこへ「あいつ」が姿を現す。
会話を聞いていると、「私」はしばらく「あいつ」に会っていなくて久しぶりに再会を果たしたようであった。
「あいつ」の家に通される「私」は、そこで「あいつ」の妻であるちえ(智順)と初めて会い挨拶を交わす。
すでに「あいつ」とちえの間には一人娘のモモコもいて、娘は今外出中でもう少しで帰ってくると言う。
「あいつ」の家族はわさび醤油漬けが好きだと聞いたので、2日後に「あいつ」の家に訪ねる時はわさび醤油漬けをお土産に持っていこうとするが、「私」が2日前と同じアパートに訪ねたつもりなのに、そこには別人が住んでいて「あいつ」のことは全く知らないと言い始めるが...というもの。

先述した冒頭のあらすじの通り、「私」はずっと息子の「あいつ」と会っていなかったが、彼と再会したことが幻だったのか否か分からない状態で話が進む。
そこに目玉探偵と呼ばれる存在が登場したり、「ケイトウ」と呼ばれる超常現象が出現したりと、話が進むにつれてますます観客を混乱させていく。
いわば、ホームドラマというよりは、ナンセンスものの要素が強い作品だった。
前回観劇した『老いと建築』は決してナンセンスものではなくホームドラマとしての側面が強かったので、同じ劇団なのにここまで作風が違ってくるというのは驚きだった。

ただ、少しネタバレをしてしまうと終盤まで伏線回収されずに終わる要素も沢山あって、個人的には観終わった後もずっと頭の中で疑問符が残る状態となり、ここまで説明されずに終わってしまうのはいかがなものかと思ってしまった。
程よい感じで、ラストで伏線が回収されずに複数の可能性を感じさせる程度の終わり方なら受け入れられるのだが、ここまで様々な要素を風呂敷を広げるように展開させておいて言及せずに終了するのは私の好みではなかった。
それに、劇中で出現する要素にも一貫性がないように感じて、スプラトゥーンだったりゴミ集積所だったり登場するが、その要素にした理由が全然分からず、ナンセンスものと言えどもっと上手い脚本構成があったのではなんて思ってしまった。

しかし、舞台空間の演出や役者の演技は皆素晴らしいもので、脚本の解釈は及ばなかったけれど凄く引き込まれた。
ステージ上には3つのパネルのみ存在するのだが、その3つを上手く移動させて様々な場面設定を実現させる点がアイデアとして面白かった。
また、やはりヒューマンドラマとしての話の焦点が父と息子の親子関係なので、中山さんが演じる年老いた父のあの演技力には引き込まれたし、息子との掛け合いも凄く良かった。
子供のことを思う年老いた父ってあんな心情になるのかと色々考えさせられた。

この作品は理解しようと努めるのではなく、このナンセンスっぽさを体感してどんな話の展開に向かうのかを色々と行間をイメージしながら観劇したり、役者の演技やそれぞれの人々の立場や人間性を堪能する演劇なのではと思う。
ぜひこの不思議な感覚が味わえる観劇体験を一度でも多くの人に体感して欲しいなと思った(11月29日より演劇配信アプリ「KANGEKI XR」にて配信予定)。

写真引用元:阿佐ヶ谷スパイダース 公式X(旧Twitter)




【鑑賞動機】

以前「阿佐ヶ谷スパイダース」の公演として観劇した『老いと建築』が面白かったから。長塚さんが劇団で上演する新作公演をまた観たいと思ったから。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

レンガ造りの壁に一つの窓があるアパートの一室の前に、「私」(中山祐一朗)がいた。そこに「あいつ」(大久保祥太郎)が現れる。季節は秋か冬のようで二人とも厚着をしている。どうやら二人の会話を聞いていると「私」と「あいつ」は親子関係のようで、凄く久しぶりに再会したようであった。「私」はここに川があったと話すが、「あいつ」はそれは何年も前の話だと言う。
「私」は「あいつ」の家にお邪魔する。ステージ中央には木造の一つの大きなテーブルが置かれている。「私」は、「あいつ」の妻であるちえ(智順)と初めてお会いし挨拶する。ちえも礼儀正しく「初めまして」と挨拶する。夫婦の話では、モモコという娘がおり、今誕生日パーティか何かで家を留守にしているのだと言う。もう少しで帰ってくると。
テーブルについて、「私」と「あいつ」は酒を飲み始める。どうやら「あいつ」の家はわさび醤油漬けが好きだと言って、「私」は今度買って持っていくと約束する。三人はモモコの帰りを待つ。
ここで「私」のモノローグが入り、この時「私」はモモコに会うことはなかったと言う。暗転する。

「私」の中では2日後、「私」はお土産のわさび醤油漬けを持って再び「あいつ」とその家族に会いにいく。玄関の前に立つ。その時、「私」の横にはいつも間にかジェントルマンのような黒い背広スーツとシルクハットのような帽子を被った男(長塚圭史)とその秘書のような人(李千鶴)がいつの間にいた。二人は色々と「私」に話しかけてくる。
「私」が玄関のチャイムを押すと、遠藤という男性が反応し、ここが「あいつ」の家ではないと知る。一昨日はここが「あいつ」の家であったはずなのに。遠藤はフェスで忙しいからとすぐにインターホンを切ってしまう。
紹介が遅れたと、ジェントルマンのような格好をした男は目玉探偵と自己紹介し、隣にいるのは緑秘書だと言う。「あいつ」探しのお手伝いをしたいと言う。
「私」は一つ部屋を間違えたかと、隣の家のチャイムを押す。すると今度は、大島という女性の声がする。「私」は首を傾げる。大島(村岡希美)が出てくる。「あいつ」という男は知らないし、隣に住む遠藤もずっと前からこのアパートに住んでいると言う。遠藤(富岡晃一郎)も玄関から出てくる。遠藤はどうやらスプラトゥーンのフェスで忙しいらしく、ずっとNitendo Swithをやっている。遠藤もずっとここに暮らしていると言う。「私」はずっと首を傾げている。
その時、一同の前を「あいつ」が通りかかる。あいつは夏物の格好をして薄着だった。「私」は話しかけるが、何やらビニール袋みたいなものを持っている「あいつ」は「私」を相手にせずに行ってしまう。
大島と遠藤は、向かいに新しく立ったタワマンの話をする。大して広くないのに高そうだと。「私」がタワマンの方を見たその時、空には花火が上がる。「私」が何事かと驚いていると、大島たちがゴルフ場のネットのあたりを指差し、あそこに目玉が浮かんでいるでしょ?覗き見されていると言う。この現象を「ケイトウ」と説明する。「私」は理解が追いついていなかった。
遠藤たちは缶ビールを持ってくる。花火を見ながらビールでも飲んで楽しもうと。みんなでビールを飲み始める。
その時、「私」は自分の目の前をちえが通りかかったことに気が付く。「私」はすぐさま話しかける。一昨日会った「あいつ」の父親だと説明する。しかしワンピース姿のちえは「私」に見覚えはないと言う。それに、「私」とはもう何年も前に離婚していると言う。「私」は驚く。「私」は一昨日わさび醤油漬けを持っていくと約束したではないかと言うが、ちえは首を傾げている。
それから、「私」は「あいつ」とちえの間に産まれたモモコという娘について話す。しかしちえは、モモコなんて娘はいないと言う。ちえは再婚して今の旦那と二人の息子がいると言う。「私」は狐に摘まれた感覚になる。しかしちえは、わさび醤油漬けには何か心当たりがあると何かを思い出そうとする。

場面は切り替わって、ここはゴミ焼却所。作業服を着た「あいつ」と東さん(中村まこと)がいる。その片隅には目玉探偵がひっそりと座っている。
東さんは先ほど、ゴミ袋で自分に体当たりしてきた奴がいたと怒っている。「あいつ」は、まだこのゴミ収集の仕事を始めたばかりのようでゴミよりも汗の量の方がヤバいと言っている。東さんは懐かしい、それはそのうち慣れると言ってくれる。「あいつ」は洗車へ向かう。そして東さんは、片隅にいた目玉探偵に大きな箱を渡し、「田中、しっかり仕事しろ」とまるで上司が後輩に仕事を振るかのような指示を出す。
三人は捌けると、大島と遠藤がやってきてゴミ焼却所の煙突を眺める。

場面は切り替わって、どこかの喫茶店。「私」と目玉探偵(伊達暁)が座っている。そこへあの日の店員(内藤ゆき)がやってくる。店員は目玉探偵がなかなか注文を決めないことに苛立っている模様で、色々急かしている。目玉探偵はそれが不快そうだった。
目玉探偵は注文するが、店員にそんなメニュー置いていないと言われる。しかしメニューにはそう書いてあると言う目玉探偵。色々店員と揉めた後に目玉探偵は注文して食べ物を作り始める。キッチンから調理中の音がする。

場転して、シーンは葬式になる。
緑秘書が葬式の受付をやっていて、そこに喪服姿の大島、遠藤、目玉探偵たちが参列している。「私」は喪服ではなく普段着だった。そこへ「私」の次男の秋次(坂本慶介)がやってくる。秋次はどうして私服で葬式にやってきたのだと「私」を叱る。さらに「私」の妻の由香(志甫まゆ子)もやってくる。由香も「私」が私服で「あいつ」の葬式に参列しようとしていることに驚き叱る。そして、葬式に参列するのだったらどうして連絡しなかったのかと叱る。それまで、こちらからあれだけ連絡したのにと。「あいつ」は火葬する前に焼けて死んでしまったので、もう顔を見ることは出来ないと由香は言う。
再びパネルが動いて場転する。
遠藤が何か探し物をしている。大島がどうしたの?と尋ねる。遠藤は何か大事なものを無くしてしまった気がするのだが、何を無くしたのだか思い出せないと言う。遠藤は手持ち無沙汰な感じで、なんか四角い感じのものだったようなといった素ぶりをする。二人で探し回る。
「私」と由香のシーン。「私」は由香に追及される。この前エリカの後を付けていたでしょと。その証拠の写真があると言って由香は「私」に見せる。由香は、野田もそれを目撃していると証言していると言う。「私」は必死でエリカをストーカーした訳ではない、違うと言う。

場転して、夜。ちえが玄関の前にいると、「あいつ」が酔っ払ったような感じで倒れ込むような感じで帰ってくる。ちえは呆れる。酒が臭く、また葉っぱでもやったのかとちえは険しい目になる。ちえは「あいつ」に今日は何の日だったか覚えている?と問う。「あいつ」は、「忘れた、とりあえずおめでとう」と酔っ払いながら言う。ちえは最悪と吐き捨てる。
ちえは、今日1日どんなことをしたかモノローグで語る。今日は水曜日で燃えるゴミの日、起きて朝ごはんを作って食べて、仕事へ向かう。メガネを買いに来た若い女の子にメガネを売る。家に帰ってきて夕飯食べて、1時間くらい動画見て、ランニングして入浴して、友人にメールする。そして夜外に出て今になる。
「あいつ」の今の仕事についてちえは文句を言う。前のレンタルショップで働いていた方が良かったと。

場転して、「私」、秋次、由香、ちえらがいる。由香はエリカの話をする。エリカは「私」と由香との間に出来た娘。エリカのことについて由香は「私」に話す。
「あいつ」は、自分がゴミ収集員として働く意義を語る。ゴミ収集員はゴミをエネルギーに変えて再利用させるのが仕事。本来はゴミとして役割を終えるはずだったものが、エネルギーとなって再び生活を支えるって凄いことだと。人間の多くは水分で出来ている。水分があるとエネルギーに代わりにくい。人間は年を取ると乾涸びて水分が減少する。だから自分は長生きしてエネルギーとなるのだと言う。
周囲は、そんな「あいつ」に圧倒して、長生きする理由がそれなのかと言葉を失う。
場転して、ゴミ焼却所。東さんと田中と呼ばれていた作業服姿の目玉探偵がいる。「あいつ」は交通事故で死んだのだと東さんは言う。その後、二人で「あいつ」の骨葬について話す。

「あいつ」は緑秘書とイチャイチャしている。そんな様子を目玉探偵に見られる。目玉探偵は緑秘書を叱る。
遠藤は、目玉探偵に連れられて物件探しをしていた。そして、この物件良いですねと遠藤は物件を気に入ったようである。目玉探偵は、この物件は人気ですからご連絡はお早めにと言う。
そこへ大島もやってくる。そして遠藤と大島の二人になる。遠藤は、まだ何か大事なものを無くして探している。しかし、大島は無くしてなんとかなっているのなら気にしなければ良いのではと言う。遠藤はポケットに手を入れて、するとどんぐりが大量に出てくる。物件にどんぐりが大量に落ちる。遠藤は去る。
大島は、スプ、スプ、なんとか、トゥーンと言って思い出そうとする。そして最後、「スプラトゥーン」と叫んで上演は終了する。

阿佐ヶ谷スパイダースの作品に不条理やナンセンスのイメージはなかったので、観劇中に完全に面食らってしまった。まさかこんな展開になるとは思っても見なかった。観劇する前の事前情報に関しても、父と息子の物語というぐらいの情報だったので、普通にホームドラマ、ヒューマンドラマだと思っていたのでかなり想定外だった。長塚さんもこんなナンセンスを描く人なんだなと知った。
ナンセンスとしての面白さは凄くある。たしかに夢を見ている感覚といった方が近いのかもしれない。私は父親になったことがないが、この作品を見て子供を持つ父親だったらきっと、この「私」を自分と照らし合わせてしまうんじゃないかなと思った。それによって、父親としてのあり方だったり、子供に対する愛情だったり深く考えさせられる所がありそうだと思う。
人物相関図が全く事前情報としてなかったので、誰が親で子供でそういう関係なのかを整理しながら見るのも楽しかった。それによってグイグイと集中力が上がっていった。
それ以外の要素に関しても、ゴミ収集員の気持ちをあんな感じで劇にするって独創的で新鮮だったし、タワマンや「ケイトウ」や目玉の話をして、観客にイマジネーションさせる点でも演劇的に上手い脚本だった。
しかし、ナンセンスだとしてもあまりにも最後伏線が回収されなすぎて困った。明らかに蛇足だと感じてしまうシーンもあるし、それがどういう意味を持つのかもわからないし、それを面白いと捉える人もいるのかもしれないけれど、そこは割とストーリーを好む私としては嫌うたちがあった。
もう少し目玉探偵だったり、「ケイトウ」だったりモモコという娘であったり、結局時間軸としてどうだったのかを理解できるようにして欲しかった。ちょっと回収しなさすぎに感じた。

写真引用元:阿佐ヶ谷スパイダース 公式X(旧Twitter)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

舞台セットはレンガの壁を表す3枚のパネルだけのシンプルなものなのに、その最小限の舞台装置を巧みに使って様々なシーンを再現していたので素晴らしかった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順で見ていく。

まずは舞台装置から。
先述した通り、ステージ上には3枚のパネルがあるのみ。その3枚のパネルが上手から下手にかけて横に並んでいる。上手側、下手側の一枚はそれぞれ片面だけレンガの壁のような装飾がなされている。中央の1枚のパネルは、四角い窓が取り付けられている。そこには花瓶に挿された植物も置かれていた。非常にアメリカの家のような外国っぽさを感じさせる装飾だった。
そのパネルを上手く移動させることで、別のシーンであることを上手く観客に伝えて演出している点が見事だった。たとえば、3枚のパネルを孤を描くようにカーブさせて設置したりすることで別のシーンであることを伝えていて面白かった。
さらに、パネルをひっくり返しにすると、反対側にはレンガの模様は描かれておらず、ただ黒い壁になるのだが、それを活かして葬式のシーンを作り上げている点も上手いと感じた。窓に該当する部分には黒い四角い板のようなものを嵌めることで窓を無くしていたのも良かった。さらに、屋内のシーンというのもあって、例えば「私」がちえに初めて会った時がそうだが、その屋内のシーンも上手く黒い壁を使って舞台空間を作っていた点も良かった。

次に、舞台照明について。
何か特別にインパクトの残るような舞台照明があった訳ではないが、印象に残るのはやはり花火のシーンの照明だろうか。花火が上がっている感じをパッとカラフルに薄くステージ上を明るくすることで演出していて良かった。たまに、花火を舞台照明を使って演出する舞台に遭遇するが、夏を感じさせて良い効果だなと思う。
あとは、劇終盤で「あいつ」がゴミ収集員としての仕事のやりがいを語るシーンの舞台照明が凄く良かった。凄く良かったというか、台詞的に舞台照明に目が行ってしまった。「あいつ」が長生きしてエネルギーになりたい、のような再生エネルギー的な側面でモノローグを語るシーンがあるが、どこかこの台詞から今のご時世と照らし合わせてしまった。持続可能な社会作りを目指すのような、エコ的なことを想起しながらこのモノローグを聞いていたが、エネルギーの話になるとやはり自然とつられて舞台照明に目が行ってしまう。その時に、わりと黄色や水色といった明るいカラーで舞台照明が照らされていたので、どこかそのシーンの舞台照明にはエコの視点でエネルギーを考えさせるような要素があって、それが舞台照明とハマっていて好きだった(上手く言えませんが)。

次に舞台音響について。
度々挿入される寂しげなメロディの曲が、観客の心を掴んでいたような気がした。絶妙にかかるゆったりとしたテンポの音楽が、この不条理な物語にドラマを生んで不思議な感覚にさせられた。
あとは効果音も良かった。玄関のチャイムに続き、インターフォンの声、花火の音、喫茶店で調理をする音。特に印象に残ったのは、長い時間の暗転があった時にずっとゴミ焼却場の環境音がしていたシーン、これが印象的だった。訳あって暗転の時間が長かったシーンだった(割と道具をセットしてなどが暗転中にあったから)が、その間にずっとゴミ焼却場の音が聞こえてくる芝居は珍しい。凄くイマジネーションを掻き立てられたし、その暗転によってより世界観に没入出来た感じもあった。効果音のチョイス編集センスも含めて良かった。

最後にその他演出について。
開演してすぐのオープニングのシーンで、複数の役者が3枚のパネルの周囲をグルグル歩く演出が印象的だった。たしかに、今終わってからあの演出の意味を考えると、ここから夢の中の物語が始まりますよという宣言だったようにも思える。ちょっと狭くて歩きにくそうな時もあったが良かった。
「私」が最初に「あいつ」に出会ってちえと初対面したシーンが服装からして冬で、その後遠藤や大島に出会ったシーンでは夏になっていたのが演出として興味深かった。この時点で、観客は周囲が勘違いしているのではなく、「私」という本人が時間を超越している、もしくは無意識的にタイムスリップしているとすぐに判断出来た。この辺りの仕掛けも面白かった。
謎に思ったシーンや演出は沢山あったので考察パートでまた記載したいと思う。

写真引用元:阿佐ヶ谷スパイダース 公式X(旧Twitter)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

全キャスト「阿佐ヶ谷スパイダース」の劇団員で送る今作は、どの方も非常に演技が上手くて引き込まれた。前回公演は吉祥寺シアターだったので、役者の演技を遠くから拝見していたが、今作は新宿シアタートップスという小劇場で、役者陣の演技を間近で感じられたので良かった。
特に素晴らしかった役者について記載する。

まずは「私」役を演じた中山祐一朗さん。中山さんの演技は、2021年9月にワタナベ・エンターテイメント×オフィスコットーネの『物理学者たち』で演技を拝見している。
あの白髪まじりの伸び放題に伸ばした髪型(といってもロン毛ではなく髪の量が多いということ)は、どこか落ちぶれて元気のない初老という感じがあって、役所広司さんなども似合いそうな役だなと思いながら見ていた。
自分は父親にもなったことがないし、ましてや息子を思う気持ちなんてまだ分からないが、しばらく家族と会わなくなってしまって、家族との時間をもっと大切にしておけば良かったと後悔する姿には凄く心を動かされた。
「あいつ」という長男に何か言われたり、妻の由香に何か言われたり、次男の秋次に何か言われたり、こんな無様な初老にはなりたくはないなと思った。自己保身に走って、色々と否定はするが家族を大事にしてこなかったことだけはよく伝わってくる。
一方で、家族に会わないとマズイと思って、「あいつ」に会いに行こうと必死でもがく姿は魅力的だったし、凄く良かった。そこに感情移入した。
また、年老いていってあまり元気がない感じを演技で表現するのが上手いなとも思った。その脱力感が役としてハマっていた。

次に、「あいつ」の役を演じた大久保祥太郎さん。大久保さんの演技は、2022年9月にイキウメの『天の敵』で演技を拝見していた。
父親である「私」と話す時にちょっと不貞腐れている感じのキャラが凄く良かった。
個人的には、この物語の主要人物であるにも関わらず、この「あいつ」の心境がイマイチよく分からなかった。これはきっと「私」目線で物語を覗いているからなのだろうか。時系列ごちゃ混ぜで、「私」自身も「あいつ」のことを分かってあげられていないから、この作品を見てもどうも「あいつ」という人物が見えてこないのかもしれない。
終盤のゴミ収集員として働き始めて、エネルギーの話を熱烈に語り出したシーンは印象的だったが、どうも彼の人となりは見えてこなかった。きっとそれは「私」にとっての「あいつ」という存在そのものなのかもしれない。息子なのだけれど、どこかとっつきにくい、よく分からない部分がある。そんなことを感じるキャラクター設定だった。

個人的に印象に残ったのは、ちえ役を演じた智順(ちすん)さん。智順さんの演技を拝見するのは初めて。
まず奥さんとして素敵な方だなと感じながら見ていた。凄く清楚な感じがして、「あいつ」もこんな奥さんがいたら絶対幸せだろうなと思いながら観ていた。
特に印象に残ったのは、物語後半で夜に「あいつ」が酔っ払って帰ってきた日のちえの1日をモノローグで語っていたシーン。水曜日は燃えるゴミの日といって、自炊して仕事して家に帰ってきてという生活を語る感じが凄くエモーショナルだった。そのイマジネーションもモノローグで語るこらこそ演劇的で良かった。よくYouTubeなどでユーチューバーのナイトルーティンとかモーニングルーティンとか上がっているが、それを覗き見したように感じた。凄くエモーショナルだった。

個人的に好きだったのが、遠藤役を演じた富岡晃一郎さん。終演後に気がついたのだが、富岡さんはぱぷりかの『柔らかく搖れる』(2023年9月)に出演されていた方と分かって驚きだった。『柔らかく搖れる』に出演されていた時と印象が全く違ったから。
スプラトゥーンに熱中する青年という設定がとてもリアリティあって面白かった。たしかに休日はずっとNintendo Switchでゲームやっている社会人とかいそうだから。あの黒縁メガネの感じも凄くゲーム好きそうだった。
しかし、ある日突然スプラトゥーンを忘れてしまう。何か大事なものを忘れたことだけは覚えているが、何を忘れたのか分からない。残酷だった台詞としては、忘れてしまっても今の生活があるということは、別に必要ではないものだったという台詞。これってエンタメやアートには通じるものなんじゃないかと思ったから。演劇だって、今はこうして熱中しているかもしれないけれど、何十年と時間が経って、あの頃何かに熱中していたが覚えていないという機会に遭遇しないとも限らない。スプラトゥーンもそうかもしれないが、娯楽ってそういう宿命だというのを暗に描いている気がしてゾクっとした。

あとは、大島役を演じた村岡希美さんも良かった。
村岡さんの演技は、様々な舞台で演技を拝見させて頂いているが、どんな役も卒なく熟されていて自然と見入ってしまう魅力がある。今作では、富岡さん演じる遠藤とのコンビがとても良かった。
遠藤はゲーム好きで、大島は娘がとっくに親元を離れてしまった女性という年齢差も離れたコンビだったが、凄く噛み合っていて不思議なくらいだった。

写真引用元:阿佐ヶ谷スパイダース 公式X(旧Twitter)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

まさか長塚さんがナンセンスものを上演するとは思っていなかったので、観劇中面食らっていたが、たとえナンセンスものだったとしても、ここまで設定が伏線回収されなすぎるとモヤモヤが残る。
プレトークやバックステージツアーは都合により参加出来なかったので、公演パンフレットは読んでみたのだが、少し作品への理解度は上がったものの、それでも全然理解が深まらなくて消化不良だった。
ここでは、公演パンフレットで読んだことを踏まえて、自分なりに今作を考察し、分からなかった部分を記載しておくことにする。

今作には、目玉探偵という存在が登場する。長塚圭史さんや伊達暁さんが演じていたキャラクターである。目玉探偵は、どうやら過去の阿佐ヶ谷スパイダースの作品にも登場したことがあり、それが2011年の『荒野に立つ』という作品である。その時の目玉探偵の立ち位置としては、他者の体験を代行する潤滑油のような存在だという。
しかし、今作に登場させる目玉探偵は、そんな潤滑油的な体験を代行する立場ではなく、登場人物と一緒になって物語を構築していく立場となっている。
そこで疑問に思ったのが、なぜ目玉探偵をそこまでして出現させたかったかである。その意図が公演パンフレットを読んでもあまりピンとこなかった。長塚さんの言葉を借りると、目玉探偵に他者の体験を代行させるようなことはやったので、今度はもっと俯瞰的に目玉探偵も一人の登場人物として登場させたかったということらしいが。
それだと目玉探偵というアイデンティティは失われてしまうし、もっと他者の体験を代行させる側面を保たせながら、新しい要素を取り込めば良かったのではないかと思った。

今作では、そのもっと俯瞰的な立場という設定で、ゴルフ場のネットの上に浮かぶ目玉を取り上げている。作中では「ケイトウ」と呼ばれている。これは私の解釈だが、この「ケイトウ」で出現する目玉こそがタイトルにもなっている「ジャイアンツ(巨人)」のことなのかなと思う。
劇中では、この目玉は誰のものとも言われていない。もしかしたら自分の目かもしれないと。ストーリーを考察すると、おそらく「私」が最初に「あいつ」に出会ってちえと初対面したタイミングでは「ケイトウ」は起きておらず、「私」が大島と遠藤に出会ってタワマンの方を向いた矢先に花火がなって「ケイトウ」になったと思われる。花火がなった途端に世界が変わるって、なんだか『今際の国のアリス』を思い出す。
しかし目玉探偵自体は、「私」が遠藤の家にチャイムをするタイミングから登場していたので、この時から「ケイトウ」は起きていたと言ってよいのか、それとも「ケイトウ」と目玉探偵は別物なのか。ここも良く分からなかった。

そこからずっと「ケイトウ」は起きていたのだろうか。もし目玉探偵と共に「ケイトウ」が出現していたなら。残りのシーンはずっと「ケイトウ」状態ということであろう。ラストまで目玉探偵がいたので。
しかし「ケイトウ」への言及が、物語序盤だけだったと感じたので、いつこれが回収されるのかが分からず、これではちょっと脚本として投げやりではと思ってしまった。
ただ、ここで面白いのは、目玉探偵が徐々に普通の登場人物と馴染んで溶け込んでいくことである。長塚さんが演じる目玉探偵は、東さんからごみ収集員の新人の田中だと呼ばれるし、実際ラストではごみ収集員の作業服を着ていた。緑秘書も葬式の受付をやったり「あいつ」とイチャイチャしたりしていたし、伊達暁さんが演じた目玉探偵もラストでは不動産職員になっていた。
しかし、この目玉探偵が徐々に作品に取り込まれていくということ自体にも、個人的には何も解釈を見出せなかった。先述した通り、長塚さんは今作では目玉探偵を他者の体験の代行ではなくしたと言っていたが、それによって見出される新たな側面が全く分からなかった。

この作品で深く考えさせられたことが3点ほどある。
一つ目は、父と息子の関係について、家族を放置してしまって息子が先に亡くなってしまうと永遠に会えなくなってしまうということ。後悔先に立たずであること。その後悔が「私」という存在から滲み出ていた。
二つ目は、仕事一心になってしまうと家族を顧みなくなること。「あいつ」はごみ収集員として夜遅くまで仕事してへとへとになると、妻のちえも心配してとの関係も不和になってしまうこと。さらに、「あいつ」が交通事故に遭って死んだのも、働きすぎていたというのもありそうである。
三つ目は、遠藤という人物を中心に考えると、スプラトゥーンのようなエンタメは今は大事なものだと思っても、一度忘れてしまうと思い出せない。というか、忘れてしまっても生活が出来てしまうものであるということである。これはかなり心打たれて印象的だった。
この三つに関しては、現実世界でもイメージがつく要素で考えさせられた。ナンセンスものは、やはりストーリーとして脈絡がなくても一部を切り取ると日常生活にも通じる側面があるから面白く感じたりする。
ただ、なぜこのエッセンスを入れたのか、この3つの関係性はどうなのかといった点は分からなかったので、もっと全体構造として脚本を精査して欲しかった感じはある。

最後に、この作品で全く分からなかった箇所について記載して終わる。
伊達さん演じる目玉探偵が、喫茶店でメニューを注文する時、店員が凄く不機嫌だったシーンは何を意味するのか分からなかった。前後のストーリーと全く繋がらないのでただ興味本意でいれただけ?と思ってしまった。
エリカの存在についても意味分からなかった。おそらくストーリー上は「私」と由香との間に出来た娘らしいのだが、まるで不条理な会話すぎて設定を捉えきれなかった。

あとは、ラストは遠藤はスプラトゥーンのことを思い出せなかったが、大島がスプラトゥーンを思い出したので、おそらくそれを遠藤に教えるはずなので、遠藤は再びこのアパートに引越してスプラトゥーンを始めそうな気がする。そうなると、脚本自体が一周してまた序盤のシーンに戻るのではとも思った。ループするんじゃないかと。
でもこれってたしかにそうで、エンタメってハマったり離れたりを繰り返すものな気がする。自分も学生時代に演劇部をやっていて、一度離れて再び観劇者として演劇の世界へ足を踏み入れている。そうやって、エンタメは熱量の強弱によってサイクルするものだから、そんなことを描いているようにも個人的には感じた。

ただ、いずれにせよ回収されない箇所が沢山あったので、もう少し全体に一貫性を持たせて欲しかったのと、そうでなくても役者の演技や演出によって作品自体にはずっと没入出来るのだなと思った。

写真引用元:阿佐ヶ谷スパイダース 公式X(旧Twitter)


↓阿佐ヶ谷スパイダース過去作品


↓中山祐一朗さん過去出演作品


↓大久保祥太郎さん過去出演作品


↓坂本慶介さん過去出演作品


↓富岡晃一郎さん過去出演作品


↓村岡希美さん過去出演作品


↓長塚圭史さん過去出演作品


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