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魂魄が解き明かす、鬼の姿

割引あり

推奨: 前章の「魂魄」の説明を読んでから進めることで、更なる理解が得られます。


「魂魄思想」と「鬼」の関係性

「魂魄」という言葉は、古代の哲学や宗教において中心的な役割を果たしてきました。この言葉は、私たちの存在の本質と、その存在を取り巻く宇宙の謎を暗示するものです。そして、この言葉の中には「鬼」という文字が隠れています。

「魂」の文字には「云」に「鬼」が組み合わされており、これは空気や霧のような流れる存在を示す「云」と、エネルギー、力強さを示す「鬼」が融合したものです。この組み合わせから、私たちが感じる感情や意志の流れ、つまりは「精神的なエネルギー」を象徴しています。このエネルギーは私たちが喜び、悲しみ、怒るとき、その全ての感情の背後にある動力です。

一方、「魄」の文字は「白」に「鬼」が組み合わさっています。こちらは物質的なエネルギー、つまり私たちの肉体を支える骨を意味しています。この「魄」は、私たちがこの世に生を受けた時からの存在で、死後も何らかの形で宇宙の中に存在し続けるとされています。


かつて鬼は、身近な存在だった

守護の役割としての「鬼」

「鬼」という言葉を聞くと、たちまち異形の姿やその恐ろしさを想像する人が多いでしょう。しかし、この先入観は、古代の文化や宗教の中での「鬼」の役割を十分に理解していないことを示しています。実際、歴史の流れの中で「鬼」は、恐れや敵意の対象としてだけでなく、宇宙や自然、社会の秩序を保つ守護者としての大切な役割を果たしてきたのです。

古代の人々は、彼らの生活を取り巻く自然現象や宇宙の秩序を理解し、解釈するために多くの神話や伝説を生み出してきました。その中で「鬼」は、人々の安全や調和を守る守護者としての位置づけがなされてきたのです。この考え方は、古代中国の思想、特に道教や儒教において顕著に見られます。

道教では、宇宙は絶えず変動し続けるものとされ、その中でのバランスや調和が非常に重視されています。このバランスを維持するための力、それが「鬼」としての守護の役割として考えられていました。鬼たちは宇宙の理、または「道」に従い、人間界の乱れや不調和を正す役割を果たしていたのです。

儒教においても、「鬼」は似たような役割を持っていますが、こちらはより社会的、道徳的な側面での守護が強調されます。人々の行動や態度が天命や宇宙の理に反しているとき、鬼が介入し、人々を正しい道に導くとされていました。

日本においては、平安時代の日本で編纂された日本最初の百科事典『和名類聚抄』(わみょうるいじゅしょう)に、鬼についての記述の中に鬼の語源とされる説が記されています。

「鬼魅類第十七」
「鬼魅類第十七 鬼 四聲字苑云鬼居偉反和名於爾或説 云隠字音於尒訛也鬼物隠而不欲顯 形故俗呼曰隠也人死魂神也一」

訳:『字苑』によると、鬼は「居偉」の反で、「於爾」(オニ)という和名がある。あるいは「隠」(イン)という字の音が「於尒」(オニ)と誤って伝わったものだとも言われる。鬼は、隠れて姿を見せない存在であるため、俗に「隠」(オヌ)とも呼ばれる。また、死んだ人の魂や神とも言われる。

とあります。事実、秋田県のおもに男鹿半島地域で行われる「なまはげ」は容姿が鬼のようではすが、来訪神として古く地域の風紀を守り、村人を守る、五穀豊穣と無病息災の守護者としての伝統的な存在です。鬼には、日本において超自然的な存在、また、霊魂や神としての位置づけがあったことが伺えます。

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