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僕は「だし」をなめていた

8月22日から26日まで、夏期休暇をつかって、福岡・博多に旅行をしていた。今回の旅のメインは、「茅乃舎 (かやのや) 」。

茅乃舎は、「だし」が人気というイメージだった。先輩や知り合いから「ふつうのお味噌汁が2段階グレードアップする」と言われていたので以前から知っていたけど、これまで食べたことはなかった。

今度福岡に行くんです、と話をしたら「茅乃舎は、福岡にある久原本家がやっているんだよ」と教えてくれた。

サイトを見てみると、レストランが福岡にあるらしい。今回の旅行では、いつかしたいことをしようと考えていたので、せっかくだから、福岡の篠栗にある「レストラン茅乃舎」に予約してみた。電話口で「東京から行くんです」と話すと、スタッフの方が「送迎バスを出しますよ」と言ってくれた。

当日。19時から予約していたので、20分前に篠栗駅に着くと、送迎バスの運転手さんが待ってくれていた。

今日の19時台の人は、僕だけだった。たった一人のために、大型のバスで連れて行ってくれる。ありがたいなぁと思った。

10分ぐらい走っていると、ちょうど夕焼けが目の前に差し込んできた。

思わずシャッターを切った。こういうとき、言葉で感動は伝えきれない。それに、そのときに撮った写真からしか記憶を思い出すことはできない。忘れないために撮る。カメラを持ってきてよかったと思う。

合計20分ぐらい走って、やっと到着。少し雨がぱらついてきた。

「いらっしゃいませ」

愛想のよいスタッフが話しかけてくれた。茅葺き屋根は屋根が高く、開放感があった。すべて予約制だそうで、僕が予約した19時台でも結構人がいた。

案内されて席に向かうと、自分の名前が花文字で書かれた紙があった。まず驚く。そして、だんだんとうれしくなる。たった、1回のために、名前を書いて印刷して出迎えてくれる。うれしかった。

そして、コースを説明してくれた。今回予約したのは、「芽(めぶき)」コース。まずは前菜。詳しい名前は忘れてしまったけど、味がしみていておいしかった。積極的ではないけど、はっきりとおいしさが伝わってくる野菜たち。

続いて、大地の恵スープ。根菜をベースに、かぼちゃと蓮根が入っていた。量がすくないからゆっくりと飲んだけど、あまりのおいしさにびっくりした。野菜がしゃきしゃきだった。トマト豆腐スズキのもろこし焼(とうもろこしのソースをかけたもの)を終え、メインの鍋がやってきた。

これが、メインの「十穀鍋」。そもそも、「茅乃舎のだし」が世に出回るようになったのは、ここのレストランで出されている味があまりにもおいしかったからなのだそう。そんな、多くの人がおいしい!という味を食べられるなんて。ワクワクしながら待っていて、いい頃合いになると、スタッフが鍋を開けてくれた。そして豚肉を入れる。

「少し時間を置いて、(肉の)色が白くなったら食べ頃のサインです」と言う。肉ができあがるまでに待ち切れなくなって、少しだけと思いスープをすくう。器によそって口に運ぶ。…染み渡る。「十穀鍋」というぐらいだからいろんな穀物が入っているのはわかっていたけど、それぞれがおいしさを主張しあいながらも、ひとつにまとまっていた。それが「だし」の力なのだなぁと思った。

これまで、だしの力は理解しつつも、なめていたように思う。

ほんとうの最初は、だしなんてなくてもよくないかと思っていた。味噌汁なんだから味噌を入れていればよくないか、と。でも、まったく違うんだなと実感した。それは、旅行の最終日に、天神店の茅乃舎で「茅乃舎だし」をすこし飲ませてもらったときにも同じことを感じた。「だし」ってすごいぞ、と思った。縁の下で、しっかりと味を下支えしている。

スープがあまりにもおいしくて、肉が出来上がるまでに何杯も飲んでしまった。あまりに飲み過ぎるとなくなってしまうと思い、あわてて手を止めた。お肉と一緒に食べると、お肉の柔らかさと一緒に十穀を口のなかで感じてまたおいしい。来て良かったと思った。

こういうとき、感動を共有する相手がほしいと、心から思う。今回はひとり旅だったから余計にそう思う。一人旅のいいところは、自分ですべてスケジュールできるところ。だらだらする日、がんばって遠出する日など、好きなように決められる。食べたいものを食べたいときに好きなだけ食べることができる。一方、誰かと旅行するときには、相手の希望にも添わないといけない。スケジュールを合わせて行きたいところをあらかじめ決めてスケジュールをつくる。

ひとり旅をして思うラクさもある一方で、やはり旅の思い出はひとりで味わうものではないなぁと、茅乃舎のレストランでひしひしと感じた。

以前、語尾の「ね」には相手を思う気持ちがあるのだと誰かが話していて、その通りだと思った。「おいしいね」と独り言のように言うには難しくて、今回の旅では「おいしいなぁ」とよく言っていたように思う。

〆に出てきた土鍋のご飯も、おいしかった。炊きたての白米を、卵と一緒にかき込む。贅沢だった。味噌汁もだしが効いていておいしかった。味噌汁に納豆をすこしいれるんだそう。

最後に、蓮根餅の黒蜜がけを甘味に、ネルドリップで淹れたてのコーヒーをいただいて、お会計をした。

そして再度最寄り駅の篠栗駅まで送迎をしてもらい、電車で天神駅まで戻った。

こうやって書いているときには、すでにお土産として「茅乃舎だし」をスーツケースに忍ばせている。まんまと乗せられているような気がしているけど、本当においしいものを食べて、それを友達にも味わってもらいたくて、お土産として買うという体験自体がすごくよかった。

家についたら、このだしでお味噌汁をつくってみよう。楽しみだなぁ。


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平野太一
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